30匹目 モンスターも見かけによりません
何やら突然、穏やかではない空気が漂ってまいりました。
味方っぽかったのにどういうことなんだろう、アンシェントリザードさん。退路を断ってくるなんて。驚きに痛さもぶっ飛ぶってもんだ。
事態がよく飲み込めずオロオロする私とヴィヴィットバブーンさんを置き去りに、ランドキングビーさんとアンシェントリザードさんは無言の火花を散らす。ランドキングビーさんについては、今にも針を飛ばしそうな体勢だ。
暫く続いた無言の圧を破り、先に口を開いたのはアンシェントリザードさんだった。
アンシェントリザードさんは洞窟の上部を見上げた。
「ヴォエ、ヴォエ、ヴォエエエエエ、ヴォエエエエエエエエエ」
「……グルルル」
「ヴォエ、ヴォエエエエエーーーッ」
「………………」
「ヴォエッ、ヴォエ」
「………………」
「ヴォッ!ヴォッ!ヴォッ!ヴォーーーッ!ヴォッ!ヴォッ!」
…………あれ?なんか笑いだしたんですけど、アンシェントリザードさん。山賊みたいな笑い声だなオイ。
チラリとランドキングビーさんの反応を見てみると、目の間に皺が寄っていた。不快なんだろう。もしかして、何か煽られてる感じなのかな。
「…………グルッ」
「了承した」、少しのためらいを含みながらそう短くランドキングビーさんが返事をして、私は地面に降ろされ腕から解かれた。一層楽しそうに笑うアンシェントリザードさん。
一体何を了承したんでしょうか、ボス。めちゃくちゃ嫌な予感がする。おつかいなんて可愛いもんを頼まれた空気じゃないんだもん。
「───ラ、ランドさん。アンシェントリザードさんから何て言われたの?」
「グルルルルル」
「な、なん…!?ササササンライトドラゴンが五月蝿いから、奥さんの方を説得させてこいだって!?」
あのモンスター所帯もちだったの!?……じゃなくて!何という無理難題を!あのウルトラ〇ンも裸足で逃げるようなモンスターの番いを務めるモンスターなんて、化け物に決まってるじゃないか!死んでくれと言うことか!?
血の気がサーッと引いていくのを感じながら、私はランドキングビーさんの説明を聞いた。
曰く、アンシェントリザードさんが動くには身体の大きさから目立ってしまうため、奥さんの説得を代わりにしてきて欲しいのだそう。でないと此処から出してやらんぞと、体力のない私の飢えを引き合いに出しての脅迫を、笑いながら。あ、足手まといで申し訳ない。
さて、問題のサンライトドラゴンは、凶悪な見かけによらず滅法な愛妻家で、奥さんのことなら何でも言うことを聞く溺愛っぷりらしい。
何故アンシェントリザードさんがサンライトドラゴンさんの怒りを買っているのかと言うと、アンシェントリザードさんはその奥さんと仲がよくて(孫とお爺ちゃん的な意味で)、アンシェントリザードさんの元に奥さんがコッソリ旦那の目を盗んで遊びにきていたのだが、それが本人にバレてしまったからなんだとか。嫉妬して、怒りは奥さんでなくアンシェントリザードさん一身に向いているらしい。
いや、嫉妬ってレベルじゃなかったです。どうみても殺気でした。思いっきり殺害予告してましたし。
「───グルルル、グルッ」
という事だ。私達には寄り道をしている暇などない、お前が向かえ。
いきなり白羽の矢が立ったのは、ヴィヴィットバブーンさんでした。
アンシェントリザードさんとランドキングビーさんが話していたから、てっきりランドキングビーさんが行くものだと考えて、不意を突かれたのはどうやら私だけではなかったようで。
あ……状況を理解したヴィヴィットバブーンさんがショックで気絶した。




