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第三十三話

 ディティラスのおかげで暴走をせずに済んだその日から、ディティラスとの関係性は大きく変わった。けれど変わったからといって、すぐにディティラスの妃になれるわけではない。ディティラスは魔王。そしてリディアリアは上級魔族になったばかりの戦争孤児の魔族。周囲がすぐに認めてくれるわけがなかった。

 だからリディアリアは決意をした。ならば、魔王の肩書に釣り合うような、最低でも七貴族の名に届くような力を手に入れようと。

 そう決意をした数カ月後。リディアリアの元へ、ある手紙が届く。それは戦争へ参戦するようにとの通知だった。ディティラスはその事実を知った途端、反対をしていたが、これはリディアリアが十歳の時から望んでいたことでもある。それにディティラスも魔王とはいえ、度々戦争へ参戦していた。お互い様というやつだろう。

「だが、戦争への参加は成人してからと決まっている。なぜリディだけ……!!」

 恋人となってから、互いのことを愛称で呼び合うようになっていた。

「私が戦力になると判断したからじゃないかな。これほどに嬉しいことはないよ」

 月のモノがきて、種族魔法が使えるようになった。これに合わせるようにして固有魔法が開花したのも判断するときの材料となったのかもしれない。

「しかしっ……!」

「ディティ、ごめんね。これだけは譲れないや。ライトニングの元へ来た理由の一つでもあるから」

「…………」

 これをいうと、ディティラスがなにもいえなくなるのは知っていた。リディアリアは俯くディティラスの腕の掴み、背伸びをして頬へキスをした。自身からこうしてキスをするのはとても恥ずかしかった。

「両親を殺した人族を恨んではいるよ。でも全ての人族を恨んでいるわけでもないの。今こうして戦場へ行くのは、私みたいな戦争孤児を一人でも少なくしたいから。だから、ごめんね」

「わかった、もう止めはしない。その代わり一つだけ俺と約束してくれないか?」

「約束?」

「ああそうだ。どんなことをしてでも、最後には必ず俺の元へ帰ってきてほしい。それだけでいいから、約束してくれ」

 ディティラスなりの譲歩だったのだろう。もちろんそのつもりだったので、リディアリアは約束をした。だから戦場から戻ってくるたびにディティラスの元へ一番に駆けつけた。

 戦争を終わらせた、十年前のあの日以外は。




 暖かい風が体を包むように、飛んできた。それは春の訪れを告げていて。ほんのりと花の香りがした。まるで十年ぶりに目を覚ましたあの日のようだ。

 春の香りに促されるようにゆっくりと目を開けてみる。すると、見慣れた天井が視界に入った。

「ここ、は……。私……」

 十年前の夢を見た。そのことをゆっくりと思い出して、次いで魔核のことを思い出す。体内の魔力を感じようと目を閉じれば、魔核が機能をしていることが実感できた。同時にディティラスの存在を感じ取ることができた。これは魔法の効果なのだろう。

「生きてる。私、生きてる……」

 ディティラスを信じていないわけでもなかった。ただ生きているという事実が嬉しくて、涙がぽろぽろとこぼれ落ちていった。

 一人泣いていると、ふいに扉が開いた。

 そこには愛する男性、ディティラスがいて。

 その瞳は嬉しさに染まっていた。

「魔法で繋がった魂が、リディが起きたと教えてくれたんだ。これだけ待ったんだ、もう離しはしない。ずっと傍にいてくれ」

「私が眠ってどれくらい経ったの?」

「四年だ」

「四年……」

 十年よりは短い。それでも四年という時間は、ディティラスにとって、とても長い期間に思ったに違いない。もしリディアリアが逆の立場だったとしたら、絶対に長く感じるからだ。

 合わせて十四年。ずっとディティラスはリディアリアを待ってくれていた。ならば待たせた分、ディティラスの傍にずっと傍にいたい。

「ずっと、ディティの傍にずっと傍にいるから。嫌だっていっても離れないから」

 戦争は終わった。もう魔核が壊れることはない。

 心配ことは全て終わったのだ。

 その証拠に、ディティラスの頬へ当てた、自身の手は子どもの手ではない、本当の姿のときの手をしていた。

「ディティ、大好き」

「俺もだ、リディ。だから改めていわせてくれ。俺と結婚して、この国の妃となってほしい」

「もちろん。末永くよろしくお願いします」

 互いに瞼を閉じ、唇を何度も重ね合った。

 キスをできることが、言葉を交わせることが、視線が合うことが、どれほど幸せなのか、ようやく安心して知ることができた。

全三十三話、毎日お付き合いいただいて、ありがとうございました!!

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