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僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
安田大地編
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32/58

幼馴染

 木々を抜ければ、ちょっとした広場がある。

 光喜の家には何度も来ているが、ここに来るのは久しぶりだ。何年も来ていない。だから、こいつに会うのも久しぶりだ。


 広場の片隅に公園の桜より小さな姿がある。後ろには大きな木がそびえ立ち、より小さく見えるその姿。

 梅の木なら立派だと褒めてもらえる大きさだけど、桜としてはまだまだ。でも――すげじゃねえか。がんばってるじゃねえか。

 咲き誇っている。散ることなく。


「ちっちゃいだろ?」

「うん。ちっちゃい。でも、大きくなった」


 美和ちゃんは近づいていくと、幹へと腕を伸ばし手を当てると、


「君に会えてうれしい」


 その言葉に応えるように花びらが揺れた。

 決して息を飲むような凄い桜ではないけれど、精一杯の花びらを咲き誇らせている。

 地面には、ひとひらの花びらだって落ちていない。


 君を待ち、君に見てもらうために、咲き誇っている。


 ありがとな。


 胸の中で思わずそんな言葉をつぶやいていた。ちょっと成長は遅いが最高の幼馴染に向かって。


 美和ちゃんは手を広げると、幹をギュッと抱きしめた。「久しぶりだね」と友達にあったような嬉し気な声が聞こえてくる。

 幹からはなれた彼女は何かを見つめている。自分の手を見ているのだろうか。背後からでは何を見ているのか分からないが、手に何かついたのだろうか。


 僕のほうへと振り返った彼女。

 何か隠すように、両手を後ろで組んでいる。

 口を開きかけた僕より先に、美和ちゃんが声を発した。何か聞かれる前に、そんな感じで、


「そうだ。えーっと……そう、そう、このお寺の光ちゃんとは今も仲いいの?」

「おう、光喜のことも覚えてるんだ」

「ひとつ思い出すと、どんどん蘇ってくるね」


 話しているうちに、手のことなど後まわしになっていた。


「まあ、仲がいいっちゃいいのかな。いやになるくらい一緒だよ。高校も一緒で部活もだし」

「そうか、なんだか羨ましいな。私も引っ越さなければ、ずっと一緒にいられたのかな……?」


 そういえばビワちゃんは何で引っ越したんだっけかな? そうだ――


「大ちゃん。なんだか光ちゃんにも、ちょっと会ってみたいな」

「会っても意味ないよ。体が大きくなっただけで、顔は全然変わってないから」

「そうなんだ。何かすごく会いたくなちゃった」


 楽しそうな笑顔に心が弾む。


「分かった。昔にタイムスリップさせてあげるから、ちょっと待ってて」

「楽しみ!」


 美和ちゃんの声に踏み出した足も弾む。



 

 広場から木々の道に入るところで僕は振り返った。

 美和ちゃんの顔から笑みが消えている。それは振り返った時に一瞬見せただけで、すぐに笑顔で手を振っていた。

 その手が透き通っているように白く見えた。


 僕は手を振り返して走りだした。


「さよなら大ちゃん」


 聞こえるはずがないのに、つぶやくような声が届いてきた気がした。


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