31匹目 とっととずらかるぜ
アンシェントリザードさんの方は速さも強さもあるランドキングビーさんの方に行って欲しかったみたいたけど、事情を考慮してヴィヴィットバブーンさんが代わりに(代わりの代わりに?)向かうことを渋々認めてくれた。そこに当人のヴィヴィットバブーンさんの意志が無いってのが気の毒極まりないなぁ。まだ気絶してるし。よっぽど怖いんだろうなぁ……チーン。合掌合掌。
話がまとまったので善は急げと、入り口の岩石累々を長くて太い尾でアンシェントリザードさんはいとも容易く薙ぎ払い、一掃した。そこには何事もなかったかのように穴が。私たちにとって大きな障害となる岩は、彼の御方にとって小石も同然らしい。敵意が向けられなくて本当に良かったと、心底ホッとします。
別れの挨拶もそこそこに、道が開けたので早速外に出ることに。ランドキングビーさんは私を背中に抱え直し、気絶しているヴィヴィットバブーンさんを捕まえ、お決まりのブーン音で飛びはじめた。
私はアンシェントリザードさんの方を振り向いた。
「アンシェントリザードさん、お身体に気を付けてー!」
「ボエ…」
言葉は通じてないけど気持ちは通じた気がする。尾を振っているアンシェントリザードさんに、笑顔で手を振り返す。別れや旅立ちの時って美しいよね。しみじみと浸っていると、すかさずランドキングビーさんから「通じていない」との突っ込みが。ちなみに向こうは何て言ったのか聞いてみると、「奇しく不細工な生きものだった…」と私の感想を独り言していたらしい。
ぬふぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーっ!!あんちくしょう!!(怒)
こほん。取り乱して申し訳なんだ。えー、では気を取り直して。
再び長くて複雑な迷路のような帰路を通り抜けると、星の一つ一つが分かるほど澄み切った夜空が広がっていた。正確には夕焼けだけど、もうほぼ沈んでる。ありゃりゃ、もう夜だったのか。
今夜は取り敢えずこの岩山近くで休み、明日の朝、日が昇ってから南へ進むことになりました。夜は危険なモンスターが活発になる時間なので可能な限り避けたいのだとか。湖での私、丸裸でよくぞ無事であった。そりゃランドキングビーさんも心配するよね。
さて、戦闘力ゼロの私と気を失っているヴィヴィットバブーンさんを残し、ランドキングビーさんはまた狩りに出た。出る前にランドキングビーさんが周囲の安全を確認してくれたけど大いに不安が残ります。しかし、しかしだ。鬼の居ぬ間のなんちゃらですよ。その帰りを、岩の隙間から湧き出てる水を飲んだり草の所でウフフな排泄しながら待つ私。いや〜両方とも我慢してたんだよね。最後にしたのは移動中の昼にちょっと休憩入れた時だったし。
「ふぃ〜〜」
……そういえばこの排泄後の口癖は、トイレから出た時の親父と同じものだった、と気が付く。無意識とはかくも恐ろしきものだったのか。直さなければ、カエルの子はかえると俗に言う。脳裏によみがえるは我が父親の完全たるラ・フランス体型、体重90キロのメタボフィーバー、医者泣かし……。
などと全く余計なこと考えている間に─────大問題が発生していました。
「ん?」
股の間に、健康女子なら誰しもが覚えのある違和感。気付いた心臓がイレギュラーな跳ね方をした。嫌な予感がする。これは限りなく確信に近い予感だった。 震える手でおそるおそる股を拭いた葉を見てみると、違和感の正体が分かった。鼻に付く鉄の臭い、赤い液体────見たくはなかった。
私は顔を青ざめた。
せ、せ、せせせ生理がきてもうたよ……………。




