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踏み絵の宴

岐阜城の広間は、重苦しい静寂に包まれていた。俺の目の前には、将軍・足利義昭がばら撒いた「反信長追討の密書」を携えた使者たちが、平伏している。

 手元には三通の書状があった。浅井長政、徳川家康、長宗我部元親。この三者からの報告を読み比べながら、俺は冷酷な算盤を頭の中で弾く。

浅井長政からの書状:

長政は至極淡々としていた。「将軍より無礼な書状が届きましたが、天下の物流を乱す不穏な書状ゆえ、破棄して信長様へ報告に及びました」と。

(ふん、相変わらず冷めた男だ。俺を恐れているのか、それとも俺という利用価値の高い『市場』を守っているだけか。その冷静さが、かえって不気味だ)

徳川家康からの書状:

家康の書状は、驚くほど恭順で、かつ卑屈ですらあった。「将軍の迷走に心を痛めております。このような奸計(かんけい)に惑わされるなど、将軍家の末路も哀れ。私は生涯、信長様の忠実な番犬として、武田を討ち、北条を破るためだけに命を捧げます」と。

(家康……貴様、あの遠江の割譲で俺を恨んでいるはずだ。このあまりの忠誠心、逆に吐き気がするな。貴様のその『黒い本心』、俺には透けて見えているぞ)

長宗我部元親からの書状:

元親からの書状は最も直截的だった。「三好を駆逐し、四国を平らげる。その暁には織田の天下に帰順し、物流の恩恵に預かりたい。将軍の密書は、四国の平和を乱すノイズに過ぎぬ」

(新興勢力ゆえのギラついた野心。だが、今は四国の三好を片付けさせるのに都合が良い。元親の野心を、俺の都合の良いように飼い慣らしてやろう)

 三通の書状を読み終えた俺は、満足げに笑った。

 長政は『実利』のために動いている。

 家康は『復讐』を隠すために仮面を被っている。

 元親は『野心』を叶えるために俺という怪物に擦り寄っている。

 全員が全員、俺を利用しようとしている。だが、それは俺にとっても好都合だ。利用価値のある者は生かし、利用価値が尽きた瞬間に切り捨てる。それが天下人という名の経営者だ。

「……面白い。皆、将軍の権威など鼻にもかけてはおらぬというわけか」

 俺は書状を火鉢に投げ入れた。燃え上がる炎の中で、将軍家の権威も、家康の仮面も、元親の野心も、全て灰となって消えていく。

「よし、返書を認めよ。長政には北陸の物流網のさらなる強化を。家康には、武田・北条討伐の準備を急がせろ、切取り自由とする。そして元親には……四国平定の祝辞を添えよ」

 上杉、毛利はまだ良い、しかし武田は許す訳にはいかない、従属しているのだから。

 俺の天下に、邪魔者はいない。たとえ腹の中に毒を抱えていようとも、俺の物流網という土俵で踊らされている限り、奴らは俺の家臣だ。

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