15 不正の証拠
王都では、ひとつの噂が広がっていた。
夜になると止まらない咳。
横になると喉が焼けるようになり、眠れない。
その症状に効く薬があるという。
それは冒険者ギルドでもらえる小さな包みだった。
◇◆◇◆◇
王都の冒険者ギルドの前には、朝から長い列ができていた。
革鎧の男、商人風の男、子どもを連れた母親。
皆が咳をしている。
「ごほっ……ごほっ……」
「夜がつらいんだ」
「この前のは効いたんだ。もう一つくれ」
受付の冒険者が困った顔をする。
「薬じゃないんだって。これはおまけだから」
「でも効くんだろ?」
「効く人が多いだけで、薬じゃない」
そこに、黒い服の男たちが入ってきた。
薬師管理組合の職員だった。
男は机の上の小袋を指でつまんだ。
「この薬を作っている薬師に連絡を取りたい」
受付の冒険者が肩をすくめる。
「薬じゃないですよ」
「咳に効くと評判ではないか」
「それはおまけです」
「おまけ?」
「トチュウ村のお菓子と薬草茶の店の焼き菓子です」
「……菓子屋だと?」
「焼き菓子がうまいんですよ。ほら、この行列」
職員は顔をしかめた。
「なにをくだらないことを言っている」
男は立ち上がる。
「直接行く」
◇◆◇◆◇
トチュウ村。
昼の風が、干された薬草を揺らしていた。
小さな店の前には木の看板が立っている。
【疲れてませんか? 薬草茶あります。
お腹すいてませんか? お菓子あります。】
戸が開く。
「いらっしゃいませ」
わたしは頭を下げた。
入ってきたのは見慣れない男たちだった。
服はきちんとしているが、ひよわそうだ。
祖母が小さく言う。
「役所の人だね」
男が言った。
「君がダイアナか」
「はい」
男は机に小袋を置いた。
王都の冒険者ギルドで配られている包みだった。
「この薬を作っているのは君だな」
わたしは首を振った。
「薬じゃありません」
「咳に効く」
「焼き菓子のおまけです」
「作り方を教えてほしい」
わたしは奥の壁から紙を持ってきた。
破れた免許証。
机の上に置く。
「薬作りの指導はやりません」
男が眉をひそめる。
「なぜだ」
「やれないんです」
「なぜ」
「わかりませんか?免許を取り消されました。目の前で破られました」
男たちは顔を見合わせた。
そこへ、扉が勢いよく開いた。
「おーい、ダイアナ」
入ってきたのは冒険者パーティーホースシューの四人組。
リーダーが店内を見て笑う。
「お、役所か」
職員が言う。
「知り合いか」
「客だよ」
男は椅子に座る。
「それで、なにを聞きに来た」
職員が言う。
「この薬の作り方を――」
リーダーは遮った。
「焼き菓子のおまけだ」
「だが効く」
「それがどうした?」
職員は机を叩いた。
「王都では多くの人が苦しんでいる!」
「だから?違法行為をやれと?」
リーダーの静かな声がこわい。
「違法行為だと?」
「今、免許がないと見せただろ。破られた免許」
「そうだが……」
職員の声が消えた。
店の中が静かになる。
祖母がゆっくり言った。
「昔もあったよ」
職員が振り向く。
「三十年前」
祖母は続ける。
「夜になると咳が出る病」
「知っているのか」
「その時はこの店の薬を王都に送った」
職員の目が光る。
「では作れるのか」
祖母は首を振った。
「薬は作れない、わたしは免許を持たない」
そしてダイアナを見た。
「この娘も免許がないからね」
ホースシューのリーダーが口を開いた。
「証拠が間違っていると教えてやったんだがな」
職員が言う。
「間違っている?」
「この子の免許を破った証拠だ。間違っている。ちゃんと調べてあの程度。信用ならんな」
店の空気が変わった。
客が職員を見ている。
「証拠が間違っている?」
リーダーは笑った。
「そうだ」
「ちゃんと調べたはずだ」
「それが間違っている」
「だから今から、もう一度調べろと言っている。王都では多くの人が苦しんでいるそうだな。早く不正がわかっていればなぁ」
職員の顔が固まる。
「それは……」
わたしの胸が、どくんと鳴った。
外では、夕方の風が吹いていた。
トチュウ村の小さな店。
その静かな場所で、ようやく、何かが動き始めていた。
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