11 お祝いのパーティ
ジェフ様と旦那様が奥で話していることは、なんとなく察していた。
わたしをどうするか。
見習いは終わった。資格も取れた。
でも……店に残れない。その空気は、ずっと前から感じていた。
ダイアナが作る薬を自分のものだとごまかすことはできない。
薬を提出する時の親しいおしゃべりはなくなった。でもちゃんと理由は告げている。
「あの事件のショックが大きくて」
「そうだよね。辛かったね」とアーチ―先輩が庇ってくれる。
先輩は水汲みもしてくれた。
だから、部屋に呼びだされたとき、背筋を伸ばして入った。
ジェフ様はやわらかく笑っていた。
「薬師になれた、がんばったね、おめでとう。お祝いのパーティーはうちが開くから、君のご両親、ご家族、親戚を好きなだけ呼んでくれ」
祝福の言葉は温かい。パーティも開いてくれる。
でも、雇うとは言わない。
「ここで働き続けたいのですが、実は姉とあまり……」
ジェフ様は少しも迷わず言った。
「残念、人は足りているんだ。実家の薬局の手伝いをしてあげて欲しい。姉妹ではなく同じ薬師として付き合えばうまくいくよ」
わたしは目を潤ませて見上げた。
計算したのではない、本当に悔しかった。
にっこりと笑いながら、ジェフ様は言った。
「泣かれると辛いな」
わたしはただ、ここに残りたかっただけ、あざといことをしたのではない。
パーティの日は、家族がおしゃれしてやって来た。
当たり前だが、姉は機嫌が悪い。義兄は居心地悪そう。
祖母二人は、本当に喜んでいる。祖父二人と両親も嬉しそうだ。
「マリア。がんばったわね。店も大きくなったから助かるわ。いい娘を二人持って鼻が高いよ」
母は、姉がわたしに言ったことは知らないから、のんきに喜んでいる。
「マリア、さすがだわ。ポイード薬局で見習いをしたなんて鼻が高いわ」
祖母たちが目を細める。わたしの最大に理解者で味方。見ててわたし、薬局を貰うから。
わたしは二人を抱きしめる。
「ありがとう、ルイーズおばあ様。グレースおばあ様」
義兄が少しぎこちなく言う。
「マリア。おめでとう」
「ありがとう義兄様」
姉は笑っているが、その目は冷たい。
店の主は姉だ。わたしは雇われた薬師の一人になるだろう。
そのとき、エマ先輩が何気なく言った。
「おばあ様はお二人とも生きてらっしゃるの?死んだおばあ様がいらっしゃるの?」
一瞬で空気が止まった。
そうだ、わたしは不用意に言ったんだ。
「死んだおばあ様の形見のブローチ」って言葉を。
背中がさっと冷えた。
祖母たちが顔をしかめる。
「縁起でもない、生きてますわ。マリアが店を継ぐ日を見るまでは」
「そうです大きな薬局の主人になる日をみるまでは」
わたしはそしれぬ顔で笑顔を保った。けれど、内側で何かが崩れていく。
エマ先輩がなおも続ける
「死んだおばあ様の形見ってなんだったの?」
その問いは、軽い、単なる世間話に聞こえる。
でも刃のようだった。
わたしは即座に言った。
「なんですか?それ。そんなことありましたか?」
声も態度も自然だった。嘘を重ねるのは慣れている。
パーティはそのまま、どこかぎこちなく続いた。
先輩がたは、冷めた目になった。
料理は豪華で、笑い声もある。
でも、誰も本当に祝ってはいない。
今更、あのことを蒸し返す人はいなかった。
だけど、わたしがダイアナを陥れたことを全員が悟った。
だけど、わたしは笑顔を絶やさなかった。
敗北を認めたくないから、負けた顔をしたくないから。
戻ってから、新たに戦う。姉を追い落とすのだ。
わたしは戦う自分に、盃をあげる。
明るく、完璧に。
最後まで、勝利者のマリアでいるために。
そのとき、ジェフ様の視線が刺さるのを感じた。
祝う目ではなかった。
背筋の冷えが強くなった。
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