32話 『自由依頼《フリークエスト》店主の失くした皮袋』
「モルスさんは自由依頼を受けてここに来てくださったんですよね?」
「はい。組合に張り出されてた依頼の紙にこの依頼があって」
「まさかこんな依頼を受けてくれる人がいるとは……」
「……やっぱりおかしいことですかね?」
「いいえ、おかしいというわけではないのですが……ちなみになんで報酬金額もないかもしれない、こんな依頼を受けたんですか?」
「まぁ一度手に取った依頼だからしっかりやるべきかな……って」
「ふふ、なんですかそれ? モルスさんはちょっと変わった冒険者なんですね」
変わった……それっておかしいと大体同じ意味なのでは?
俺が依頼を受けた理由を聞いてソフィーは少し笑い声をあげた。
「じゃあさっそく依頼内容にも書いてあったんですけど……お金の入った皮袋をなくしたんですよね?」
「はい、そうなんです! まぁ私の皮袋ではないのですが……」
「あ、そうなんですか?」
てっきりお金の入った皮袋はソフィーが失くしたものだと考えていたが違うようだ。
では誰のものなのだろうか?
「皮袋の持ち主はフェアナさんです」
「フェアナ……?」
だ、誰? 知らない名前が急に出てきた。
俺は知らないその名前を口に出し呟く。
「……もしかして知りませんか?」
「……はい」
本当に無知とは怖いものだな……。
ソフィーの様子からして知っているのが当たり前の名前のようだ。
冒険者についてゴーグに聞いた時も「常識だろ」という風に説明していたのを思い出す。
ちゃんとこの街の……いやこの世界の常識を早く知らないと俺は本当にいつか恥ずかしい思いをするかもしれない……。
「フェアナさんはこのポーション屋【フェア】の店主です」
「…………」
ソフィーの言葉を聞いて俺は恥ずかしいという感情に襲われて自分の顔を両手で覆い隠す。
つまり俺は依頼の場所、店の店主さんの名前すら知らなかったということだ。
普通はあり得ないことだろう。
依頼を受けたのにその依頼の依頼主の名前を知らないくらいあり得ない。
(しょ、しょうがないだろ!? まだこの世界に来て三日しか経ってないんだぞ! そんな、店の店主の名前なんて知らないよ!)
内心で言い訳をこぼす。
ポーション屋に行く前に受付担当のあの青年に店の店主の名前を聞いて、教えて貰えばよかったのでは? と冷静になった自分でも思ってしまった。
「そ、そうだったんですか! フェアナさんがなくした皮袋なんですね? わ、わかりました! すぐに探しましょう!」
俺は自分自身の恥ずかしさを忘れるために好き勝ってに話を進めようとする。
ソフィーは俺が常識、当たり前のことを知らなかったことに対しては何も追求しなかった。
「はい! 助かります! では部屋を移動しましょう」
どうやら俺が常識を知らないとかなどどうでもよく早く皮袋を探してほしいようだ。
こうして俺のはじめての自由依頼が始まった。
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