欲という名の芸術作品
今回のターゲット
佐伯 義隆 食品会社社長の現在52歳 妻子はいるが、都内の500坪の豪邸でメイド達と共に別居で仕事に没頭。
表では真面目で堅い人物を装っているが、女に餓え、妻に内緒でたくさんの女に手を出しているという。
監視カメラは庭に5台。邸内に19台。しかし義隆氏の部屋には1台も存在しない。警備はいるが会社売れ行きが不安定な為に先月2人をクビ。そしてそれを補うように、邸内にトラップがうじゃうじゃ…と。裏で食品に紛れさせて麻薬の売買も行ってたのか。こりゃ悪い男だねぇ。
成瀬みなみこと、本名「京極飛鳥」は、脳内で情報を巡らせながら胸を踊らせた。
「どうした?みなみちゃん。」
佐伯が飛鳥の腰に手を伸ばす。ゾゾゾと体中に鳥肌が立つ。これだけは慣れない。もう何10人という男に尻だの肩だの撫でられてきてるが、この鳥肌は必ずおまけについてくる。
「ううん佐伯さぁん、大丈夫。ただちょっと、飲み過ぎちゃったかなぁ。」
色眼鏡で佐伯を眺める。
「そうかぁ。」
かかった。
「じゃあここから2人きりになろうか。」
ゆでダコみたいに興奮状態な佐伯に、飛鳥は計画通り進める。
「いいんですか?やったぁ!でも…私佐伯さん家行きたいな。たくさんサービスしてあげたいし♡」
ホテルなんか寄られたら盗むもんも何もねぇかんな。飛鳥は心の中で嘲笑って見せた。
1度釣られた魚は、どう足掻いても元には戻れないんだよ。おじさん。
「みなみちゃん、ここがうちだよ。あがりなさい。」
タクシーから降りると、ライトアップされた見事な豪邸が広がっていた。近所には特に家などはなく、都内なのに異様な静けさを保っていた。
「たまげたなぁ…ひっろ。」
「え?みなみちゃんなんて?」
あやべぇ本音出ちゃった。まずいまずい
「あ、ほら、行こう♡♡義隆さん♡」
セーフ ミッション続行。
玄関から佐伯の部屋に入るまで色々理由をつけて立ち止まったりしながらも位置情報は完璧に掴んだ。複雑に入り込んだ迷路のような廊下には、どれだけのトラップが仕組まれているのか。考えるだけでゾクゾクする。
「じゃあみなみちゃん。先シャワー入るから待っててね。」
椅子に腰掛けた俺に、佐伯は鼻の下を伸ばしながら言う。
「うんずーっとまってる♡」
やがて扉が締まって足音が遠くへと消えていく。
「…なわけねぇだろ?クソが。フフッ」
開けた胸元を引き締めながらみなみ、いや飛鳥は呟く。
「さぁ。ミッション開始と行こうか。」
機敏に立ち上がった飛鳥の表情には、さっきと比べ物にならない程生き生きしていた。
財産は全て貯金せずにこの邸内に保管してある。会社の売上と麻薬売買の金だからかなりの額だろう。女を誘惑する為に買っていたブランド物のバッグやコート、アクセサリーもある。そして交友関係にある会社の社長や、知人から貰った数々の高級品。
どこの部屋に隠してあるのかはもう把握済みだ。
メイドの視線を掻い潜りながら華麗に邸内を駆け抜けていく。
角を3つ曲がった重厚な扉で仕切られた部屋。
ここのパスワードは35桁の数字で成り立つ。この番号は佐伯以外は誰も知らない。
「それが、解っちゃうのが俺なんだよなぁ。」
素早い指さばきで番号を入力する。ピピッ。電子音と共に鉄で出来た扉がゆっくりと開く。情報通りだ、 札束、財宝、溢れかえる程にある。
「美しい。」
口笛を吹きながらスカートの中に忍び込ませたリュックを広げ詰め込む。
ジジジジジ!
五月蝿いベルの音が部屋中に鳴り響く。くそ、気づかれたか。
リュックを背負いチェキを取り出す。
はい、チーズ♡
出てきた写真を金庫部屋に置き、天井3m先の通気口に飛ぶ。そろそろメイドやら警備やらの声が聞こえてきた。
「手遅れだったか…!ほとんどを盗まれた!」
大柄な男性が駆けつけた時、1枚の写真と開けられた通気口だけが寒々しく残っていた。
バスローブを巻いた佐伯が部屋に辿り着き、写真を拾い上げる。
(怪盗吉三 参上)
そう、写真には書かれていた。
「……成瀬ぇぇぇぇぇぇ!!!!」
怪しく光った月が、屋根に上る1人の影を浮き彫りにする。
風が彼女の髪を揺らし、スカートを翻す。
「今日はあんま、歯ごたえ無かったなぁ。つまんね。」
そう呟いた彼女は、長い髪を片手でズル、と引き剥がす。黒くて短髪の髪が見える。 首筋を爪で探り、顔にまとわりついた仮面をビリビリとはがす。美しい 成瀬みなみ の顔が地面に落ち、それでも尚、美しすぎるその本当の顔は、ふてぶてしく嘲笑した。
「まぁ、歯応えはなかったけど今日の芸術は素晴らしかった。佐伯はきっとサツには自分からちくんねぇだろ。」
女装を解いた飛鳥は、男らしくも華麗に闇の中へ消えていった。
誰も俺の素顔を知らない。この男の名は、女に化ける大悪党、怪盗吉三。
続く




