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目指せラブコメ!!ということで、ラブコメに初挑戦してみました。

うまくいっているか不安ですが、書いている間は終始楽しかったです。

光にベタぼれの一の変態チックな行動をお楽しみいただけるとうれしいです。

最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。

最大限の感謝を読者のみなさんに捧げます。

 その翌日も、翌々日も、一はまったく光の前に姿を見せることはなかった。


 それでも、下駄箱には変わらず、薔薇が入れられていた。


 白い薔薇が10輪。その意味は、花言葉が、『深い尊敬』、10輪の意味が、『あなたは全てが完璧』。


 緋色の薔薇が24輪。その意味は、花言葉が、


『灼熱の恋』、24輪の意味が、『一日中思っています』。


 その他にも、いろいろな薔薇が差し入れられていた。


 その都度、京介がその薔薇の花言葉と意味を懇切丁寧に教えてくれた。


 光は、それを聞くたびに、切なくなった。


 切なくて、胸が苦しい。


 そんな思いを抱えながら、一週間が経過した。


 今日も一日が終わり、帰ろうとしているところへ、


「おい、ちょっと顔貸せよ」


 悠里が顎をくいっと教室の外へとしゃくった。


「なんやねん」


「いいから、僕についてこい」


 はあ、と光はため息を吐き出して、渋々悠里のあとについていった。


 行き着いた先は、体育倉庫の前だった。


「最近、伊集院先輩はおまえの前に姿を見せてないな。ふん、とうとう飽きられたんだ」


 ふふん、と嘲笑うように悠里が言った。


 光は、口を閉じていた。


 どうせ、こんなことを言われるだろうと光は予想していた。


 悠里は光を目の敵にしている。


 言いたいだけ言わせてやればいい。そしたら、それ以上突っかかってくることもなくなるだろう。


「おまえなんか最初から伊集院先輩には相応しくないんだ。それを思い知れ」


「言いたいことはそれだけか?」


「なんだと?」


 悠里の眉がひそめられる。


「なら、俺は帰る」


 そうして、踵を返そうとした時だった。


 体育倉庫から、三人の男子生徒が出てきた。


 にやりと意地の悪い笑みを浮かべている。


 光は、瞬時に危険だと悟った。


 そして、勢いよく身を翻そうとした。


 だが、一瞬早く、悠里が光の腕を掴んだ。


「放せっ!!」


「放すわけないだろ」


 ふふ、と悠里は楽しそうに嗤った。


 その笑顔に光はぞっとした。


 ヤバい。逃げないと!!


 悠里の手を振り払おうとするが、思いのほか強い力で握りしめられていて、振りほどけない。


 そこへ、先ほどの三人が光をがしっと捕まえた。そして、体育倉庫へと引きずっていく。


 本気でヤバい。


 光は身の危険をありありと感じた。


「放せっ!!」


 渾身の力で抵抗するが、三人に軽々と取り押さえられて無駄に終わる。


「さっさとやっちゃってよ」


 悠里が光を冷たく見下して言い放つ。


「へへへ、前からこいつのこと気になってたんだよ」


「俺も。こいつをやっちまえば、伊集院の悔しがる顔が拝めるぜ」


「はは、一石二鳥だな」


 ひひひ、と下卑た笑みを浮かべながら、男どもが光の服を剥いでゆく。


 光は、驚愕した。


 てっきり、暴力を振るわれるとばかり思っていたが、そうではない。光を犯すつもりだ。


 光の身体から血の気が引いてゆく。


 まさか、自分がこんな目に遭うなんて思わななかった。


「おまえにお似合いなのはこれさ」


 ははっ、と高らかに悠里は嘲笑う。


 上半身をすべて剥かれた。そして、卑しい男たちの手は下半身に向かう。


「やめろっ!!」


 抵抗しようにも、それぞれ両手を押さえつけられ、両足には男が馬乗りになっている。


 抵抗のしようがない。


 ズボンを脱がされる。


 ひんやりとした冷気に身体がブルッと震えた。


 いや、それは冷気のせいだけじゃない。


 光は、恐ろしさにブルブルと震えた。


「はは、震えてる。ガチウケるんだけど」


 悠里は悠然と光を見下ろしている。


 そして、男たちの手が下着に触れた。


(もうダメだ!!)


 光は、ギュッと目を閉じた。


 こんなことになるくらいなら、一にちゃんと謝ればよかった。


 大嫌いなんて言ってごめん、と謝ればよかった。


 本当はそんなことちっとも思っていない。本当に思っていることは――。


 その時だった。


「光っ」


 そう声がしたと思ったら、のしかかっていた男たちがいなくなった。


 いや、いなくなったのではない。


 蹴り上げられたのだ。


 いったい誰に?


 それは、一だ。


 地面に転がった男たちは、すぐに起き上がって体勢を整えて、一に襲いかかる。


 三人いっぺんの攻撃を一は巧みにかわした。かわすタイミングで相手に攻撃を加える。一人目には、みぞおちに痛撃を。二人目には、顔面に拳を叩きつける。三人目に至っては、股間の急所を容赦なく蹴り上げる。


「うっ」


「ぐあっ」


「ひぎゃっ」


 うめき声に悲鳴を上げて、それぞれが動きを止める。


 その隙を逃すことなく、一は第二打をくり出した。それは見事に、鮮やかに決まった。


 地面に倒れる男たちに、一はさらなる攻撃を仕掛けようとしている。その目は怒りに滾っている。


 光はその目を見て、ハッと我に返った。


 そして、素早く立ち上がると、一の前に立ち塞がった。


「アカン!! これ以上はヤバい!!」


「どいて。そいつらを許すわけにはいかない」


 地に這うような、低い声で一は言った。


「もうええ。十分やったって」


「いや、まだだ。こんなものじゃぜんぜん足りない。光を傷つけようとした報いを思う存分味あわせてやる」


 その目は血走っている。


 その目を見て、光は怖気が走った。


 こんな一は見たことがない。


 ――怖い。


 しかし、このままにしてはおけない。


(しっかりしろ!!)


 光は、怖気る自分に活を入れる。


 そして、一に訴えかけた。


「俺はなんもされてへんから。大丈夫やから。な、やから落ち着いて」


「でも、こいつらはっ」


「ほんまに俺はなんともないから」


 ほら、と両手を広げて見せる。だが、自分のひどい恰好に気づいて、光は慌てて身体を隠すように両手で覆った。


「た、ただ服脱がされただけ。他はなんもされてへんから!」


 羞恥に震えながら、光は言った。


 それを痛ましい目で一は見た。


 そして、歯を食いしばった。ギュッと目を閉じてなにかを必死にこらえている様子だった。


 しばらくの間のあと、そっと目を開いて、一が口を開いた。


「とっとと僕の前から消えろ」


 冷然とした声だった。


「さもないとただじゃおかない」


 ひどく冷酷な目で男と悠里を見据えた。


 ひっ、と悲鳴を上げると、一目散に男たちは逃げ出した。悠里はブルブルと震えている。


「聞こえなかった? 消えろって言ったんだ」


 顔面を蒼白にさせながら、悠里は唇を震わせ、


「伊集院先輩、すみません……」


 命乞いをするように言った。


「三つ数える間に消えないと、どうなるかわかるよな」


 目を眇めながら一は言った。


 悠里はガク一震える身体を叱咤するように叩きながら、転がるようにその場から逃げ出した。


 それを眺めていると、すぐに一は光を抱きしめた。


 キツくキツく抱きしめてくる。


「光、よかった……無事で」


 声が震えている。


 それは、車に引かれそうになった日を光に思い出させた。


 光の胸は切なく痛んだ。


 二度も一に心配をかけた。


 ああ、ちゃんと一に謝らないと。


 そう思って、光は告白した。


「あの、ごめん」


「え?」


 光を抱きしめていた腕を緩めて、一は光の瞳を見つめた。


「大嫌いって言うてごめん。ほんまはそんなことちっとも思ってへん。ほんまは、俺は、あんたのことを」


 その先の言葉がどうしても言えなかった。


 でも、胸は答えをせっつくように早鐘を打っている。


 答えはもう出ている。


 あとは、それを言葉にして一に伝えるだけだ。


「俺は、あんたのことが……好きや」


 言った。言ってしまった。もう取り返しはつかない。


 でも、後悔はしていない。これでいい。これでいいんだ。


「光っ」


 間髪入れず、一が再び光を抱きしめた。


 その強い抱擁に、光はひどく安堵した。


 この腕の中がこんなにも安心する日がくるなんて、思いもしなかった。想像すらしなかった。


 でも、今はこんなにも安堵する。とても快い。うれしい。


「ずっとずっとこの日が来るのを待ってた。光が僕を好きになってくれる日を。今、どんなに僕がうれしくてたまらないか、光にはわからないだろうね」


「うん……」


「やっとやっと君と思いが通じ合えた。まさに奇跡だ。神よ、ありがとうございます!!――光、好きだよ」


 それはそれはきれいな笑顔を浮かべて、たっぷりの愛情を込めて一は告げた。


「俺も、あんたが好きや」


「もう一回言って」


「好きや」


「もう一度」


「やから、好きやってば」


「まだ足りない」


「好きやっ!!」


 顔を真っ赤にしながら、光は怒鳴るようにして言った。


 それを至極幸せそうな顔で一は見ている。本当に幸福そうだ。とろけるような笑顔をその顔に浮かべている。


 そんな顔を見ていると、とてつもなく羞恥が襲ってきた。


 と、そこで、自分の有様を思い出す。


(うわぁっ、俺なんて恰好してるんやっ!!)


 上半身は裸、下半身に至ってはなんとか下着を残すのみ。ほぼ全裸だ。


 こんな格好で一に好きだと告白したなんて。


 恥ずかしい。超絶恥ずかしい。


 穴があったら入りたい。むしろ、その穴を今すぐ掘りたい。


 というか、まずはこのとんでもない恰好をなんとかしないと。


 光は、慌てて散らばった服を拾い集めて着込んだ。


 これで人心地ついた。


 ふう、とため息をつく。


 すると、


「光」


「ん?」


 いやに真剣な、熱のこもった目で光を見つめてくる。


(あ……)


 これからなにが行われようとしているのか、光は悟った。


 一の顔が徐々にアップで近づいてくる。


 光は、湧き立つ胸を感じながら、そっと目を閉じた。


 そっと静かに、唇が重ねられる。


 その温かくて柔らかな感触を感じた時、光の胸は打ち震えた。


 胸が甘くとろけてしまいそうだ。


 光は、我知らずうっとりとなっていた。


 なんてキスは甘いんだろう。初めてのキスに胸が熱くときめく。今にも弾けてしまいそうだ。トクトクと胸が高鳴っている。


 何度も優しく唇を重ね合わせる。


「ん」


 あえかな声が、光の唇から洩れた。


 羽のようなキスを受けて、光はくすぐったくって思わず、ふふ、と笑ってしまった。


 キスが解かれる。


 甘い甘い余韻に光は浸っていた。


 そんな光を愛しげに見つめ、


「光、愛してるよ」


「……ごめん、まだ俺には愛ってものがわからへんから、愛してるって言われへん」


 申し訳なさそうに、でも、正直に光は言った。


「それで、構わないよ。これから一緒にゆっくりと愛を育てていこう。時間はたっぷりあるんだから」


そう言って、光の頬を撫で上げる。


「うん」


 その手に光は頬を擦りよせる。


 そんな頑是ない仕草に、一は愛しそうに瞳を細めた。


 なんだか、こんな自分は自分じゃないみたいだ。


 気恥ずかしくなって、光は話題を逸らす。


「あ、そういえば、なんで俺がここにおるってわかったん?」


「それは、高見くんが急いで知らせてくれたんだ」


「京介が」


「いい友達を持ったね」


「うん」


 にっこりと笑って光は頷いた。本当に京介はいいヤツだ。


 あとでちゃんとお礼を言わなければ。


「なんだか、高見くんに嫉妬してしまいそうだよ」


「え、なんで?」


「高見くんへと向ける感情が友情だと知っていても、光が誰かに好意をいだいていると思うと、嫉妬してしまう。すべての好意を僕に向けてほしいと思ってしまう」


「……さっきちゃんと言うたやろ。俺が好きなのはあんたやって」


 なんて、嫉妬深いんだろう。いや、この場合は独占欲が強いといったほうが正しいか。


 なんていうか、やっぱり一らしいなと思ってしまう。期待を裏切らない。感心してしまう。


 でも、そんなところも今となっては、愛しく感じているのだけど。


 以前は、そんなところが気色悪くて仕方なかったのに。人の思い、思考は変わってゆくものなのだと、実感した。


 一の言っていたとおり、絶対はなかった。心は常に移り変わってゆく。


 光は、一を好きになった。


 一の言葉が現実のものとなった。


 こんな未来が待っているなんて、思いもよらなかった。考えも、想像もしなかった。


 でも、これからの二人の未来図を描いてゆくのはとても楽しそうだ。


「俺が、ちゃんと愛してるってあんたに言えるまでずっと側におってや?」


「もちろんだよ。ずっとずっと側にいて、君を守る。この命が終わりを告げるまで君を愛し続ける。この命を懸けて誓うよ」


 そう言って、一は自身の胸に手を当てて告げた。


 その様は、まるで中世の騎士のようだ。


 愛を誓う騎士。光だけの騎士。


 きっと、その言葉どおりその命が尽きるまで光を全身全霊で守り、愛し抜くだろう。


 容易に想像がつく。


 変態ストーカーが誇り高い騎士へと変身した。


 一が中世の甲冑を身に纏っている姿を思い浮かべて、光は思わず吹き出してしまった。


「似合いすぎやから」


「え、なにが?」


 不思議そうな顔をしている一へと、


「なんでもあらへん」


「え、気になるよ。なに?」


「秘密」


「えー教えてよ」


 そんな穏やかなやりとりをくり広げながら、二人は体育倉庫をあとにした。






 終わり良ければ総て良し。


 まさにこの言葉に尽きる。


 大嫌いだった相手が、大好きな人へと変わる。


 まるで魔法にかけられたように。


 きっと、一の魔法にかけられたに違いない。


 しかも、この魔法は死ぬまで解けない強力なヤツだ。


 騎士のうえに、魔法使いも兼任しているなんて笑ってしまう。


 でも、やはりそんなところも一らしいなと思えてしまう。


 愛しいなと思う。


 これから先、二人は愛をしっかりと育んでいくことだろう。


 二人の未来図は、幸福に彩られている。










<終>

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