胸の痛み
賑やかな声に、記憶から呼び戻された。午後から夜に向けて、人の数は一段と増えているようだ。
気付けば、無意識のうちに。右手で左腕をさすっている自分がいた。
結局、僕がバンドの大会に出場することはなかった。ソロの全国大会にも。
会館でのことがあった次の日、いつものように朝ランニングをしている時に転倒し、腕を骨折してしまった。
あの時、おじさんは、こんな時にと始めは怒っていたが、すぐに来年はと励ましてくれていた。母ちゃんも、事故だからしょうがないと慰めてくれていた。
そんな姿に、僕の心は痛んでいた。
どうやっても、自分には嘘をつけない。どういうことなのかは自分が一番分かっている。事故なんかじゃないということは……。
1か月半ほどで治ったが、僕が教室に戻ることはなかった。指が思うように動かなくなったと理由をつけて。
おじさんには、そんなはずはないと怒鳴られた。それでも、僕はかたくなまでに、動かない、と言い続けた。
いつしか、おじさんはあきらめてくれた。
母ちゃんは、やめると告げた時、「そうなの」というひと言だけだった。
だけど、一瞬見せた悲し気な顔と、居間から台所へと去っていった背中が、今でも脳裏に焼き付いている。
胸元にあるサックスへと視線が落ちる。
僕はそっと目を閉じ、浮かんでくる思いを抱きとめた。目を開ければ、ステージが見える。あの時の感覚が蘇ってくる。
足は自然と動き出していた。今、行くべき場所に向かって。




