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僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
安田大地編
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35/58

幼馴染

 ボクがいる高台のここからは住宅街が見える。そこにある大きな公園には仲間たちの姿も見える。

 きっと、この強い風と雨で多くの花びらを舞わせていたことだろう。そうして誰もが次の緑の季節へと進んでいく。


 だけど、ボクはまだ進むわけにはいかない。

 自分でも理由なんて分からない。でも、進んじゃだめなんだ。まだ花びらを手放すわけにはいかないんだ。

 だから、踏ん張り続けた。


 絶対に放してたまるか――そんな思いで。




 風に乗って、木々の間から声が聞こえてくる。そして、ひとりの少女が姿を現した。


 見たことは……ない? いや、なんとなく見覚えが……。


 彼女を追いかけるように現れたのは……君?。

 そう。君じゃないか。


 久しぶり!


 もちろん、声など届かないが心の中で声を上げてしまう。

 年に一度、いや、最近は何年も会っていなかった。それでも、顔を見れば蘇ってくる。たくさんの思い出が。


 彼の背が縮んでいき、顔も幼くなっていく。


 よく、ここで缶蹴りしていたよね。ボクの後ろに隠れて、一瞬の隙を狙って、缶を蹴るのが得意だったよね。

 それに小学生の頃、サックスの練習をしたりもしてたよね。

 そういえば、もっとちっちゃい頃から、ラッパが好きだったもんね。そうそう、おもちゃだから、適当に指を動かしながら、口で歌うように吹いていたっけ。

 あの歌なんだったかな?

 君のお母さんが好きで、君も大好きだっていってた曲。

 ほら、君が吹いて、女の子が歌ってたあれ……。


 その時、心がポンッと跳ねた。

 今、彼の横にいる彼女が縮んでいく。顔も幼くなっていく。


 ボクは知っている。アナタのことを。


 曲も思い出したよ。


 このお寺の夏祭りで、君がここに遊びに来て吹いたんだよ。それで彼女が、「なんて曲って?」聞いて、それからはお寺のアイツも一緒に3人で歌うようになっていたよね。


 アナタがいなくなってしまうその日まで。


 溢れてくる思い出に、心が跳ね続けている。

 体も揺れて、思わず手放しそうになる。

 ボクは慌てて力を込めた。


 一枚だって散らしてなるものか。


「ちっちゃいだろ?」

「うん。ちっちゃい。でも、大きくなった」


 そんな声が聞こえ、彼女が近づいてくる。そして、彼女の手がボクに触れ、


「君に会えてうれしい」


 昔と同じように、優しい手がここにある。

 あの頃と変わらぬ温かさが。


 ボクの体が震えている。涙のように花びらがこぼれ落ちそうになる。

 それでも絶対に手放さない。

 今のボクを胸にとどめて置いてもらいたいから。満開に咲くこの姿を。



「久しぶりだね」


 ボクを抱きしめ、嬉し気な声をかけてくれる。友達に出会ったかのように。

 そう、アイツが言ってくれたんだ。

 アイツも君も、そして、アナタも、ボクらは友達だって。大切な大切な幼馴染だって。




 ボクから腕をはなした彼女の目が、自分の手へと向かっている。

 彼女は君のほうへ向き、両手を後ろにした。

 ボクの目の前に見える手が、固く握りしめれれている。その手が、どんどんと……。


「そうだ。えーっと……そう、そう、このお寺の光ちゃんとは――」


 そんなことを言う彼女の声も、答える君の声も、ボクには届いてこない。


 彼女の……彼女の手が……。



 気付けば、君が走りだしている。木々に入る手前で足を止め、手を振っている。

 彼女は手を振り返している。その手の向こうに走り去る君が見える。


「さよなら大ちゃん」


 そう言った彼女が振り返った。その目には涙が浮かんでいる。

 ボクを見つめ、


「よかった。君を見ることができた」


 ボクの体に腕を回し、


「ありがとう。がんばってくれたんだね。花を咲かせた君に会えてうれしいよ」


 花びらが……落ちてしまう。どんなにこらえても、涙のようにこぼれ落ちてしまう。


 彼女は回していた腕をほどき、ボクからはなれていく。


 舞い散るボクの涙を見つめる姿がぼんやり薄れていく。


 必死に花びらを手放すまいとこらえた。でも、溢れる涙が止まらない。


「バイバイ」


 手を振る彼女は花びらに包まれ、その中に溶け込んでいく。


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