幼稚園生の僕
あそこにいるのは幼い頃の俺?
今、夢の中だということは分かっている。まるで、透明人間にでもなって、その場にいるようだ。
すぐに、ここがどこだかも分かった。光喜の家のお寺。あぁ、そうか。桜を植えたあの時か。
幼稚園の制服姿で20人ほどの子供たちが、自分たちの背より少し高い1本の苗木の前に立っている。俺だけ手にはおもちゃのラッパを持っている。
おっ、先生か。懐かしいなあ。
ほほに泥ついちゃってるよ。美人が台無しだ。
大きなスコップを持った先生は、首にかけたタオルで汗をぬぐっている。何人かの父母もスコップを手にしている。
ひと息ついた先生が声をかけると、園児たちが歌いだした。
俺くんはラッパを振りながら歌っている。
その姿を、バシッと決め込んだ親達が見守っている。念入りに化粧した感じの母ちゃんと父ちゃんは似合わないスーツ姿だ。
歌い始めた園児達の目に涙が浮かんでいる。
そうだ。これは、さよならぼくたちのようちえん(曲名)だな。もう10年以上前なのに、これを聞くと今でも涙腺が怪しくなる。
そうそう、思い出した。卒園式の後にここに来たんだ。
状況をすっかり忘れている。
確か卒園式でも歌ったと思う。
俺くんの隣で人一倍泣きじゃくる園児、あれは光喜だな。泣きながらも誰よりも大きな声で歌っている。
母ちゃんも目頭を押さえている。えっ、あの父ちゃんがスーツの袖で目頭をぬぐった?
なんだか、こっちまで目頭が熱くなってくる。
歌が終わると、ひとりの女の子が前に出て、苗木の前でしゃがんだ。そして、女の子は苗木を抱え込むように手を伸ばした。
細い幹に両手を優しく添えている。目を閉じて、まるで会話でもしているかのように。
その姿に僕の胸は跳ね、震えだしている。
女の子が振り返り、俺くんへと視線を向けている。
「だいちゃん!」
聞こえてきたその声に、震えていた胸が、さっきよりも大きく跳ねた。
「おっきくなるようにオマジナイのラッパふいて」
「わかった」
俺くんはそう言葉を返し、ラッパを口に当てた。
女の子は立ち上がり、苗木を真っ直ぐ見ながら身をかがめた。手も足も縮めている。他の園児たちも同じような格好をし始めた。
先生もスコップを下に置いて、同じ格好をしている。
俺くんだけが背筋を伸ばして、苗木に向ってラッパを構えている。そして、小さな音が。
音階なんて何もない一定の音が徐々に大きくなっていく。
それに合わせて、園児たちが徐々に手足を伸ばしていく。口からは、「うー」と唸るような声が。
音が止んだ。
俺が胸いっぱいに息を吸い込んでいる。
先生が「おっきく」と声を掛けると、園児たちの声が続く、「なーれ!」
縮めていた体も手も足もいっぱいに伸ばし、飛び跳ねている。
それを後押しするように、俺くんのラッパが響いている。晴れ渡る大空に向かって。
女の子が振り返り、幼い俺くんが呼びかける。「――ちゃん」




