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魔法の契りで幸せを  作者: 平河廣海
最終章 アフターグロウ
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第十八話 幕開け

 耳を(つんざ)くような、けたたましい音で目を覚ます。


「……ん、うーん」


 寝ぼけながらもその音の主である、スマートフォンをいじると、先ほどまでの騒がしさが嘘のように静まる。

 そのまま布団から抜け出すと、布団の中の暑苦しさは少し収まるが、それでもまだ暑い。

 すでにカーテンの隙間からは陽光が漏れている。

 五月がカーテンを開けると、朝だというのに焼き付けるように日差しが差し込む。

 夜に涼しくなった空気を再び温めているのだろう。道理で暑いはずだ。


「うーん! ん!」


 腕を上げて伸びをすると、思い眠気が一気に吹き飛ぶ。

 毎朝の習慣で、これをすると一気に体が目覚めていくのだ。


「よし!」


 そのまま五月はいろいろな身支度をする。

 ――今日はついに最終決戦というべき時だ。

 ケセフ・ヘレヴの封印を解き、破壊する。

 それでもやることは変わらない。

 いつもと同じルーティンをして、心と体の準備をする。自然と落ち着けるので、変な気負いもない。


「おはようございます」


 すでに食卓についている桜空、桜月に挨拶をする。


「おはようございます、五月。ぐっすり眠れましたか?」

「うん。もうバッチリ。二人は」

「もちろんだよ。準備万端。いつでもいけるよ」


 二人とも顔色がよく、疲れ一つなさそうだ。

 こちらの状態も完璧と言えた。

 あとは、やり遂げるだけだ。


「おはよう、五月。ご飯できてるから、さっさと食べな」


 そうやって三人で気分を(たかぶ)らせていると、お義母さんが茶碗をもって部屋に入ってきた。


「おはようございます。そうですね。すぐに食べることにします」

「あんたたちも早く食べな」

「はい。ありがとうございます、ゆかり」

「ありがとう」


 みんなで食卓につくと、一人一人手を合わせて「いただきます」を言ってから食事を始める。

 いつも通り、ご飯、みそ汁、おかずが揃っていて、おいしい。

 この食事はお義母さんが作ってくれているのだが、千渡温泉の料理を出すこともあるくらいなので、かなりの絶品だ。栄養バランスも整っていて、体にはとてもいい食事である。

 それに五月たちが舌鼓を打っていると、お義母さんも食卓につき、手を合わせ、いただきますを言ってから食べ始めた。


「……本当に今日なのかい?」


 しばらく会話もせずに食事をとっていたところ、不意にゆかりが切り出す。

 いつもは三人で会話しながら食べていたのだが、集中していたせいか、いつの間にか黙り込んでいたようだ。

 ただ、もともと口数は多くない方なので、それはしょうがないかもしれない。

 いずれにせよ、時が来たのだし、事情を知っているのだから、一応今日やるとは説明していたとはいえ、ゆかりにも改めて言わなければいけなかった。


「……はい」

「……そうかい」


 五月が頷くと、ゆかりは口を閉ざし、視線を惑わしている。

 なんと声を掛ければいいのか、迷っているようだ。

 五月たちは静かに次の言葉を待っていると、ゆかりは視線を三人に戻した。


「……あたしたちにできることは何もないが、とりあえず、杯流しの片づけはあたしらに任せな。午前中には終わるから。あんたらはとにかく準備だ。そして、……絶対に無事に帰ってくるんだよ」


 心配を隠し切れず、声が震えている。

 ゆかりから見れば、五月たち三人は、娘も同然だ。その娘たちが、実の娘の楓と同じく、帰ってこないかもしれないのだ。

 決して弱音は吐かないが、きっと五月と同じように悲しんでいたに違いない。

 その思いをもう一度味わうかもしれないのだ。

 娘がまたいなくなってしまうかもしれないのだ。

 それなのに、自分は何もできない。

 悔しさや自分への怒り、不安など、様々な感情に押しつぶされそうになっているだろう。

 しかも、形式上、御三家トップの暁家の当主なのだ。

 その心労は計り知れない。

 だから、五月は少しでも軽くしてあげたかった。


「ありがとう。お母さん。絶対、勝って、三人とも無事に帰ってくるからね」

「そうですよ、ゆかり。私たちがついているんですから大丈夫です」

「ですから、首を長くして待っていてください。全てを終わらせてきますから」


 桜空と桜月も同じで、今の母にそれぞれの想いを告げる。

 それはとても温かなもので、母の傷がようやく癒えていく。


「……まったく。あんたらも最高の娘だよ」


 涙を浮かべながら母はつぶやく。


「ありがとね」



 ※



「結界の準備はできた?」


 耕作が放棄された畑で、杖を片手に五月が尋ねる。


「……はい。大丈夫です」


 桜空が再び確かめる。

 ケセフ・ヘレヴは自力で動くそうだし、見られたり、被害を及ぼしたりしないためにも、結界は欠かせないので、イオツミスマルの力で結界を張ることにしていたのだ。

 その戦場として選ばれたのは、だれもいない、広々とした畑。

 いくらケセフ・ヘレヴ単体が相手とはいえ、三人の魔法のことを考えても、広めの場所が必要だ。そのため、今は使われていない耕作放棄地が最善と考え、結界を張ることで問題を解決した。

 その準備は済ませた。

 すでに早めの昼食を済ませてから時間が立っているので、体調も万全。


「五月、母様、全ての神器と『コネクト』は済ませました?」

「うん。ご先祖様」

「ばっちりですよ」


 桜月の確認で、神器も準備万端だ。

 三つの神器があるが、それぞれ、一人ずつ持つことにしている。

 五月はムーンライト・カノン、桜空はヤサコニ・イオツミスマル、桜月は桜襲だ。

 ただ、全員がすべての神器を使える状態にすることで、不測の事態にすぐ対応できるようにしたのだ。

 なにしろ、ケセフ・ヘレヴはリベカが神器二つをもってしても封印がやっとだったほどなのだ。

 あらゆる想定をしなければならない。

 そのための準備が、全て終わったのだ。

 あとは、封印を解き、破壊するだけ。


「桜空」


 五月と桜月が桜空に目を向けると、桜空はイオツミスマルを目の前にやり、一回目を閉じた。

 そして、深呼吸する。


「五月、桜月、いいですか?」

「……うん」

「大丈夫。母様」

「では、最後に。……生きて帰りましょう!!」

「うん!!」

「そうだね!! 母様!!」


 最後の確認を終え、桜空は、魔力を解き放った。


「イオツミスマル、リリース!!」


 その瞬間、ガラスが割れるような音が辺りに響き、イオツミスマルが輝く。

 おそらく、ケセフ・ヘレヴが封印された空間を壊した音だ。

 ただ、こことは全く違う空間のためか、周りの景色は全く変わらない。

 まだのどかな風景が広がっているだけだ。

 そのように思っていたが、その一点が歪んだ気がした。


「……!! 来ます!! 構えて!!」


 桜空に言われて、それが始まりだと悟る。

 みんなで杖を構え、魔力を集めると。

 先ほどとは比べ物にならない、目の前で爆発が起こったかのようなすさまじい音が鳴り響く。

 次の瞬間、体から魔力が吸われる感じがして、少し疲れたかと思うと。

 目が眩むほどの光が辺り一帯を覆い。

 禍々しく、どす黒い魔力の波動が伝わってきた。

 そこには、銀色の刀身に、黒い勾玉が装飾された柄で作られた、一本の剣があった。

 周りには同じどす黒い魔力を放つ影が無数にある。

 間違いない。

 ――ケセフ・ヘレヴだ。

 かつて、「(しろがね)(つるぎ)」と呼ばれた神器。

 それは、全てを葬り去る、破壊の化身となって、今ここに蘇った。


次回、第十九話「聖戦」。明日投稿になります。お楽しみに。

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