18 崩れていく
部屋の空気が、ぴたりと止まった。
パーシーの言葉は冗談だが、笑う者は一人もいない。
「……ばあさんを殺した、だと?」
グレースの声が低く響いた。
パーシーは肩をすくめる。
「いや、そう聞こえるだろ。
亡くなった祖母の形見なんだろ?」
マリアの顔が真っ白になっていた。
「それは……」
声が震えている。
薬師管理組合の職員が紙を見ながら言う。
「記録にはこうあります。
『亡くなった祖母の形見のブローチを盗まれた』」
職員は顔を上げた。
「しかし今、祖母は二人とも存命だと証言されました」
部屋の中にざわめきが広がる。
マリアは必死に言葉を探していた。
「ち、違うんです。昔の祖母で……」
「昔の祖母?」
ホースシューのリーダーが静かに言う。
「三人目の祖母がいるのか?」
マリアは何も言えない。
隣に座っていた姉が、小さく息を吐いた。
その仕草に、グレースが怒鳴る。
「何をため息ついてるんだい!」
「……」
姉はゆっくり口を開いた。姉の冷たい目がマリアに向けられた瞬間、胸の奥がわずかに疼いた。
あの姉妹の間に、わたしの知らない何かがある。
「そのブローチ、家の物じゃありません。祖母の持ち物だとか、冗談でしょ」
一瞬、空気が凍りついた。
「なんだって?」
職員が身を乗り出す。
姉は続けた。
「わたしたちの家に、そんなブローチはありません。
祖母の物でもありません」
マリアが立ち上がった。
「嘘よ!」
声がひっくり返る。
「お姉様、どうしてそんなこと言うの!」
姉はマリアを見た。
その視線に、情は一滴もなかった。
「だって、見たことがないもの。嘘は良くないわ。ダイアナさんになんてことをしたの?」
沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは、ジェフだった。
「……なるほど」
穏やかな声だったが、重かった。
「では聞こう」
ジェフはマリアを見た。
「そのブローチは、どこから来た?」
マリアの唇が震える。
答えが出ない。
ホースシューのマイクが笑った。
「おいおい」
「証拠って、こんなもんだったのか?」
職員の顔色が変わる。
机の上の書類をめくる音が響いた。
「……証拠の出所を確認する」
低い声だった。
部屋の空気が一気に変わった。
今まで疑われていたのは、ダイアナだった。
だが今、
疑われているのは――
マリアだった。
わたしは黙って座っていた。
胸の奥で、何かが静かにほどけていく。
ホースシューのリーダーが椅子に背を預けて言う。
「さて」
「ようやく、本当の話が始まりそうだな」
窓の外では、王都の風が吹いていた。
遠くから、誰かの咳が聞こえる。
王都ではまだ、あの病が広がっている。
だけどこの部屋では、別の病が暴かれようとしていた。
嘘という病が。
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