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僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
中岡勝太編
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52/58

これが現実ということ

 学校に小桃先生の姿はある。

 放課後に廊下で先生の姿を見かけ、声をかけたが、「今、ちょっと忙しいから」と避けるように足早に行ってしまった。


 俺たちとの野球はつまらなかったのだろうか。


 グランドでは笑顔でキャッチボールをしたり、バットを振ったりしていたのに。

 野球は初めてといっていたが、日に日にボールを取るのが上手くなって楽しそうだったし、グランドに来た最後の日は、バットにボールが当たって大喜びしていたのに。


 飽きてしまったのだろうか。それとも……思い当たることはある。



 いつもの勝負は勝負として、変わらず真剣勝負が続いていたが、勝とうが負けようが後片付けは全員でするようになっていた。

 先生も一緒にしてくれていたし、学校まで戻るまでいろいろ話しながら歩くのが楽しかったから。


 そんな中であの事件の話にもなっていた。

 先生がグランドに来た最後の日、道具を倉庫に収め終わった後、先生がふと、「試合にでられなくて辛くない?」


 そこからは自然の流れの中で、事件のことへと話が向かっていた。


 あれは、俺たちが野球部に入学して、2か月ほど経った時だった。

 俺たちはいつものようにグランドで練習していた。珍しく監督の姿はなく、遅れて姿を現した。そこには監督と顧問、さらには校長の姿もあった。



      ★



 キャプテンの声で、すぐに集合がかかった。


 なんだか嫌な予感がする。監督たちの表情は暗いし、校長までいるなんておかしい。それに思い当たることもある。


 俺たちの野球部は県内でも毎回上位に顔だす強豪校で、当然練習も厳しい。土日も関係なく、練習試合などの遠征も多かった。

 そんな中で、変な噂が流れ始めていた。


 他校であっても、中学の仲間などつながりがあて、回り巡って、俺の耳にも変な噂は届いてきていた。


 財布から金がなくなっている。


 俺たちは、スポーツバッグなどをグランドの隅や、どこか裏のほうとか、無造作に置いておくことが多い。

 うちのグランドに来た学校も、倉庫裏のほうで着替えたりして、バッグなどを置いて練習や試合をしていた。


 そんな中で、財布から金が減っているという話がでてきた。ひとりではなく、何人も。逆に俺たちがどこか他の学校に行った時にも、今度は俺たちの学校からそんなことがあった。



 監督が重そうに口を開く、「さっき――」


 退部届を受け取ったという。2年生6人の名をあげ、その理由が続いた。


 まさか、そんなことが。ここ数日、先輩たちの姿を見かけていないが、だけど、そんなことって。


 他の2年生の先輩たちは多くが下を向いている。2年生たちの中で、何か話し合われていたのだろうか。それとも何か知っていたのだろうか。


 3年生たちは驚きと不安が混じった表情で監督を見つめている。



      ★


 6人の先輩たちは、一度も顔を見せることなく学校をやめていった。

 事件の当事者がやめたからといって、それだけじゃ済まされない。すぐに週刊誌の記事となり、テレビでも報道された。


 それで知ったことだが、2年生の先輩の中で現場を目撃した人がいて、2年の先輩たちで話し合ったようだ。そして、監督や顧問にも話し、あんなかたちになっていた。


 高野連からは1年間の大会出場及び対外試合の禁止という処分がくだり、3年生は引退し、2年生も責任を感じてなのか退部していった。さらに1年生も。


 俺たち5人になった今でも、他の部に対して引け目を感じている。運動部だけでなく、文化系もがんばってくれて、入学志願者からも学校としてはなんとか汚名返上できている。


 いつだったか、教室で弁当を食べている時に、何かのきっかけで俺が謝ったことがあった。野球部が迷惑かけてと。

 その時、ラグビー部のやつに、「別に迷惑なんか、かかっちゃいねえし」と笑い飛ばされた。さらに、「お前らとか学校のためとか、そんなんじゃねえ。好きなことを思いっ切りやってりだけだから」

 他の部のやつらも、そんなふうに言ってくれていた。


 だが……。


 誰もが、俺のように周りに恵まれていたわけではないだろう。

 現実に1年の中からも次々とやめていったし、今でも野球部は入部者が0という状況だ。


 

 事件のことを話すと、先生は唇を噛み締めていた。もちろん、事件のことは誰かから聞いてはいただろう。どこまでかはわからないが。


 その後、学校までの道のりは静かだった。

 いつもは中心で盛り上げていた、たっちゃんも無言だった。他のみんなも。



 改めて事件のことを聞いて愛想をつかしたのかもしれない。きっと野球部自体嫌になったのだろう。



 もとに戻っただけ。そう自分に言い聞かせる。また、俺たちだけで俺たちなりに楽しんでいけばいい。


 だけど……なんだか、ほんの、ほんの少しだけさみしい。


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