信じられないでしょうけど、思い当たる節が……あれ? です!
「『ユベル』……ね」
「同名の別人という可能性も無きにしも非ずだけどな」
「気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着きなさいよ。いつまで拗ねてんの?」
「別に拗ねてるわけじゃないよ。ただ、根も葉もない噂を立てられたあげくあの対応がどうにも腹に据えかねて怒ってるだけだ」
現在俺達は、久しぶりに少し苛立ちながら森林に囲まれた小屋でコーヒーを飲んでいた。
「拗ねてるんじゃん。ま、私達はわかってるから気にしないほうがいいって。てか、ユベルちゃんは本来そういうタチのくせに、どうしたのよ今回は」
「初対面の他人にあそこまで否定的な目をされてぶっちゃけ凹んでるんだよ……はぁ」
机に頭を打ち付けて脱力する。
理由もない忌避感に怒りたくなるのもしょうがないことだろう。
俺は人間なんだぞ。ショックは受けるし怒ることだってあるさ。
「わかったわかった。相変らずの豆腐メンタルね〜」
「うっせ。ほっとけ」
「ほっとくと何するかわからないから却下よ。あれ? もう飲んじゃったの? コーヒーおかわりいる?」
「…………ああ」
あの国でコーヒー豆が入手できるとは思わなかったけど、久しぶりだと懐かしさも相まってなかなか美味しい。
あっという間に空になったコップに、目ざとくそれを察知したミルクルさんがコポコポと音を立てながら黒い液体を注ぎ込んでくれる。
「ありがと」
「どういたしまして」
それを眺め、先ほどのことを思い出しまたため息が出そうになり頭を抱えた。
酒場で話を聞いた限り、なんか俺が悪者みたいな噂が流れているらしいのだ。
いや、正確にはある時を境にガンが『ユベル』という俺の名前を異様に警戒したり、会ったことがあるかだとかどんな奴だとか国の人に聞き込んでいたりと奇行が目立つようになったのだという。
そこで、『俺がガンに何かしておかしくなったのではないか』という噂が流れたとのこと。
そんでもって、全員が全員、俺のことをあまり好意的ではない目で見て来る上に、対応も酷かった。
当初はわけがわからずに混乱してなにもなかったが、その場を後にし小屋に帰ってきてから、記憶がリピートされそれが爆発物、モヤモヤと胸に残っていたものが着火元となり怒りの炎が轟々と燃え盛った。
「はぁ〜」
《よしよし、ますたー。元気出して。これ食べる、おいしいよ?》
「ありがとな」
《時には怒るのだって重要な事なんだから好きなだけ放出するがいいよ。ボクならいくらでも話を聞くから。溜め込むのはストレスになるからね、しっかりと発散できる時にしておかないと》
「癒しのおかげで怒る気なんか失せたっての。ははっ、よしよし。ありがと。ミルクルさんもサンキューな」
しかしそんな俺の姿を見かねたか、アオやミドリ、そんで珍しくミルクルさんまで慰めてくれた。
素直に嬉しいのだが、一度心が癒されてしまうと後からはあの程度で目くじらを立てた自分の沸点の低さに対する羞恥と、ミルクルさんにあたった罪悪感が募って少し困る。
「あー、それとミルクルさん。あたってごめんな。言い方きつかったよ」
「そんな日もあるから気にしないの。というか、ゲーム時代の時はもっとギスってた時があったのに今更じゃない?」
「今はゲームじゃないだろ」
「関係は変わらないわよ。現実だろうとゲームだろうとね」
それは、どうだろうな。俺は現実とゲームは切り離して考える奴だったし。
ゲーム上での友達をリアルの友達のように考えていたかと言われると少し疑惑がある。
ゲーム8現実2の割合で生活するほどリアルを割り切っていたけどな。
半分以上は俺のリアルはゲームの中だったとは言えどもだ。
「現に私達は変わっていないでしょ?」
その言葉はかなり強引かつ、説得力のあるものだった。
成る程。俺たちはここをリアルと受け取っているが、確かに俺たちの関係はゲームの時となんら変わってはいない。
しかしそれは、お互いに話し合ったことで生まれた結果であって、それがなかったら今頃はどうなっていたかわからないし、ゲーム時代のことを考えると……
「あ」
「どしたのユベルちゃん」
ゲーム時代の俺の友好関係を思い出した瞬間、一つとんでもないことを思い出した。
「あー……」
《ますたー?》
上がりかけていたテンションが再び下落する。
二度目の机とのキスを敢行し、あー、うー、と唸りながら両手で頭を抱える。
「おごぉ!」
俺の謎行動が見てられなかったのか、ミルクルさんの剣の塚で殴られた。
後頭部が痛みを訴えてくる。くっそー、この人こんな些事にすら特別を使いやがって。いってーなぁ。
「睨まないの。変なことし始めたのはユベルちゃんが先でしょ。で? どしたのよ。キリキリ吐きなさい」
「あー、そのだな……」
ミルクルさんから微妙に視線を外し始めると、その先にスライムちゃんズを発見し急いで捕獲する。
そんでもって抱きかかえたりなでなでして心のケアをはかりながら意を決して話すこととする。
「さっきの噂あったろ? 似たようなことが、実は一度あったことを思い出した。その、原因わかったかも……」
「わお。よかったじゃん。そのバツの悪そうな顔が気になるけど。まさかユベルちゃんが原因だとかいうオチはないでしょうね?」
「なわけあるか。ミルクルさんもめちゃくちゃ知ってる奴だよ…………《Kenzou》」
その名前を出して目元を覆う。
頭から血の気が引いてきて笑えない笑いが漏れてくる中、数秒。
恐らく、百面相を終えたであろうミルクルさんが、納得の声を上げた。
「あーあ」
それは納得なのか、「やっちまったな」という方の「あーあ」なのか判別はできなかった。
「残念ながらあのアホならやりかねん……何やってんだあいつ……」
まぁ、あくまで憶測だよ?
でも、そんな気がしてならない。というか自分の中で確信してしまった。
願わくば間違いであってほしいが、もし間違いじゃないのなら、他人任せで放っておけることではない。
もしあのアホのせいならば、俺に原因の一端はあるわけだし。
身内の不始末は、身内の中の誰かが掃除する。
椅子の背もたれに背を預け、腕の中のアオとミドリの困惑の声にどう返せば良いものか考えながら、かつての『ソロ仲間』の事を思い出す。
--- --- --- ---
「気は進まないけど、まずはなにより」
「謝りに行きましょうか」
「そうだな」
ここでいくら憶測に憶測を重ねても答えなどいつまでたっても出やしない。
ならば直接的な話に行くのが最も効率的かつ早いだろう。
警戒されている俺と、もうすでに一悶着あるミルクルさんが行って話ができるかどうか怪しいけどな。
なぁに。いざとなれば俺には魔法の言葉がある。
もしこの言葉が有効なら、俺たちの予想は確定に近づく。しかし逆に相手が理解しないのならば、俺たちの予想はてんで的ハズレだったということになる。
それならばそれで今度は俺たちに関係ないのだから戦略的撤退を決め込むだけだ。
爺さんのねぐらに飛び込むのもアリだな。三日後には俺のナイフも作って貰う約束したし。
ガンがおかしくなり始めたのは最近のことではないらしい。
それだけ時間があったというのに、爺さんは俺の依頼を受け剣を打ってくれたということは、ケンゾウの奴は爺さんのところにまで手を伸ばしてはいなかったと考えられる。
あいつのプレイスタイルもまたやらしいからなぁ。もしあいつの仕業なのだとしたら間違いなく爺さんも標的になるんだが……
俺の名前を聞いて眉ひとつ動かなかったし、さてはあいつイベントのことは知っててもイジ爺さんがどんな人かは知らなかったな。
なるほどなるほど。そうなると恐らくミルクルさんも知らないだろう。
なぜなら俺が発見、公開した『老い錆びた心に熱を打て』イベントは、イベントの概要以外全く広まっていないからだ。
攻略法も、まずどのNPCがイベントトリガーなのかも、一度イベントを受けようと努力したやつしかわからないように調整してある。
やったの俺だけどなッ!
なんの苦労もしないで俺と同じ結果を得ようなどと考えが甘いんじゃ!
「う〜わ。ゲッスいこと考えてる顔してるわ」
「やかましい! ほら行くぞ」
また国に戻ってきて地図を広げる。
余談だが、ついさっき俺が怒って飛び出したせいで入国料を払わないで森に戻ってしまったのだが、門番の兄さんが戻ってきたならよしということで気前よく許してくれた。
昨日はちゃんとゴールドを支払ったぞ? アオに出してもらってない。
なんにしてもこれで余分なゴールドを支払わずに済んだ。EGOでのオマケは素直に嬉しい。もうけ。
「そういえば昨日ミルクルさん酒場に止まったんだよな。おいくら万円?」
「食事込みで2万ゴールド」
「入国料払って正解だったわ」
「普通あんなところに拠点ないからね?」
それもそうか。金がないなら野宿するしかないこの世界ではありがたい。
はっはっは。野宿には野宿の良さがあるからな。
とはいえ、基本的に宿にはお金をかけたい派なんだよな。
野宿をキャンプとするなら宿は観光地だ。
その場所の風土や文化を感じられる一つの指標。宿の設備はどれぐらい行き渡ってるかとかで気分も自然と高まるのだ。
俺はお風呂があると嬉しいな。
ミルクルさんの雰囲気的に、酒場の二階とやらはそこまでいい宿とは呼べない代物だったのだろう。
「うるさくて寝れたもんじゃなかったよ」
「ドワーフで大雑把だからそこまで防音効果を注視してないんだろうな。多分この国の人たちは余裕で寝れるんだと思うぞ」
それも勉強だよ。
「その国独自の宿文化を知れて良かったじゃないか。まぁ俺は泊まらねぇけど。つーか、地図見づら」
「私も今日は泊まる気しないよ」
《マスター道間違えてるよ》
《逆方向きてる》
「うおマジか。どうりで変だと思ったわ」
ゲーム時代のマップ機能とナビが欲しいと思う今日この頃。
スライムちゃんのアシストをもらいながら回れ右をし移動を再開。
『頑鉄工房』がないことで一悶着があった後ミルクルさんと気づけたことがあったおかげでなんとかガンに会いに行けそうだ。
ゲーム時代とは少し変わった見覚えのない地形の描かれた地図。
そこに載っている、こちらも見覚えのない工房が二つ。
その工房の一つ。
「よし。着いた」
目的地。『頑強工房』という名の看板が立ててある工房の前に、俺たちは立っていた。




