89話 『盗賊の嘘と元殺人鬼』
「そんな嘘ばればれだからね? というか本当に勇気を振り絞ってとった行動が盗みだったとしたら俺が声をかけた時になにかしらの反応するはずだろ。普通」
勇気を振り絞りとった行動ならば俺が追いかけているときにかけた言葉に反応して足を止めたり、走るスピードを落としたりだとかするはずだ。
なのにそんな反応は一切なくむしろ二人組の盗賊は走るスピードを上げた。
これが初めての盗み……だとは全く思えないし信じられない。
涙目で俺を見てくるこのうるさい方の盗賊は俺からの同情を買おうとしているのだろう。
だとしたら無駄だ。
自慢ではないが俺は元いた世界でかなりの人たちの嘘を聞き騙されてきた。
そのため大体の嘘なら見破れる自信がある。
このうるさい方の盗賊の言葉と涙目、全てが嘘だと簡単にわかる。
「そ、それは……」
「お姉ちゃんもう諦めようよ……」
(この程度の嘘なら俺じゃなくても見破れるよな……だってもう隣の静かな方の盗賊がいろいろ言ってるし……)
俺はため息をまたつきそうになるのを我慢してうるさい方の盗賊に教えた。
ルールに対して言わなければいけないことを。
「君がルールさんに言わないといけないこと……それは『ごめんなさい』っていう謝罪の言葉だよ」
☆☆
(わ、私の演技に心動かされないなんて……! こいつできる……!)
(お姉ちゃんの言ってること嘘ってばればれだからね……心なんて動かされないよ)
自分の言葉が嘘だとバレていることにやった気付いてそう驚いている姉に僕はそう思う。
「っていうか『ごめんなさい』、謝罪しろってなんで私たちがそいつに謝らなきゃダメなのよ!」
「……それ本気で言ってる?」
「本気よ!」
(お姉ちゃん……人からもの盗ったんだから謝るのは当たり前のことだよ。間違いなく)
モルスさんの言っていることの意味ーー謝罪しなければならない意味ーーをさっぱり理解していない様子の姉。
「普通は人から物を盗るなんてことは犯罪だ……だったらその被害にあった人に謝るのは当然のことでしょ。ほらルールさんに早く謝って」
「はぁ? 私たちが生きるためにやったことを犯罪って……しょうがないじゃない! こうでもしなきゃ生きていけないんだから!」
「お姉ちゃん……謝ろ? 僕たちが悪いのは間違いないし……これで衛兵の人や自警団の人たちの所に連れて行かれないならなおさらのこと謝ったほうがいいよ」
「ちょっ!? あんたまでそんなこと言うの?」
僕は謝ることを強く姉にお勧めする。
僕たちの方が100パーセント、間違いなく悪い。
大人しく謝れば衛兵や自警団に突き出され捕まることもない。
謝ることを強く勧める理由は多くあるが僕が謝ることを姉に強く勧める一番の理由は他にあった。
それはーー
(モルスさんの僕たちを見る目……なんて言い表せばいいかわからないけど……なんだかすごい怖い……)
モルスさんの僕たちを見る赤い目に何か怖いものを感じたから。僕の知ってる中ではその目は殺意などの怒りの感情を抱いた人の目に似ていた。
でもその目は僕の知るどんな感情を抱いた目よりも恐ろしいものだった。
このままではまずい。
何がまずいかはわからないが直感的に僕はそう思った。
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