29匹目 アンシェントリザード談
アンシェントリザードさんはそれから長いこと私達に向けて、自分について語りだした。
地殻活動によりこの宏大な陸が起こった大昔から、アンシェントリザードとしての自我を持ち、生きつづけていること。
高みに列座するモンスター達の栄華から衰退を、何度も何度も気がとおくなるほど今生で見てきたこと。
ドラゴン系、ビースト系、インセクター系、プラント系、フィッシュ系に属する実に多様なモンスターの生態を知ること。ただしその知りえるモンスターが、大陸の全てではないということ。
大陸は日に日に、微々たる変化にあるということ。
その中で平穏に、時には大胆に、のらりくらりと楽しみながら生きているということ。
そして、私のこと(本題)に入った。
───結果として。私が話したことは、やっぱりアンシェントリザードさんには通じていなかった。更に、私のような姿をして何種もの鳴き声(言語)を発する生物にも今まで出会ったことも聞いたこともないらしい。ランドキングビーさん伝いで教えて貰った。
……永きを生きるアンシェントリザードさんでも人間は分からなかった。でもアンシェントリザードさんは、自分の知識が全てじゃないと言っている。可能性がない訳ではないけれど、アンシェントリザードさんが外れたことで、その可能性はより低いものとなっただろう。
期待が大きかっただけにしゅんと項垂れていると、翻訳を続けてくれているランドキングビーさんが、「ただし」と話を繋いだ。
「─────グル、グルルルルルル」
過去、どこからともなく突然大陸に発生し存在した一種類のみの生き物(異生物)というものは、かなりの頻度で他モンスターの話から聞いたことがあるらしい。
それは獣の姿で野を駆けるものだったり、水中を自由自在に泳ぐものだったり、翼を持ち空を飛ぶものだったりと様々あった。
ただ、何の前触れもなく天(異界というニュアンス。恐らく私の世界も、これに含まれるだろう)より現れた彼らが、また、天へと消えてしまうということはなかった。「戻る」という欲求意思はあったろうが、その為の具体的で有効な行動は見られなく、大半は生存本能のままこの地で既存のモンスターと番いをなしたものや、ただ日々の命を繋ぎ生きるのみで寿命を終えたものであったのだそう。
単に探すものが居なかったというだけで、全く方法がない訳ではない。そのため、諦めるには早計であろうとアンシェントリザードさんは私を励ます。
……フォローしてくれたようだ。
なんだ、変に捻くれたりしてなくて普通にいい人…じゃなかった、いいモンスターなんだね。
ありがとうございます、アンシェントリザードさん。
さっきは怨霊だとか豚の断末魔だとか音痴だなんて思ったりしてごめんね、本当にごめんね。自分にゲンコツしておきます。ガツン。うあっ、イタタタターー……強くやりすぎた。アホか私。
呻いていると、ランドキングビーさんが私を背中から下ろした。
私が押えている頭部の髪をそっと爪で触れながら話し続ける。
「グルルルルル」
“アンシェントリザードに、帰還のための知は備わっていない。しかし、これより南南西の先を行った場所に住まう、イーエンドラゴン、ファントムドラゴンなどを訪ねることをアンシェントリザードは勧めている。事前にマザーツリーにも、彼らは勧められていた。南にはドラゴン系が数多く分布し、博識なものが多い。行く価値は十分ある”
───訪ねては訪ね、訪ねては訪ね、なんだかえらく長丁場になりそうだね。
授業だとか、家賃だとか、もとあった生活を考えると気が重くなる。ランドキングビーさんに気付かれないよう、顔を伏せてため息を零し…………かけてフンッ!と息を止めた。
いやいやいや山田花子よ、なに偉そうに溜め息なんて吐こうとしてるんだ。お前が確りしないと。当の本人がこんなんじゃ駄目でしょ。協力してくれてるひとが居るんだからって、決めたじゃないか。
頬をパンパン叩いて、ランドキングビーさんを見上げる。
私はニカッと歯を見せて笑った。
「それじゃ、南に行ってみようかな!───…何だか思ってたより長くなりそうだね。ごめんね、ランドさん」
「グルル」
「……そうだね、“ありがとう”だ。ありがとう、ランドさん」
そして私はコアラのごとくユーカリ(ランドキングビーさん)に抱き付いた。
鉤爪が痛くとも、愛があればなんとかなる。ラブアンドピース。平和の鐘、白い鳩。
どっちかというと虫は苦手な方だったけど、ランドキングビーさんですっかり克服しちゃったなぁ………。なんて思ってると。
ゴフーーーーーーーーーッ!!!
抱擁しあう私達を、強烈な突風が引き裂いた。
「うわぎゃああああああ!」
身体が浮いて出口に飛ばされそうになる私を、ランドキングビーさんが瞬時に抱きとめる。ヴィヴィットバブーンさんは地面の凹凸掴み、腕力で凌ぎきれていた。
突風はガラガラと岩を崩して背後の出口を塞いだ─────が、私はそれどころではない。
「うわぎゃああああああ!痛!痛!痛い痛い痛い!ランドさん痛いいひーーーーっ!」
前で抱き留められたため、鉤爪が背中の皮膚にグッサリ容赦なく刺さっている。
ぎゃあぎゃあ奇声を上げてべそをかく私を無視して、一方のランドキングビーさんは突然のこのアンシェントリザードさんの行動に、敵意を込めた眼光を向けた。
「─────グル…」
何の真似だ。
アンシェントリザードさんはそれまでのぼんやりした顔を捨て、意地の悪い笑みを浮かべた。




