46話 『荒くれ者たちが集う宿屋』
「えっと、ここで一泊したいんですけど……だ、大丈夫ですかね……?」
「はい大丈夫ですよ。一泊ですね……お名前は?」
「モルス・ディアスです」
ガルシアは俺を安心させるためかまたもにこりと笑い宿泊者名簿に俺の名前を書く。
「ちなみにこの宿屋の数少ないサービスの一つなのですが冒険者だと一泊がさらにお安くなるのですが……モルス様は冒険者ですか?」
「あ、ちょっと待ってください! ギルドカードを出しますから」
パーカーの右ポケットの中に手を入れてギルドカードの紙を取り出す。
「確認しました。たしかに冒険者ですね、では一泊銅貨2枚になります」
「銅貨2枚ですね」
(一泊がもともとどれくらいの金額かは知らないが銅貨2枚ってすごいな……!)
俺はジーンズのポケットから銅貨2枚を出してガルシアに手渡した。
「確かに。ではこれが部屋の鍵です。部屋はそこの階段を上がって一番左の部屋です」
「わかりました。色々丁寧にありがとうございます」
「いえいえこれが仕事ですから当然ーー」
「何いい子ちゃんぶってるんだよガルシア。おら酒持って来てくれよジョッキで!」
ガルシアの言葉を途中で遮ったのは先ほどまで何かしらの賭け事をしていた男たちの一人。
男たちのテーブルには木のジョッキがこれでもかというほどあり、よく見ればトランプに似たカードも置いてある。
木のジョッキの数は見れば誰もが飲みすぎだと思うほどの数だ。
「……すいませんね、モルス様。ここに宿泊している奴らは大体が冒険者なのですが……荒くれ者ばかりでして」
(それは入店直後からわかってましたよ……)
店に入ったらいきなり怒鳴り声が聞こえるのだからすでに俺もわかっていた。
「えっと……部屋に荷物置いてきます」
逃げるようにそう言って俺は階段を向かおうとするが後ろから誰かに呼び止められた。
「おいあんた、ちょっとこっちきて一緒に楽しく酒を飲もうぜ! あんたも冒険者なんだろ?」
(か、絡まれたー! 薄々予感はしていたけど絡まれたー!)
階段に向かう足を止めて振り返るとそこにいたのはまたしてもガルシアに声をかけていた男たちの一人だった。
「…………はい」
断るのも失礼。
俺は諦めて男たちの近付いて空いている木の丸椅子に座る。
すると男たちの中の一人がいきなり話しかけてきた。
「あんたモルス・ディアスって言ったが……それは本当か?」
「? そうですけど」
なぜ俺の名前を彼らが疑うのか理解できず俺は首をかしげた。
そんな俺の反応を見て男たちは笑い声を上げた。
「ま、まじかよ! じゃああんたが本当にあの有名な新人冒険者なのかよ!」
「え……有名?」
困惑。
ただそんな感情が俺の中に沸いた。
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