3、お気楽なヤツとの旅
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所々に水たまりがあったが、ほどほどに晴れていて薄日も差している。朝は凍えそうになったが、午後には何とか暖かくなった。
ゲンブルンはヴァーバルの北隣りの国だ。目指すクラはゲンブルンを通り越した領土の北部にある。日にちにして、歩いてなら三日ほどかかる。途中、宿場町やゲンブルンに宿を取る予定にしている。
…しかし、そんな予定などは何も考えてないんだろうなと思われるヤツらが目の前にいる。気楽というか、責任がないというか。
「ねぇ、ジェンスは、何でゲンブルンに行きたいん?」
アルの帽子の下に束ねた髪が揺れているのが気になる。いつも思うのだが、コイツらは、どうしてこんなに髪を伸ばしたがるのだろうか。目障りだ。この邪魔な髪を切り落としてやったら、どれほど胸がすくだろうか。
「何だと思う?当てたらイイ物をあげるよ」
「エエもんって何?」
「当ててからのお楽しみだよ」
取り留めのない話をしながら歩く二人のうしろ姿。邪魔だの足手まといだのと口では言っているが、これはこれでにぎやかで見飽きず、まぁ、本当はそんなにイヤではないのかも知れない。
今日はゲンブルンまでの道のりの中で、一番の難所の森を抜けなくてはならない。早朝に森に入り、日暮れまでには森を抜け、首都ゲンブルンに着く予定であり、また、着かなくてはならなかった。
賊や獣が多いことが難所と言われるゆえんだ。森を抜ければゲンブルンまで距離はないのだが。
ほとんど獣道と化した街道を北へと進んだ。だが、おかしいことに日没近くなっても森は深まるばかりで、いっこうに抜ける気配はなかった。
「なぁ、いつ着くん?もう、日ぃ暮れてきたやんか」
何回目か。アルに同じことを言われ続けてきた。間違いはないはずだと、かたくなに押し通してきた。顔には出さなかったが、さすがに俺まで不安になり、二人を止めて地図を見る。
「あれー、この地図、古いんじゃないのかい?」
横から覗いてきたジェンスがとんでもないことを言った。
「なんやねんそれ!」
「たしか、二、三年くらい前に、新しい道ができたのじゃなかったかなぁ」
「えーっ?!そんなん、何で、はよ言ってくれんかったん??」
アルの言うとおりだ。古い地図に気づかなかったのも悪いが、間違いが分かっているのならば早く指摘してくれれば良かったものを。どうりで街道のくせに獣道になっていると思った。誰も通らないから道が道でなくなっていたワケだ。
「邪魔をするのも悪いと思ったんだよ」
ジェンスは小首をかしげて微笑んだ。
………一瞬でもコイツに常識を求めたのが間違いだった。
「賊やら猛獣やらバケモン出るんやろ?!そんなところで寝られるかいな!」
バケモノは出ないだろうが、残りの二つは否定できないから始末が悪い。
「歩き回るほうが危険だよ。今宵は森の妖精と語らいながら、落ち葉に包まれて眠るのも乙なものだよ」
そう言ってジェンスは鼻歌を歌い始めた。あいかわらずノンキなヤツだな。
アルは口を尖らせ、恨みがましい上目遣いで俺をにらむ。自分で好き好んでついてきたのだから、俺が恨まれる筋合いはないんだが。
完全に闇に包まれてしまう前に判断しなくてはならない。進むのはあきらめたほうが良いだろう。
森の中にちょうど良い開けた砂地を見つけ、手分けして燃料になる物をかき集めた。
風向きで煙が目にしみる。煙の立ち上ってゆく空を見上げると無数の星が見えていた。澄み切った夜空は申し分ないのだが、気分的にはそれどころではない。




