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<茜色の出会い>

「あら、お父さんたらまたマットレスを?」

「ああそうだ。二つな二つ。コイツは役に立つ」

「あーあ、一度ソファに腰掛けてみたいわ」


屋根裏の二人は耳をすまして、父と娘の会話を聞いていた。

「聞いた?ここの人間そうとう狂ってないか?」

小説家が小声で言った。

「うん、僕たちほどじゃないんじゃない?」少年は苦笑いして答えた。


「マットレスがありすぎて…床にもマットレスを敷き詰めるつもりですか?」主人の妻が言った。

「まさか、ハハ…。なあにスペースはとっても嫌なものじゃあないさ」

「邪魔になるようでしたら屋根裏部屋にでも放りこんでおきますからね」


この言葉に二人はドキッとしたが、すぐに娘が話題を変えたので、安心した。

「マットレスおやじってのどう?」

まもなくして少年が言った。

「最高!決まりだな!」

二人はしがない会話でその夜を過ごした。


ログハウスの住人が出かけると、二人も外へ出た。少年はクローバー平原の空き家で見つけた地図を持って、「ここに行こう」と言った。


少年が指差したのは「茜色の街」だった。薊色の街の隣の隣に位置する街で、十二キロほど先のところにある。

小説家が同意すると、パン屋で朝食を買い、公園で食事をした。

そこでルートを確認して、五分後には歩き始めていた。


二人が茜色の街に到着したのは正午のことだった。茜色の街は田舎で田んぼや畑が多く、三分の一を美しい森に囲まれている。中心街は西洋風のつくりになっていて、イギリス風の街灯が立ち並び、家々や道路はレンガ造りで、異国情緒が漂っていた。

ベンチには紳士が腰かけ、町花である茜の花がいっそう雰囲気を創っていた。

二人はいったん別れ、中心街の教会で待ち合わせることにした。小説家は図書館へ向かい、少年は森へと向かった。


森の中はうっそうとしており、暗くて静まり返っていた。けもの道や動物の足跡をたどるうち、光が差し込むスペースに出た。そこで棒を拾い上げ杖にすると、また歩き始めた。

だが十歩も歩かないうちに、少年は突然足を止めた。

「何の音だろう?」

少年は耳をすませた。

聞こえてきたのはギターの音だった。朽ちて倒れた木が他の木と絡まって、地上から一メートルほどの高さで横になっている。その中心に一人の少年が腰かけ、キザに足を組み、ただただギターをかき鳴らしているのだった。

そしてギターの音が止んだ。 「誰だ?」その少年が訊いた。

「あー、こんにちは。たまたま通りかかっただけだよ」

少年は早口にそう答えた。

「ずっと聴いていたのか?」

「ううん、ついさっき来たばっか」

それから二人はお互いのことを話した。その少年は歌手になりたいとのことだった。


「へえ! 屋根裏で生活してるのか! ぜひオレもご一緒したいね」

「もちろん大歓迎さ! 行こう今から。待ち合わせしてるんだ」


待ち合わせの教会に小説家は先に来ていた。自己紹介をしてすぐに仲良くなった。

不思議なくらい話が合う少年で、何か魅力を感じた。


「オレは歌手になりたくて孤児院を抜け出してきた」

新しい屋根裏を探して歩いているときに、ミュージシャンが言った。


「孤児院なんて…嫌なところだぜ。一日がとてつもなく長く感じる」


「屋根裏でギターできるかな?」

小説家が言った。

「できるんじゃない?小さい音なら」

少年が答えた。

「楽しみだなあ、すごく……ん?…あの家はどうだ?」

ミュージシャンが指差した家は森の近くに建てられた、三階建ての立派な家だった。


「まあ待ちな。あそこに店があるだろう?あそこ行こう」

ミュージシャンが言った。

それはその家より二百メートルほど東に位置する店だった。

中に入ってみると、そこは酒屋だった。


「オイオイ!オレたち未成年だぞ?」

小説家が言った。

「大丈夫、ここのおっちゃん知り合いでよ。その辺は見逃してくれるよ」

ミュージシャンは得意気に言った。


店を出た三人はビールの箱を抱えていた。そして目標の家へ着くと、留守を確認して中に入った。

屋根裏に駆け上がると、そこはキレイに片付いていた。

「家具搬入は明日で良いだろう」

そこらベッドが二つあり、その外にテーブルと丸窓があった。


その夜はビールを一人二缶も飲んで、清談にふけった。一人はギターを、一人は小説を。

少年は自分が何かに打ち込んでないということに、劣等感は抱いていなかった。自由であれば良いと、そしてそれが続けば良いと、願っているのだった。

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