第一話、距離の中に入ってくる声
はじめまして、霧月時雨と申します。
実際の出来事をもとに、少しだけ手を加えています。
静かな話ですが、最後までお付き合いいただければ幸いですm(_ _)m
人と関わる距離には適正な長さがある。
踏み込みすぎれば壊れるし、離れすぎれば何も始まらない。
だからその中間だけを選ぶ。
そう決めてからだいぶ楽になった。
余計な感情を挟まなければ仕事は滞らない。
必要な言葉だけを使い、必要なことだけを確認する。
それで大抵のことは足りるし実際、それで困ったことはなかった。
——少なくとも、今まではそうだった。
製薬会社の工場品質管理部門に勤める今井蒼汰は、送迎バスの発車時刻までのあいだ運転席で静かに本を読んでいた。
持ち回りの当番という建て前で丸投げされた業務だったが、発車時刻までひとりきりになれる静かな時間は、いつも読書をしている休憩室の隅と同じで余計な会話を避けるにはちょうどよかったので、この業務は嫌いではなかった。
今日もいつもどおり、何事もなく送迎を終わらせてタイムカードを押して帰る。
——そのはずだった。
「……あの」
その声で、本から意識が離れた。
発車時刻まで、あとわずかに迫ったその時、
「◎◎駅まで、お願いします」
少しだけ息を整えながら、バスへと乗り込んできた彼女はそう言った。
急いでいたのか、肩がわずかに上下している。
——朝比奈結衣。
つい最近、同じ部署に入ってきた人だ。
顔と名前だけは覚えている。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
静かな話ですが続けていきます。
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