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僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
安田大地編
33/58

約束

「あぁ、ビワちゃんね」


 光喜が懐かしそうに微笑んだ。


「そう、ビワちゃん。お前、記憶力いいな。ちゃんと覚えてるんだ」

「当たり前だろ。ビワ好きのビワちゃん。ビワ狩りの時、あまりに食べ過ぎてお腹が痛くなったって大変だったじゃないか。それに、みんなで幼稚園の後、ここ(境内)で缶けりしたし、それに――」


 光喜の口から思い出話が溢れている。

 そんな大事なものまで、僕は沈め込んでいた。あの辛い記憶をなくすために、それ以前のものをみんな、みんな……。

 それでも光喜の言葉ひとつひとつが沈んだ底から浮かび上がらせてくている。


 覚えているよ。俺の胸の中にもちゃんと残っているよ。


「あと、大地は昔からラッパ好きで、桜を植えた時吹いてたことあったじゃん。あの時、ビワちゃんが桜に手をそえたんだよ。それが凄えよくてさ。めっちゃ覚えてんだよな」


 僕の大切なもが、光喜にもしかっりと残っている。


 美和ちゃんが来てくれていることを話すと、光喜の顔は一段とにっこり崩れた。

 玄関口のサンダルを引っ掛け、脱げそうな勢いで僕の横を抜け、「早くしろって」と声を掛けてきた。




 僕らの歩幅が自然と大きくなっている。向かう先にはずっと傍にいた無口な幼馴染と、遠く離れていた幼馴染が待っている。



 だけど……。




 大声で名前を呼んだ。声は木々の間に消えていく。

 広場でも、境内に戻っても、お墓のほうにも行ってみて、何度も声を上げた。でも、何も返ってはこなかった。


 風がまた吹き始めたのか木々が揺れている。


「急用が出来て、帰ちゃったんじゃない?」


 光喜のそんな声にも答えることなく、もう一度広場へと向かった。


 風のせいなのか。桜が舞っている。ひとひらだって散っていなかったのに、役目は終わったとばかりに、花びらに別れを告げている。


 なあ、ビワちゃんはどこに行ったんだ?


 無口なこいつは何も答えてくれない。ただ、花びらを散らせつづけている。大事なものを手放してしまうように。


 僕は駆けだしていた。光喜の声が追いかけてきたが振り返ることもなく走った。

 階段を駆け下り、自転車に飛び乗る。そして、ペダルを踏み続けた。






 公園にも、どこにも君の姿はなかった。

 でも、君は言ったよね。

 僕が吹くところが、もう一度見たいって。


 だから、約束したよね。


「大ちゃん。普門館って最高の舞台なんでしょ」

「そう。僕らにとったら夢の舞台だ」

「だとしたなら、私も一緒にいたいよ。観客席からでも一緒に味わいたいよ。そこに広がる空気を」

「分かった。絶対にあの舞台に立ってみせる。だから、その時は一緒に。普門館で」


 君は笑顔でうなずいてくれたよね。



ここで完結とし、次回から池田ユイという生徒視点で、普門館までを書いていきたいと思います。

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