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2、おジャマ虫ども



………………




「えー、ゲンブルンまで行くん?俺もついて行ってもエエ?」


 鳶色の目を見開いて大きな声で言う。予想どおりだ。


 夕方、ちょうど訪ねてきたアルに今回のことをかいつまんで説明した。案の定、話すなり二つ返事で乗り気な答えが返ってくる。



 アルは本当はエアリアルという名だが、俺とじっちゃんだけは略してそう呼んでいる。


 コイツとは腐れ縁で、付き合いは、かれこれ十年になる。俺はコイツを一番の友だと思っている。いや、友というより弟みたいに思っている。


 単純そうなくせに偏屈で複雑なところがあり、プライドはゼロかと思いきや変に気位の高いところもある。はっきり言って、よく分からないヤツだ。


 くちやかましいが、まあ、根はおとなしいお人よしと言える。




「ねーねー、ゲンブルンって、めっちゃ街がキレイなんやろ?楽しみやなぁ」


「お前は遊びに行く気か」


 ついて来ても良いとは言ったものの、曲がりなりにも仕事だ。しかし、そんな気は、さらさらないらしい。



「分かっとるわ。でも、街見て回るぐらいはエエやろ、ケチ」


 やはり、遊ぶためについてくるつもりらしい。




「じゃあ、おばちゃんに許可もろてくるわ」


 アルはそう言い残して部屋から出て行った。戻ってくるまで少し時間がかかるだろう。寝転んで待つことにする。






 やっと雨は上がったが、地鳴りのような遠くの雷鳴が聞こえていた。名前も知らない鳥のさえずりが聞こえている。


 サンが半開きのままになっている戸から音もなく入ってきて、俺の顔色を窺う。ヒラリと飛び上がって、仰向けに寝ている俺のハラの上へ乗って丸くなる。頬の下辺りをなでると、金色の目を糸のようにする。アゴを上げて喉を鳴らす。


 もう十年は生きている猫だ。寒くなると、俺の上で丸くなるのを日課にしていた。




 部屋の戸がスッと開いた。サンが目を開ける。アルだ。家までそんなに近かっただろうか。


「何だ」


 寝転んだまま目線を遣って俺が問うと、アルは頭をかいているだけで、ただニタニタしている。イタズラをする時の顔をしている。


「なぁ、俺がついていったら、邪魔?」


「ああ」


「もう一人、増えたら、どない思う?」


 内開きの戸を半分開け、上半身だけのぞかせてニタニタする。嫌な予感しかない。



「そこの道でジェンスに会ってん」


 アルは、そう言って戸をいっぱいに押し開けた。



「やぁ」


 白く長い髪に中性的な顔、枝切れのように細い優男が片手を差し上げて満面の笑みをたたえていた。



「ゲンブルンまで行くそうだね。僕も行ってもイイかい?」



 よけいなヤツが現われた。


 コイツは誰にも知られてないからこそ、こうして好き勝手に街を徘徊することができているが、正体が判ればもってのほかだ。コイツはヴァーバルの国王の嫡男、早い話が世継、次期国王だ。



 生来の変わり者で、まつりごとを嫌い、父王と折り合いがつかず、こうしてフラリと居城を抜け出してウチへと遊びにやって来る。正体を知っているのは俺とアルだけだ。


 普段、城では黒髪のカツラを着けている。黒髪の父王にも母后にも似ない銀髪のため、それを隠すように周囲に言われてのことらしかった。まあ、そんな変装はあってないようなもので、よくバレないなといつも思う。




「ねえ、聞いているのかい?」


 二人が俺に向かって何か言っていたが、俺はぜんぜん聞いていなかった。





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