14 薬はおまけ
ついに咳の病が、この辺りでも流行りはじめた。
最初は一人、二人だった。
村に来る冒険者が、咳をしている。
ダンジョン帰りの疲れのせいだと思っていたけれど、数日後には別の冒険者も同じ咳をしていた。
「最近増えたね。ついにここまで来たね」
祖母が干し台の薬草を見ながら言う。
わたしは湯を沸かしながらうなずく。
「うん。昨日来た人も咳してた」
小さな店の中には薬草の匂いが満ちている。
蜂蜜と木の実の焼き菓子の甘い匂いも混ざっている。
ここに来る冒険者は、みんな疲れている。
そして最近は、咳までしている。
湯が沸いた。
急須に薬草を入れる。
祖母が言う。
「咳止めを多めに作っておいた方がいいかもしれないね」
わたしはうなずいた。
「うん。多めに作っておこう」
祖母の祖母から伝わる処方の薬、昔、人々を救った薬だ。
きれいになれ。
声には出さない。
ただ心の中で願う。
それから急須に湯を注ぐ。
湯気がふわりと立ちのぼった。
「いい香りだね」
祖母が言う。
「うん。効きそう」
咳止めのお茶はすぐに出来る。
それだけじゃなくて、咳止めの薬草を練り込んだ焼き菓子も焼いた。
薬じゃないから、売ることができる。
薬は売ってはいけない。免許がないから。
わたしは薬を作れる。祖母も作れる。
でも売ることはできない。
その日の午後、扉が開いた。
「こんにちは」
咳をしながら冒険者が入ってくる。
「いらっしゃい」
「あれ?喉が楽なような」と首をかしげる。
「ここ、体が楽になるお茶があるって聞いた」
わたしは笑って頭を下げる。
「いらっしゃいませ」
「今日は咳が止まらなくてさ」
わたしは急須を持つ。
「咳にいいお茶がありますよ」
「ほんとか?」
「はい」
お茶を並べる。焼き菓子を皿に載せる。
「お菓子にも少し薬草が入ってます」
「へえ」
男が一口食べた。
「うまい」
隣の男が笑う。
「ほんとだ。うまい」
それからお茶を飲む。
「……あれ?」
「どうした」
「少し楽になった気がする」
わたしは少しだけ笑う。
「体が治ろうとするのを助けるだけです」
祖母がうなずく。
「薬じゃないからね、すぐには効かないんだよ」
「それで十分だよ」
冒険者は笑った。
その頃、王都では咳の病が広がりが止まらなかった。
咳で体が弱り、別の病にかかる人も出てきたらしい。
ある日、常連の冒険者が言った。
「王都は大変だぞ」
「そうなんですか?」
「近寄りたくない場所になってる」
わたしは手を止める。
「……そうなんだ」
冒険者は椅子にもたれて言う。
「薬がないし、薬が効かないようだ」
祖母がちらっとこちらを見る。
「そうかい。こわいね」
わたしはお茶を入れながら聞いていた。
「おれたちにはここがあるからいいけどな」
それを聞いて店内の冒険者が笑った。
そこに新しくやって来たのは、ホースシューの四人だ。
「王都の話をしていたようだな。本当にひどい状態だ」
「そうですか」
「ちょっと二人で話せるか?」
わたしと祖母は顔を見合わせてうなずいた。
「薬師管理組合に話をして対処するように言っといたんだが、なんにもやってない。催促したら検討中だと」
検討中。
それは、何もする気がない言葉だ。
その理由は、間違いだったと認めると、組合の権威が落ちるから。
腹が立つ。
リーダーは
「それでな、王都の状態は聞いていると思うが、ほんとに薬がない」
「見たいですね」
「それでな。焼き菓子のおまけに薬をつけて売ろうと思う」
わたしは顔を上げる。
「え?それって?」
リーダーが笑う。
「おまけだ」
「おまけ?」
「焼き菓子のおまけに咳の薬をつける」
「いいんですか?」
「焼き菓子だからね」
「実は王都の冒険者ギルドに話をつけてある」
わたしは目を丸くする。
「ギルドで?」
「ああ」
男はうなずいた。
「王都の冒険者ギルドで売る。ギルド長なら話がわかる」
「そうなんですか?」
「トチュウ村の薬屋には昔から助けられてる」
「それって?」
「そうだ。初心者の頃、ここの世話になっている」
そうして王都の冒険者ギルドで、咳の薬が売られはじめた。
焼き菓子のおまけとして。
その薬は、すぐに評判になった。
咳が止まる。体が楽になる。
わたしと祖母はどんどん薬を作った。
ある夕方、祖母が庭で薬草を干しながら言った。
「ダイアナ」
「うん?」
「時代は面白いね」
「どうして?」
祖母は笑った。
「紙がなくても、人はちゃんと見ている」
わたしは井戸をのぞく。
水は静かに光っていた。
きれいになれ。
そう願いながら、わたしは桶を下ろした。
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