70話 『時間稼ぎ』
飛び出した俺は右手に持つナイフを牽制のつもりで振った。
狙いをランスから自分に移すのが狙いだったそのナイフを男は簡単に避けてお返しとばかりに俺の腹に蹴りをいれてくる。
「がっ!?」
「!? モルス!」
蹴りの威力で俺は後方の壁に勢いよく吹き飛ばされ、左手に持っていたランタンを床に落ちてパリンと割れた。
想像よりもはるかに蹴りは強く、床に倒れてからしばらくの間体が思うように動かなかった程だ。
「何ですか? あなた? 邪魔しないでもらえませんかね……あぁランスさんより先にあなたから始末しましょうか」
「っ!」
男の狙いをランスから俺に移すのには成功したが次は俺がピンチに陥った。
「やらせるかよ! こっちだ魔術師!」
「おっと危ない」
男が俺に向かって手を広げた次の瞬間、男の背後にいつの間にかまわっていたゴーグが戦斧を勢いよく男に振り下ろした。
だが男は驚くべき瞬発力で横にステップしてゴーグの攻撃を回避する。
そしてやっと体が動くようになった俺はすぐに立ち上がり倒れるランス、そのほかの冒険者たちをかばうように男の前に立つ。
俺と同じようにゴーグも武器を構えたままそうする。
「あなたたちも冒険者ですか……? まったくどれだけ倒しても出てくるなんて、あなたたちは害虫か何かなんですか?」
(……ゴーグさん。ランスさんとそのほかの冒険者を抱えて逃げることってできますか?)
(は、はぁ!? 無茶言うな! どうやって俺一人でこの部屋に倒れてる冒険者、10人以上を抱えて逃げれるんだよ! それにもう何人かは……)
男の言葉を完全に無視して俺はゴーグと小声で話す。
ゴーグが続けて口にしようとした言葉は「もう何人かは……すでに死んでいる」ということはすぐにわかった。
というよりこの部屋に飛び出して入って来た時に部屋に臭っている血の匂いの濃さでわかっていた。
生きてるのはランスとランスの近くに倒れているクロックだけ。
その他の命はもう間に合わない。
(ゴーグさん、ならランスさんとクロックって人、二人ぐらいなら抱えて逃げれますよね?)
(は、はぁ? ……おい、モルス。お前何するつもりだ?)
「おやおや、無視ですか? 嫌ですねぇ。私は無視されるのが大嫌いなので……ーーかなりイラつくよ、それ」
「すいません。無視するつもりはなかったんですけど……ペラペラペラペラとあなたがうるさくて」
「……あ?」
俺は倒れるランスとクロックを隠すように男の方へと歩いていく。
「も、モルス! 何やってんだお前!?」
「見てわかりませんか? 俺が時間稼ぎしますから二人を抱えてさっさとここから逃げてください!」
それだけ言って俺は再び男にナイフを振った。
後ろからゴーグの悔しそうな声が聞こえて数秒後に後ろをちらりと見ると倒れていたランスとクロックを右肩左肩にそれぞれ背負って部屋から出て行くために走り出したゴーグの姿が見えた。
そして、
「後ろを見てるなんて余裕です、ね!」
「!? ごはっ!」
前を向いた瞬間に男からの前蹴りを受けてまた俺は吹き飛ばされ、今度は部屋の本棚に体を強くぶつけた。
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