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僕らのガッカリ桜  作者: ゆらゆらゆらり
安田大地編
27/58

幼稚園生の僕

 あそこにいるのは幼い頃の俺?


 今、夢の中だということは分かっている。まるで、透明人間にでもなって、その場にいるようだ。


 すぐに、ここがどこだかも分かった。光喜の家のお寺。あぁ、そうか。桜を植えたあの時か。


 幼稚園の制服姿で20人ほどの子供たちが、自分たちの背より少し高い1本の苗木の前に立っている。俺だけ手にはおもちゃのラッパを持っている。


 おっ、先生か。懐かしいなあ。

 ほほに泥ついちゃってるよ。美人が台無しだ。


 大きなスコップを持った先生は、首にかけたタオルで汗をぬぐっている。何人かの父母もスコップを手にしている。



 ひと息ついた先生が声をかけると、園児たちが歌いだした。

 俺くんはラッパを振りながら歌っている。

 その姿を、バシッと決め込んだ親達が見守っている。念入りに化粧した感じの母ちゃんと父ちゃんは似合わないスーツ姿だ。


 歌い始めた園児達の目に涙が浮かんでいる。


 そうだ。これは、さよならぼくたちのようちえん(曲名)だな。もう10年以上前なのに、これを聞くと今でも涙腺が怪しくなる。


 そうそう、思い出した。卒園式の後にここに来たんだ。

 状況をすっかり忘れている。


 確か卒園式でも歌ったと思う。


 俺くんの隣で人一倍泣きじゃくる園児、あれは光喜だな。泣きながらも誰よりも大きな声で歌っている。

 母ちゃんも目頭を押さえている。えっ、あの父ちゃんがスーツの袖で目頭をぬぐった?


 なんだか、こっちまで目頭が熱くなってくる。


 歌が終わると、ひとりの女の子が前に出て、苗木の前でしゃがんだ。そして、女の子は苗木を抱え込むように手を伸ばした。

 細い幹に両手を優しく添えている。目を閉じて、まるで会話でもしているかのように。


 その姿に僕の胸は跳ね、震えだしている。


 女の子が振り返り、俺くんへと視線を向けている。


「だいちゃん!」


 聞こえてきたその声に、震えていた胸が、さっきよりも大きく跳ねた。


「おっきくなるようにオマジナイのラッパふいて」

「わかった」


 俺くんはそう言葉を返し、ラッパを口に当てた。

 女の子は立ち上がり、苗木を真っ直ぐ見ながら身をかがめた。手も足も縮めている。他の園児たちも同じような格好をし始めた。

 先生もスコップを下に置いて、同じ格好をしている。


 俺くんだけが背筋を伸ばして、苗木に向ってラッパを構えている。そして、小さな音が。

 音階なんて何もない一定の音が徐々に大きくなっていく。

 それに合わせて、園児たちが徐々に手足を伸ばしていく。口からは、「うー」と唸るような声が。


 音が止んだ。


 俺が胸いっぱいに息を吸い込んでいる。


 先生が「おっきく」と声を掛けると、園児たちの声が続く、「なーれ!」

 縮めていた体も手も足もいっぱいに伸ばし、飛び跳ねている。


 それを後押しするように、俺くんのラッパが響いている。晴れ渡る大空に向かって。



 女の子が振り返り、幼い俺くんが呼びかける。「――ちゃん」


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