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27-20 勝利したのに敗北者の扱いを受ける

 ブラッシーが住居代わりにしている教会。ディーグルとブラッシーは茶を飲みながら会話を交わしていた。


「シクラメという子は、大した逸材でした。月並みな表現ですが、骨が折れましたよ」

「ミヤ様も何度か出し抜かれたと言ってたしね~ん。私もアルレンティスも負けちゃったしー」

「長生きしていればたまに、あのような真の逸材や傑物と巡り合えるものです」

「ディーグルが言うと嫌みに聞こえるのよーん。ま、何にせよ昨日は中々ハードだったわねー。というかア・ハイに来てから楽しいイベント盛り沢山よーん」

「縁の大収束かもしれませんね」

「なあに~? それー」


 博識なブラッシーも、知らない単語だった。


「魂は縁によって惹かれます。縁のある強い魂同士が同じ時代に引き寄せられ、大きなうねりとなる現象ですよ」

「つまり皆でワイワイするハッピーなイベントが、今現在進行形で起こっているってことかしら~?」

「まあ、そう解釈してもいいでしょう」


 ディーグルが頷くと、教会の中にユーリとノアが入ってきた。


「あら、お二人さん、おつかれさまま~ん。ミヤ様は?」

「首謀者のアザミ達と話してくるってさ」


 ブラッシーが尋ねると、ノアが答えた。


「最近のミヤ様は、敵であろうと情けをかけるようになられたのですね」


 スィーニーの件を思い出しつつ、ディーグルが言った。


「本気で敵としては認識していなかったかもしれません」


 ミヤがK&Mアゲイン寄りの思想だったことを思い出しつつ、ユーリが言った。


「昔の婆は違ったの? 敵は容赦なく皆殺し?」


 ノアが尋ねる。


「今のミヤ様を知る貴方達に、私の口から昔のあの御方を無断で教えることはよろしくありません」

「自分で話のぜんまいを巻いておいて、そんなこと言うんだ。それともディーグルはわりとうっかりさん?」


 ディーグルの言葉に対し、ノアがからかうように言う。


「今のミヤ様の弟子は貴方達です。貴方達にとって今のミヤ様がミヤ様です。それを尊重したいと思った次第です」


 微笑をたたえ、柔らかい口調で告げるディーグル。


(昔の師匠は違ったってことか。僕は……その違う師匠のことは、知りたくないな。ディーグルさんが語ろうとしない時点で、何かありそうだ)


 ユーリは思う。興味が無いわけではないが、知るのは怖いと感じてしまった。


***


 ユーリとノアが教会を出て帰宅する途中、ルーグと会った。


「よう。色々おつかれさんだ。特にノアには悪いことしちまったな」


 ルーグが頭をかきながら、申し訳なさそうに声をかけてくる。


「別に悪くない。色々とすっきりした。空っぽな部分が埋まった」


 笑顔で返すノア。


「言い訳っぽくなるが、今回の件はミカゼカのせいってわけでもねーんだ。マミとジャン・アンリは旧知の仲間だし、マミのことは見過ごしておけねーし、ジャン・アンリを殺すのも気が退けるし、ミヤ様にも恩が有るしで、板挟みになっちまってた部分もある。ノアも俺の弟弟子だしな」

「それにしても、ミカゼカは遊んでいただけみたいに思えたけどね」


 ルーグの話が、ノアにはどうも信じられなかったが、ルーグが嘘をついているとも、必要以上に擁護しているとも思えなかった。


「ミカゼカさんはノアのお母さんを助けたかったけど、こういう結末になってしまって、また何か企んでいるということは無いのでしょうか?」


 ユーリが不安げに尋ねる。


「それは無いだろう。マミを蘇生させたはいいが、体はもたなかった。そんで、ノアとも互いに納得済みで決着ついたみてーだしな」


 ルーグが笑いながら言った。ノアが空っぽな部分が埋まったという台詞から、そう判断するに至った。


「ちょっと席外すね」


 突然、ノアがルーグとユーリから距離を取る。


 二人から十分に離れた所で、ノアはミクトラを呼び出した。


「ミカゼカはああ見えて、意外と義理堅いのよ。義理を果たしたら、突然後ろから刺してくるような奴だけどね」


 ミクトラから、明瞭な音声が響く。マミの声だ。


 ノアはマミをミクトラに封じる際、魔法で以前とは違う加工を施した。マミが退屈だと言っていたので、ミクトラの中から外の風景も見えるようにして、音も聞こえるようにしたのだ。そしてマミが喋りたい時はサインを出せるし、ミクトラを装着すれば、マミの声も外に聞こえて、ノアと会話も出来る。ただし、声は他にも聞こえてしまうし、ミカゼカを装着する必要がある。念話での会話なら、ミクトラを具現化していなくても可能だ。


「ジャン・アンリやメープルFとはあまり仲が良くなかったけど、アルレンティスとはそうでもなかったし、気遣ってくれたみたいね」

「そんな台詞が母さんから出ることにも違和感がある。一度死んで蘇って、人格変わっちゃってるね」

「今の私も正真正銘の私よ。それとも貴女の知る私の方がいい?」

「いいや。今の母さんの方がいい。ただ、違和感があるのは仕方ない」


 マミが伺うと、ノアが笑顔で答えた。


「こないだも言ったけどさ、俺、魔王になりたいんだよね」


 突然、己の将来の希望を口にするノア。これはマミには伝えておきたいことだった。


 その時、ノアの前を数人の若者達が、馬鹿笑いしながら歩いていく。


「あんな風に、幸せそうに歩いている奴等、見る度に胸がムカムカしていた。だから魔王になって、ああいう奴等に片っ端から絶望をプレゼントしてあげたいんだ」

「素敵な夢ね。頑張って実行しなさい。夢を叶えなさい」


 ミクトラのルビーの中で、マミの魂は微笑んでいた。嫌味ではなく心の底から、ノアのことを応援していた。


***


 魔術学院の一室に軟禁されているアザミとシクラメ。その二人の元に、ミヤが訪れた。


「ジャン・アンリはいないのかい?」

「何であいつと一緒に閉じ込められなくちゃならねーんだよ。あいつは魔術教師役に回されたよ。しかしまあ、ロドリゲスもそうだが、大罪人のあたし達を殺しも閉じ込めもせずに、お優しいこった」

「儂はお前達の罪を咎める気が無いんでな。儂は法や倫理なんてものを、信じておらん。そしてお前達に同情もしているし、引け目も感じておる。何よりお前達ほどの力を持つ者を失うのは勿体無い」


 皮肉るアザミに、ミヤは思う所をストレートに口にする。


「あはっ、本当にそうかなあ? 比率としては、引け目が一番大きく占めてるんじゃなあい?」

「どうだかね」


 シクラメが珍しくからかうと、ミヤはキャットフェイスにはっきりと笑みを浮かべる。


「しかし……以前とはまた違う手で攻めてくると思っていたら、同じような手できたね」

「王制を戻す計画を立てていたら、そっちの方でやっちまったからな。後は力押しで貴族を粛清するだけだった。あのゴーレムはかなりの傑作だったし、今度はいけると思っていたのによー」


 ミヤの指摘に対し、アザミは憮然とした顔になって息を吐く。


「結局の所、お前達は勝ったのさ。望みは叶ったろ」

「あはは、勝ったけど負けたよう。捕縛されて、自由は失ったよう」


 ミヤの言葉に対し、シクラメがあっけらかんと笑いながら言った。


 捕縛はされたが、魔法使いである彼等を拘束するのは不可能に近い。ミヤやサユリや八恐がその気になれば、彼等の動きを制限する封印も施すことは出来るが、ミヤ達はそれを実行しなかった。ようするに口約束だけで、彼等は魔術学院の中にいる。


 K&Mアゲインの者達は全員、ロドリゲス同様、魔術師として、魔法使いとして出来得ることで、生涯ア・ハイに従事することになった。魔術教授、エニャルギーの精製、魔道具の製作、そして人喰い絵本の攻略を担う。

 その気になればいつでも外に出ることが出来る。そのまま逃げてしまっても構わない。しかしアザミもシクラメもジャン・アンリも、外出はともかくとして、自分達に下された裁定を不服として逃走する気は無かった。他のK&Mアゲインの魔術師達もそれは変わらない。


「復讐だけはできなかった」


 憮然とした顔のまま言うアザミ。


「復讐も十分にできただろう。前回の暴動でどれだけの死人が出てると思っている。今回だって犠牲は抑えられたが、犠牲者が出なかったわけじゃない。アザミ、しかもその犠牲者は、お前仲間を殺したことと無関係の者が大半だ。暴動に参加した平民も死んでいる。今の貴族は、三十年前の蜂起に関わっていない者も多い。三十年前の革命の当事者は、尽く怪死しているね? それもお前達の仕業だろう?」


 ミヤが静かな口調で指摘するが、アザミもシクラメも答えない。いや、その沈黙が答えになっていた。


「殺された者達の家族や友人や恋人は、お前達と同じだ。理不尽に身内を奪われ、悲しみと怒りと恨みを抱く。お前達のやったことは、自分と同じ人間を量産しただけだ。罪深いとは思わんのか?」


 ミヤが静かな口調で非難するが、アザミもシクラメも答えない。その沈黙も答えになっているとミヤは受け取った。


「ま、しかし前回お前達が暴動を引き起こしたおかげで、今回王制の擁立がスムーズにいったのもまた事実。選民派の貴族も、保身が第一だからね。再び暴動が引き起こされ、身の危険を冒してまで反対はせんだろう。暴力は絶対悪というわけでもないってことだ」

「ねえねえミヤ、ひょっとして僕達を利用したのぉ?」


 ミヤの台詞を聞き、シクラメが疑問を覚えて尋ねる。


「儂がしたことは大したことじゃない。これを機に、王を立てろと言っただけさ」

「あたし達がシモンを王にしようとした時は邪魔したのにな」


 アザミが呆れたように言う。


「わかってないのかい? あのタイミングでは駄目だったんだよ。今だからいけたのさ。儂とお前等、共同で成し得たことだね」

「ミヤ、あんたはあたし達と気持ちは同じだったわけか」

「そうだね。復讐の気持ちだけは無かった。争いは起こしたくなかった。それだけの話だよ」


 不敵な笑みを浮かべて言い切るミヤ。


「だが三十年前、魔術師達と魔法使い達が貴族達と戦えば、血を流してでも貴族達を押さえていれば、その後の三十年間、ア・ハイはもっとマシになっていたんじゃねーか?」

「そうかもしれないね。しかし儂を含め、当時の魔術師ギルドの者達は戦おうとしなかった。王家の者も人質に取られちまっていたし、あの時はどうにもならなかったんだよ」


 アザミが刺々しい口調で疑問をぶつけると、ミヤは心なしか悲しげな口調で弁解する。


「もういいだろ。二人共楽におなり。アザミだけじゃない。シクラメもだよ」

「あははは、僕はずっとお楽人生してるよう」


 シクラメがにっこりと笑う。


「それと、僕は個人的な目的を一つ叶えることが出来たからねえ」

「何だよ、それ。兄貴にそんなのあったのかよ」


 意外そうな声をあげるアザミ。


「あれ? アザミは覚えてないのお? 僕はミヤに認められるような魔法使いになるって言ったよねえ? 魔法使いとしては、ミヤに認められたと思うんだあ」

「ふん、認めてやるさ。お前は儂が思っていた以上の才器だったよ」


 シクラメを見て、ミヤが笑いながら言った。


(ミヤはあたしらのこともずっと考えていてくれたんだな……。今更になってそれがわかるなんてよ……)


 ミヤを見て、アザミは強い引け目を感じる。


「ミヤ……結局あたしは、ミヤに色々と面倒かけちまったのな。あたしはずっとあんたのこと恨んでいたけど、ミヤはあたしらの敵だって認識していたけど、ミヤは違ったわけだ」

「はん、そりゃそうさ。お前等みたいなひよっこ、儂にとって敵になんてなりえないんだよ」

「ケッ、一度はぼろぼろにされてたくせに、何言ってやがる。この糞猫が」


 うそぶくミヤに、アザミは笑い返した。

27章はここまでです。

次章の更新まで少し時間が空きます。すみません。


ちなみに次章の一部はすでに公開済みですので、予告編として楽しめるかも?

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