幼馴染
木々を抜ければ、ちょっとした広場がある。
光喜の家には何度も来ているが、ここに来るのは久しぶりだ。何年も来ていない。だから、こいつに会うのも久しぶりだ。
広場の片隅に公園の桜より小さな姿がある。後ろには大きな木がそびえ立ち、より小さく見えるその姿。
梅の木なら立派だと褒めてもらえる大きさだけど、桜としてはまだまだ。でも――すげじゃねえか。がんばってるじゃねえか。
咲き誇っている。散ることなく。
「ちっちゃいだろ?」
「うん。ちっちゃい。でも、大きくなった」
美和ちゃんは近づいていくと、幹へと腕を伸ばし手を当てると、
「君に会えてうれしい」
その言葉に応えるように花びらが揺れた。
決して息を飲むような凄い桜ではないけれど、精一杯の花びらを咲き誇らせている。
地面には、ひとひらの花びらだって落ちていない。
君を待ち、君に見てもらうために、咲き誇っている。
ありがとな。
胸の中で思わずそんな言葉をつぶやいていた。ちょっと成長は遅いが最高の幼馴染に向かって。
美和ちゃんは手を広げると、幹をギュッと抱きしめた。「久しぶりだね」と友達にあったような嬉し気な声が聞こえてくる。
幹からはなれた彼女は何かを見つめている。自分の手を見ているのだろうか。背後からでは何を見ているのか分からないが、手に何かついたのだろうか。
僕のほうへと振り返った彼女。
何か隠すように、両手を後ろで組んでいる。
口を開きかけた僕より先に、美和ちゃんが声を発した。何か聞かれる前に、そんな感じで、
「そうだ。えーっと……そう、そう、このお寺の光ちゃんとは今も仲いいの?」
「おう、光喜のことも覚えてるんだ」
「ひとつ思い出すと、どんどん蘇ってくるね」
話しているうちに、手のことなど後まわしになっていた。
「まあ、仲がいいっちゃいいのかな。いやになるくらい一緒だよ。高校も一緒で部活もだし」
「そうか、なんだか羨ましいな。私も引っ越さなければ、ずっと一緒にいられたのかな……?」
そういえばビワちゃんは何で引っ越したんだっけかな? そうだ――
「大ちゃん。なんだか光ちゃんにも、ちょっと会ってみたいな」
「会っても意味ないよ。体が大きくなっただけで、顔は全然変わってないから」
「そうなんだ。何かすごく会いたくなちゃった」
楽しそうな笑顔に心が弾む。
「分かった。昔にタイムスリップさせてあげるから、ちょっと待ってて」
「楽しみ!」
美和ちゃんの声に踏み出した足も弾む。
広場から木々の道に入るところで僕は振り返った。
美和ちゃんの顔から笑みが消えている。それは振り返った時に一瞬見せただけで、すぐに笑顔で手を振っていた。
その手が透き通っているように白く見えた。
僕は手を振り返して走りだした。
「さよなら大ちゃん」
聞こえるはずがないのに、つぶやくような声が届いてきた気がした。




