12 二人の祖母
四人組の冒険者が薬師管理組合の扉を押し開けたとき、室内には乾いた紙の匂いが満ちていた。
「失礼する」と先頭の男が言う。
「本日はどういったご用件で」と管理者が顔を上げる。
「免許を取り消された見習いについて聞きたい。ダイアナという娘だ」
管理者は一枚の記録紙を取り出し、淡々と答える。
「理由は明確です。亡くなった祖母の形見のブローチを盗んだ。薬師は信頼が第一。資格取り消しは妥当です」
「ちゃんと調べたんだな?」と女性の冒険者が問い返す。
「もちろんです。証拠も出ました。鞄から現物が」
「人の人生がかかっている」と別の男が低く言う。
管理者は少し眉をひそめた。
「だからこそ、厳正に対処しました」
四人は顔を見合わせ、礼を言って組合を後にした。
次に向かったのはポイード薬局だった。店内には整然と薬瓶が並び、乾燥した薬草が吊るされている。
「いらっしゃいませ」とエマが応対する。
「少し聞きたいことがある」と冒険者のリーダーが言う。「ダイアナという見習いのことだ」
エマは一瞬視線を泳がせた。
「ああ……あの子ね」
「盗みを働いたと聞いた」
「ええ、マリアがそう言って……すぐに役所に報告しました。店としては当然のことです」
女性の冒険者が一歩踏み出す。
「本人と話は?」
「……必要ありませんでした。鞄から出てきたのですから」
「普段の様子はどうだった?」
エマは肩をすくめる。
「仕事はあまり熱心とは言えませんでした。水汲みや掃除をマリアに任せがちで」
「任せがち?」
「ええ。マリアはよくやっていました」
「薬の腕は?」と別の男が聞く。
「基礎は出来ていたと思います。でも、特別優秀というほどでは」
リーダーは静かに言う。
「祖母に育てられた娘が、その祖母の形見を盗むか?」
エマは口ごもる。
「……気持ちはわかりません。でも、証拠が」
四人はそれ以上は追及せず、店を出た。
「どう思う」と赤毛の男が言う。
「話がきれいすぎる」と女性が答える。
「次はマリア本人だな」
町外れの新しい薬局は、白い壁がまぶしかった。中に入ると、若い女性と年老いた女性がカウンターに立っている。
「いらっしゃい」と老婦人が明るく言う。
「最近、冒険者のお客様が増えましたのよ」と老婦人が続ける。「このマリアが店に立つようになってからね」
「あなたがマリアさんか」とリーダーが声をかける。
「はい、そうです」とマリアはにこやかに答える。「何かお探しですか?」
「薬を少し。それと、この店のことを聞いてもいいか?前より店構えが大きくなったかな?」
「ええ、婿さんの家の支援もあってね、少し広げたのよ」と老婦人が言う。
「婿さん?」とリーダーが聞く。
「姉の婚約者よ」とマリアが答える。「この町でも評判の薬師です」
「なるほど」とリーダーがうなずく。
「あなたは?」と女性の冒険者が尋ねる。
「わたしはルイーズ。マリアの祖母よ」
「おばあさまが店に立っているのか」
「そうよ」とルイーズは得意げに言う。「孫たちががんばっているんだもの、わたしも手伝わないとね」
マリアが少し照れたように言う。
「おばあちゃんは、いるだけでお客様が安心するんです」
「まあ、うまいこと言うねえ」とルイーズが笑う
ルイーズは止まらない。
「マリアもね、大きな薬局で修行してきたの。ポイード薬局って知ってる?」
「有名な所だね、もちろん知ってる」と女性の冒険者が言う。
「あそこで半年、きっちり見習いをやり通したのよ。朝も早かったのよね」
「大変でした」とマリアが微笑む。
「でも、この子は明るくてね。どこへ行っても可愛がられるの」とルイーズは言う。「商売は腕だけじゃないのよ、人柄も大事なの」
赤毛の男が何気なく聞く。
「店はおばあさま一人で?」
「いいえ」とルイーズが首を振る。「もう一人いるのよ」
「もう一人?」
「グレースよ」とルイーズが言う。「わたしと交代で店に立っているの」
「今日はルイーズさんの日か」
「そうよ。グレースは今日は休みなの」
マリアが笑いながら言う。
「おばあちゃん二人で交代制なんです。わたしはどちらにも頭が上がりません」
「おばあちゃんが二人とも店に?」と女性の冒険者が確認する。
「そうよ」とルイーズは当然のように答える。「父方と母方、どちらも元気よ。まだまだ現役なんだから」
「元気すぎて困るくらい」とマリアが冗談めかして言う。
「なんですって」とルイーズが笑い、軽く肩をたたく。
店内には明るい空気が満ちている。
リーダーはうなずいた。
「家族で支えている店なんだな」
「そうよ」とルイーズが誇らしげに言う。
「でも、中心はマリアよ。それを家族が支えているの」
「仲がよさそうだ」と赤毛の男が言う。
「もちろんよ」とルイーズは即答する。「孫は宝だもの」
マリアは静かに頭を下げる。
「ありがとうございます」
薬をいくつか包んでもらい、四人は代金を払った。
「また来てくださいね」とマリアが言う。
「今度はグレースにも会っていって」とルイーズが笑う。
扉の鈴が再び鳴り、四人は外へ出た。
通りに出てから、赤毛の男が小さく言う。
「祖母は二人とも元気だな」
女性の冒険者が静かにうなずく。
「交代で店に立っていると言っていた」
リーダーは振り返らずに言った。
「聞けたのは、それだけでいい」
四人は足並みをそろえて歩き出した。
四人はもう一度薬師管理組合にやって来た。
「ポイード薬局のダイアナの問題だが、マリアの祖母は父方、母方ともに生きている。死んだ祖母が誰か調べたほうがいいぞ。問題が大きくなる前に自身で方をつけたほうがいい。ポイード薬局のやつらも感づいて知らんふりをしている可能性がある。信用問題だ。それでは急ぐから行く」
そういうと四人はさっさと部屋を出た。
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