信じられないでしょうけど、迷宮を打破する者と呪われた王族です!
常に雪が降り続ける、雪と氷の国『カイ』。
ここはその国に存在するたった一つの特殊なダンジョン、氷獄迷宮『囚われた明朗』の最奥部。
「……ハズレですか」
白い息を吐きながら、残念そうに言葉を漏らした小さな侵入者。
たった一人、少なくとも周りからはそう見える侵入者は、体に合っておらず膝先にまで届いているダウンジャンバーで身を包んだ子供であった。
はーっと息を吐いて自分の手を温める侵入者。声は落ち着いた様子で、しかしまだ幼さの残る程よいソプラノボイスは氷の宮殿とかした最奥部によく響いた。
そこを守る守護者、いや、それは成長し『魔王』にすら至っていたエネミーが、侵入者に向け賞賛を送るような殺気を放出する。
凍えるほどの冷気を掌から放ち、それを瞬く間に凝縮させ氷のレイピアを生成し装備した西洋の貴公子のような魔王が、侵入者へと牙を剥いた。
「シッ!」
レイピアの切っ先を向けた瞬間、貴公子エネミーの姿はブレ、侵入者の懐へと潜り込む。
「?」
しかし、高速で繰り出された刺突は、空を切る感触だけを魔王へと伝えた。
状況の理解が追いつかず魔王が首を傾げようとした。
「遅い」
しかし背後からかけられた言葉で我に帰り、急いで振り返り背後に飛ぶようにして体制を整えレイピアを再び構えた。
「……減点です」
侵入者は呟く。
「八つ当たりになりますが……まぁいいです。私が計ってあげますよ」
魔王は訳がわからずに混乱してしまっていた。
今の自分の攻撃がなぜ避けられたのか、認められない、認めたくない現実に打ちひしがれ、何故、何故という言葉だけが頭の中をめぐる。
自分の今の攻撃は完璧であったという自負があった。
それ故に、信じられないと見開いた目に写ったものは、先ほどまではこの場に居なかったはずの、しかして、居れば気づかないはずがないほどの、異様なナニカがそこに居た。
身長は2メートルあるかないかというほどの長身で、しかしそのシルエットが映し出す全身は、異常なまでに『細い』。
つるりとした体にはなんの不要物は見受けられず、それでいて何故か、細い足の足首から先のみ、ゴツゴツとした大きなブーツのようなものを履いており、まさしく異様なナニカである。
侵入者はその小さな体をそのナニカの肩にゆったりと預け、足を組み、冷たい視線で魔王を見つめていた。
レイピアを構え、決して油断せずに細心の注意を払い侵入者の様子を伺っていた魔王の体が、不意になんらかの衝撃を感じて数歩後ろへ後退する。
反射で衝撃を感じた部位へ視線を送ると、左手が無くなっていた。
「–––––––––ッ!」
急いで消失した部位に冷気を送り、それを凝縮する事で体を生成し、再び背後に振り返る。
そこには、冷たい視線を送る侵入者とそれを担ぎ上げる異様なシルエットが。
正体不明、理解不能の相手を前に魔王はある種の絶望を感じながら、三度レイピアを構えた。
「貴方は果たして何点ですかね」
侵入者は、慈悲のない眼で魔王を射抜く。
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深い絶望に飲まれながらも、最後まで諦めず、逃げ出さずに戦い抜いた魔王は。
今そのHPを全損し、全身にヒビが走ったかと思うとバラバラに砕け散り、その場に無数のアイテムをばら撒きながら無へと帰った。
「…………減点。0点です」
しかし侵入者の『少女』は冷たく言い放つ。
「最後まで戦い抜く姿勢、はぁ、くだらないですね。負けそうなら逃げるなりなんなりすればいいじゃないですか。逃げるくらいなら死んだほうがマシなんて、ただのカッコつけたがりの甘えです。そう思いませんか? 『アクセル』」
『キュル』
少女を担いでいるナニカが、『私に聞かれても……』とでもいうかのように鳴いた。
「速度と手数の多い剣術重視の軽戦士。雪の魔王『スノウマインド』でしたか。かなり自由度が高い性能のはずなのに、貴方の速度は綺麗すぎる。そんなんじゃ私の『アクセル』には勝てませんよ。もっと、必死で地面にすがるかのような、汚い、気持ち悪すぎるぐらい、『強い速さ』でない限り」
『キュルキュル』
あの人みたいな……そう続けられた少女のつぶやきに、アクセルと呼ばれたナニカが『うんうん』というかのように何度も首を縦に振っていた。
「はぁ」
アクセルの肩から飛び降り、華麗に着地を決めた少女がため息を誤魔化すかのように手を温める動作をして、ばら撒かれたアイテムを回収しようと屈んだ。
背後から、『落ち込むなよ』と言わんばかりのポンポンと少女の方をアクセルが叩き、少女はフッと頰を綻ばせた。
『キュル』
「…………そうですよね。何もこの世界はこの国だけじゃないですし。あの人ならきっと、どこかにいますよね。……まったく、この私をほっぽって、どこほっつき歩いてんですか、先輩……」
少女が少しご機嫌になったかと思い、一安心、とアクセルが思った瞬間。
「どうせ、どうせどっかで女の子の一人や二人でも引っ掛けてんですよ。のほほんとアホヅラ引っさげながらだらしなく可愛い女の子に鼻の下伸ばしてる姿が簡単に想像できます。ええ、きっとそうです、そうに違いありません。私のことをほっぽって、ふふ、ふふふふっ、あんの鋼鉄ゴキブリぃぃぃ……」
『キュ、キュル?』
メラッと彼女の髪が逆立った。
冷度が極まったその空間が、一時的に少し暖かくなるほどの熱量を発しながら。
「次会ったら、絶対にボコす」
『……キュッ!』
少女は肩をぷるぷると震わせながら怒りマークを頭に浮かべながら作業を開始するのだった。
アクセルが両手を頬におき、何とかの叫びよろしく、『ひょえー』っといったようなジェスチャーをしてブルブルと全身を震わせていたのは、寒さからではないだろう。
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…………ぅぉぉぉ?
な、なんだ?
何故だか急に猛烈な寒気が全身に走ったぞ?
ついつい、両手で自分の体を抱くようにして、辺りを見回す。
《ますたー、なんか震えたけど大丈夫?》
(ん、ああ。大丈夫、のはずだ。おかしいな、風邪でも引いたか?)
《そんな! たいへん、ミドリちゃんますたーが! ますたーが!》
(待て待て落ち着け。なんともないから。なんか違和感を感じたけどほんと、体に異常は特に無いから)
だから落ち着けと、言葉だけではなく、パーカーの上からアオを撫でることで伝えた。
《ふにゃ》
(本当に危なかったらちゃんと言うから。心配してくれてありがとな)
《あー! マスター、依怙贔屓はダメだとボクは思うなー!》
(わかったわかった。愛いやつめ愛いやつめ)
最早隠す必要もないので、二人を外に引っ張り出してそれぞれ体に引っ付けてから両手で撫で始める。
変な声を出しながらもぞもぞしていたスライムちゃんたちだったが、何故だがいよいよピクピクしながら動かなくなってきた。
いい感じにふにゃっとなっていてなによりである。
うん、可愛すぎ。
「ごほん。よろしいですか?」
「あ、申し訳ない。お願いします」
目の前のソファに座り咳払いをしながら此方を温かい目で見てくるサイドさんに謝罪をする。
いかんいかん、審判の儀が終わったことで気が緩みつい癒しを求めてしまった。
思っていた以上に気を張り詰めていたからな。30分ぐらいの謁見で、もう一日戦い続けていたかのような疲労感が…………てか、半日以上戦った後だったな、そういや。
先ほどの王室から場所は変わり、ココは客を通す時の応接室みたいなところだ。
壁に大小様々で規則性なくかかっている絵画達が渋くて味があり面白い。
王室から出て、また数十分歩かされた先にある部屋で、付いてきているのは俺を案内したサイドさんと騎士団長の二人だけだ。
罰の内容は何故か王室では発表されず、俺が頼みごとを受けると了承の意を示すと、審判の儀は終了し場所を変えると言い渡されたのだ。
それまでの言葉全てが大嘘で、牢屋に連れてかれたり、外に出た瞬間待ち構えていた騎士達にタコ殴りにされたりするんじゃないかと警戒していたが、そんなことはなくさりげなくホッとした。
「あの場でお伝えしなかったのは、事が事であるから、そう理解していただきたい」
「秘匿しなければならない事、というわけですか?」
「いえ、秘匿しなければいけないかと言われればそうではありません。その事自体は、この国に滞在しているほとんどの者が認知している事ですからね。しかし、言い方は悪いですが『他所者』であるあなた方がそれに関わる事が問題なのです」
成る程、な。
それだけ、この国にとって重要な何かであると言うわけだ。とてもこの国に関係がない奴らに教えていいようなものではなく、この国の核心につく問題であり。
「もっと言えば、この国にいるほとんどの人が認知していることでも。『他所者である俺たちに話を通して頼みごとをしなければならないほど切羽詰まっている』ということは認知されていないということ、ですね?」
だからこそ、公にはできないと。
「…………失礼ながら、貴方は他国のスパイか何かですか?」
「違います。というか全く関係ないですし、それ何より先に聞くことでは?」
「違うと言うことは、すでに此方側で調べはついておりましたからね。それに、いえ、この言葉はやめておきましょう、こうなった以上意味のないことです」
「途轍もなく気になるお言葉あざーっす」
どうせ、罪人として裁くつもりだったから、とか、そんなとこなんだろうなぁ。
「と、言うことだ。心して聞くことだな」
「騎士団長さんも、そんな扉の前で仁王立ちしてないでこっち座ったら? 別に逃げやせんがな」
「どうだかな」
扉の前で腕に組みながら仁王立ちで俺を監視する騎士団長さんに苦笑いを送っておく。
受けるといったからには、どんな無理難題でも受けるっての。
ただし、俺以外を危険に晒すようなことなら逃げるかもしれんが。
こんなこと言ってると、またみんなに怒られんだろうなぁ。
特に限界破壊に。くわばらくわばら。
「では、話させていただきましょう。覚悟はよろしいですね」
「どんとこいっす」
俺が自分の胸を叩き堂々と宣言すると、サイドさんは一度名目し、閉じられていた口を開けた。
どうでもいいけど、手がいてぇ。
「我が国の王、ラシルトン・フェルベール様のご息女、第一王女スピカ・フェルベール様は今、その身を病に侵されております」
おおっと、考えてはいたけど、やっぱり王族関係ですかそうですか。
何かを倒せだのなんだのと言う荒事も候補に上がっていたが、コレはお使いルートに分岐だな。
何処何処で、なになにをとってこい的な話だろう。
どうせまた、ダンジョンのボスやら特定のレアエネミーのレアドロップやらなんやらなんだろうなぁ。
そうゆうの、イベントで慣れっこです。
「病、ですか」
「はい。スピカお嬢様は生まれた時から病弱なお方でした。お身体が弱く、外に遊びにも行けずに毎日をこのお屋敷で過ごし、何故だか不幸な事が続きました。そしてある日、スピカお嬢様のステータスをお測りした時に、ある事が判明したのです」
「ステータスを見る事である事が判明、状態異常と言う事ですか?」
「状態異常、確かにそれに近いかもしれません。スピカお嬢様は、正確には病にではなく、『呪い』に苛まれていたのです」
『呪い』。
俺の腹に空いた穴(限界破壊の力でアビリティが消失したと同時に無くなったが)のように、アビリティ保持者にマイナス的な影響を与えるアビリティ。
基本的に『呪い』と呼ばれるものは、後天的に『呪詛』によって付与されたものを指すのだが。
あくまでそれは俺たちプレイヤーの視点から行った話であり、生まれた時からと言うことは、きっと先天的なものなのだろう。
俺たちプレイヤーは、そもそもキャラメイクの際に呪われたりなんかしてたら速攻リセットするしな。
まぁ、ミルクルさんがある意味先天的に呪われたに等しいか。
手に入れたアビリティは、『呪詛』などではなく、『祝福』であるが。
「成る程、私たちにその呪いを解除しろと、そう言うことですね」
「有り体に申し上げれば、そうなります」
解呪のお手伝い、ね。
やはりそうなるか。となると、少し時間が必要になるな。
素材集めにしても、魔道具の作成にしても言える話だが。
すぐにと言われても、エネミードロップとかだったら半分運ゲーだし、タイムアタックなんて正直初見クリアできる気がしない。
「ユベル殿。貴方は腕のいい治癒師のようですね」
「え? ……え、ああ、まぁ、どうも」
そういやそんな設定だったわ。
治癒師に近いことができる、ただのオートヒールタンクなだけなんだが。
「そして、薬学に関しても高い知識を有しているとか」
「う、ううん。まぁ、そうなるんですかね?」
俺が有していると言うか、ミドリが有していると言いますか。
まぁ、どっちでも似たようなもんだろ。
それにしても、なんで今そんなことを……
「スピカお嬢様のお体を苛む呪いは極めて複雑で、正体すらつかめず、多くの治癒師、除呪師が匙を投げました。正直、私達もどうすれば良いのか検討も付いておりません」
まぁ、アビリティとして付与されている呪いを解除するのは結構条件厳しいからな。
俺の『限界破壊』みたいに、アビリティを喰らうアビリティで相殺するとか、そう言う方法でしかどうしようもない。
あとは、呪いをかけた張本人に解除させるとかだけど、生まれた時からとなるとそれも難しい。
その王女の暗殺を図って誰かが呪いをかけた、とかだと話は別だが。
「聞いた話だと、貴方はとても奇妙な能力で、苦しむ彼女を瞬く間に救ったとか」
「いえ、そこまで大したことでは」
「アビリティに体を苛まれ苦しむ者を救う。今、お嬢様を救えるのは貴方しかおりません」
サイドさんはすっと立ち上がり、片手を胸に手をおいた。
「ユベル殿、スピカお嬢様のお命を、貴方の奇跡で、どうか助けていただきたい」
そう言って強い目で俺を射抜きながらサイドさんは頭を下げた。
「…………はい?」
俺は、想像していなかった頼みごとに、フリーズするしかなかった。
ま、マジで?




