四、『ダメ……かな?』
図書委員長・久楽 法子さんの武霊・無限図書館司書ルルラによって、やたら丈夫だったルシフェルが瞬殺された。
脳内ディスプレイでその時のシーンを再生してみると、瞬間移動で現れると同時に、ルルラが自身の両手を太ももに撫でるように触れる。次の瞬間、ルシフェルの身体に銀色の串が無数に突き刺さった。
目・喉・心臓と容赦なく急所に突き刺さったためか、一瞬で具現化が解除され、消え去るルシフェル。
本来の視界の中では、落下する黒丸君と一緒に、ルルラも落ち始め、二人一緒に消えていた。
黒丸君は逆鬼ごっこの転送退場だろうが、ルルラはどこかに瞬間移動しただけだろう。
PSサーバントの全身に設置されている副眼カメラと、周囲に展開しているサーバント達の目を使い、いつ、どこに現れてもいいように警戒する。
のだが……ん~……現れないな……
いつまで経ってもルルラが襲い掛からないことに戸惑いつつ、オウキの方を確認してみるが、そっちにも来ている様子はなかった。
ん~……とりあえず、こっちに合流してくれオウキ。お前が戻り次第、学園大門に向かう。
オウキと合流後、慎重に学園庭園まで移動を開始した。
途中、残存している委員会連合以外の子に散発的に襲われたりしたが、サーバント達だけで対応できる程度だったので、俺はその余力で思考をめぐらす。
とはいえ、いくら考えても、どうにも久楽さんの考えがわからない。
逆鬼ごっこを三日間単独で生き残った黒丸君を瞬殺するほどの実力者だ。あのままこっちに攻撃していれば、俺を無力化するぐらい造作もなかったと思うんだがな……ああ、なるほど、つまり、そういう制限が掛かっている武霊能力なのか? 一回武霊能力を使用すると、次に使用するには特定の条件か時間が必要になる。だから、直ぐに俺を襲わずに、まずは邪魔になる黒丸君を退場させた。ってのが、今のところ一番しっくりくる久楽さんの行動理由だが……勿論、あくまで可能性の話であって、これで思考を固定するのは危険だろう。確証を得るまで、武霊能力に制限はないと考えるべきだ。となると、あの瞬間移動と瞬間攻撃は厄介だな……
ルシフェルの身体に突き刺さった銀色の串は、投げ刺されたというより、いきなり現れて刺さっていたように見える。
脳内ディスプレイで俺の視界を拡大再生しても、やっぱりそう確認できるのだ。
つまり、テレポーテーションの武霊能力ってことか? 自身の移動だけじゃなく、串の直接転移はやられたら防ぎようがないな……
などと思いながら学園庭園に到着し、慎重に春の花が咲き誇る場所を歩いていると、昼休みに久楽さんと会ったベンチまで来た。
すると、そのベンチには、まるでデジャビュのように久楽さんがラノベを読みながら座っており、その背後にルルラが控えているのを発見してしまう。
待ち伏せか? というか、
「……俺がこのルートを通らなかったら、どうするつもりだったんです?」
俺のその問いに、久楽さんは顔を上げ、首を傾げた。
「ここは……学園大門に行くためには……必ず通らなくちゃいけない場所……だから」
……なるほど、そこまで意識してここを見ていなかったな。下調べをしたというのに、間抜けな話だ。
俺が自分の迂闊さ加減に苦笑していると、久楽さんはラノベを閉じ、背後に控えているルルラに渡した。
何気ない、自然な動きだったのだが……これから矢面に立つ武霊になんで本を預けるんだ? 図書委員長をやっているくらいだから、本を大切にしそうな気がするんだが……勝手なイメージか?
などと考えながらルルラを警戒していると、彼女は渡されたラノベを何故か口の前に持ってきて、パックンと文庫本を食べてしまった!?
青髪のメイドさんが、口を大きく開けて、掌サイズの本を丸呑みするという、物凄く衝撃的な光景に、硬直してしまう。
ごっくんと喉が動いたので、まず間違いなく飲み込んだんだろうが……えっと……どういうこと?
戸惑う俺をよそに久楽さんはゆったりとベンチから立ち上がる。
「じゃあ……戦う?」
などと首を傾げながら聞いてくるが……
「戦いたくないって言ったら、見逃してくれますか?」
その疑問に、久楽さんはゆったりと瞬きし、小首を傾げた。
「ダメ……かな?」
「……まあ、そうでしょうね……」
なにこれ、物凄く戦い難いし、逃げ難いんですけど……まあ、待ち伏せされていた時点で、向こうには瞬間移動能力があることを考えるなら、戦いは避けられないわけなんだから……覚悟を決めよう。
ふーっと大きく息を吐き、オウキを前に出させる。
それに応えるように、ルルラも久楽さんの前に出た。
「……では、押し通らせて貰います!」
「はい……できるなら」
おっとりしながら、強気な発言なことで。
「オウキ!」
「ルルラ」
両者が自身の武霊の名を呼ぶと同時に、オウキが二丁拳銃を取り出し、ルルラの姿が消えた。
瞬間移動で射線上から逃れたのかもしれないが、それでは主人が無防備だ!
銃口をルルラがいた場所から、久楽さんへと向けるオウキ。
トリガーを引くその瞬間、オウキの前斜め上にルルラが現れ、二丁拳銃の銃身を両手で触れた。
次の瞬間、二丁拳銃が掻き消え、オウキの人差指が空を切る。
上空に控えていた短い銃身が付いた円盤・ガンサーバントが、オウキのフォローに入り、ルルラに銃撃を放つが、再び瞬間移動されて避けられてしまう。
その間、俺は俺で、二丁拳銃を取り出し、睡眠弾を撃ち込んでいたのだが、久楽さんはゆらりと俺の方に近付くだけで射線軸から外れた。
偶然かと思い、連射するが、ゆらゆらと揺れて回避しながら、どんどん俺に近付いてくる。
オートマチック機能を使った射撃なのだ。正確性は、少なくとも普通の人間が避けられるものではないはずだった。
それなのに、いくら撃っても当たらない。
っく、ヤバい! このまま接近を許す訳には……シールドサーバント!
俺と久楽さんの間に上空で待機させていたシンプルな円盤・シールドサーバントを降下させ、シールドの壁を作り出す。
オウキは瞬間移動するルルラに翻弄されて、こっちの援護には来られない。なら、サーバントだけで決着を付ける! ガスサーバント!
上空に浮遊している細かい穴が開いた円盤・ガスサーバントから睡眠ガスを噴霧させる。
これで、久楽さんはシールドで俺に近付けないし、ガスは無色透明だから避けようもない。
普通なら、これで終わり。
のはずだったが、久楽さんは驚くべき行動に出た。
大きく息を吸い、上空に顔を向けたかと思ったら、息を吐く。
女性が、いや、男性でも、たかだか息程度で広範囲に噴霧されているガスを吹き飛ばすことなど不可能だ。
しかし、久楽さんが息を吐いた瞬間、突風が発生した!?
その勢いは凄まじく、睡眠ガスどころか、上空に待機していた大量のサーバント達が、まるで木の葉のように吹き飛ばされる。
に、人間かこの人!? いや、待て! 冷静に考えろ。こんな人間離れしたことなんて、人間ができるはずがない。そこにはなにかしらのトリックがあるはずだ。そして、相手が武霊使いであることを考慮するのなら、俺のPSサーバントのように、人間を強化する武霊能力を使用していると考えるのが自然だ。
だが……
見た目の変化は、昼見た時と全く変わらないように見える。
華奢なその体躯で、暴風の中でも飛行可能なサーバント達を吹き飛ばせるほどの息を吐けるとは到底思えない。
久楽さんが、上空に上げていた顔を俺の方に向けて、ゆったりと微笑み、俺に近付く。
その前にはシールドサーバントが張った不可視のシールドが存在しているのだが、まるでそこになにもないかのようにこっちに進んでくる。
シールドを展開しているシールドサーバントが、その防壁ごと押されているのだ。
まるで漫画に登場してくるような超人っぷりに、思いっ切り俺の顔が引きつるのがわかる。
ん? 漫画に登場してくる? ……まさか!
思い出すのは、ルルラが久楽さんから渡されたラノベを食べたシーン。
そして、ルルラの正式名称が、無限図書館司書ルルラであるのなら……つまり!
「食べた本に書かれていることを、自分と他人に再現させる武霊能力!?」
「せい……かい」
俺の予測に、再び微笑んだ久楽さんは、足に力を込め、不可視障壁ごと、俺に向って飛び込んできた。