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24-21 実験の中で実験

 図書館亀内部。図書館亀、メープルF、そしてダァグ・アァアアの三名が、無数に浮かぶ水晶球を見上げている。

 水晶球の中では、脂肪怪人の群れ、巨大人形、ドラゴンが暴れ、シャクラの町が破壊されている場面がそれぞれ映し出されている。


「事態が大きく動き出したわね」

「そうですねん。そしてそのスイッチを入れたのは彼等ですねん」


 メープルFと図書館亀が言う。町の中の各所に設置された、精霊達の力を抑制する作用がある、鎮魂の碑。ディーグルがその破壊を始め、ノア達がその作業を引き継いだ。その結果、精霊達は自分達と親しい者を依代として憑依して、物語が動き出したのだ


「吸い込まれた人達が何もしなければ、どうなっていたの?」


 メープルFが疑問を口にする。


「今回はわからない。途中までしか描いてなかったから。その状態で呼び寄せた。これも実験だよ」


 ダァグ・アァアアがあっさりとした口調で答える。


「動きが無かったらあのままだったの? この世界からずっと帰れないまま時を過ごす事になったの?」

「わからない。そうだったかもしれない。他に方法はあったかもしれない」


 なおも問うメープルFに、ダァグ・アァアアは曖昧な答えを返す。


「フレイム・ムアは精霊に、異界からの来訪者達への敵意を仕込んだようですが、そのシナリオを描いたのはダァグ・アァアアですのん?」

「違うとも言えるし、そうだとも言える。フレイム・ムアをああいうキャラクターとして作ったのは僕だけど、その後は彼自身の意思で動いたからね」


 今度は図書館亀が問うと、ダァグ・アァアアはなおも曖昧な答えを返す。


「図書館亀はともかくとして、メープルFは見物だけ?」

「私は元より、この世界にあまり干渉したいと思わないし。ただの観測者よ」


 ダァグ・アァアアの方から尋ねると、メープルFは肩をすくめた。


「今回は嬲り神が相当働いていますよん。それもダァグ・アァアアの指示ですのん?」

「好きな風に関与していいとは言ったよ。でもそれだけだよ」


 図書館亀の質問に、ダァグ・アァアアは他人事のように答えた。


***


 化け物が現れて、町のあちこちを破壊してまわっているという報を受け、ケロンは絶句した。


「ケロン氏、この事態に君が関与しているのかね?」

「知りませんな」


 町長までやってきて、蒼白な顔でケロンに問うた。ケロンはそらっとぼけて否定した。


 ケロン自身も、己の目で確認した。


 増殖した脂肪怪人軍団。近付いた人間は同じ脂肪怪人になってしまうので、彼等を見かけたら早急に避難するよう指示が出されている。動きは緩慢なので、逃げるのは容易い。

 暴れまくるドラゴンは、積極的に建造物を破壊しまくっている。地上から弓矢の波状攻撃がされているが、ドラゴンに効いている気配は無い。自分が攻撃されている事に気付いたドラゴンだが、弓兵の部隊に向かって反撃する気配は無かった。

 巨大人形の群れも、ドラゴン同様に破壊行為を行っていた。


「フレイム・ムアはまだ見つからんのか!?」

「ぼぼ……ぶぶ……」


 血相を変えて怒鳴り散らすケロンの元に、本人が現れた。


「フレイム・ムア! この事態はどういうことだ!? 説明しろ!」

「何もかも計画通り……ではなかったが……ぶぶぼぶぅ……大体うまくいった」


 激昂するケロンに対し、フレイム・ムアはいつもと変わらぬ喋り方で言った。


「何だと……?」

「ぼっぼっ、私は……ずっと人柱となった霊体の研究をしていた……。特にあの少年の霊は、想定外の力を発揮し、封印されている状態でなお、ある程度の力を振るっていたからな……。実に興味深い素体だった……。彼等の力をより引き出す方法を探り……ぶぶぶ……機を伺っていた……。封印を解き、依代となる者に降ろすことで、より強い力……出せることを知った……」


 最早隠しておく必要も無いとして、フレイム・ムアは全ての真相を明らかにする。


「お前はまさか……今まで私をずっと欺いていたのか……?」

「ぶぼぉうぶぉ……ぼぶぅ……私は誰の味方でもない……。純然たる研究者。死霊術、結界術、封印術、儀式術、様々な術を追求する術師……。それだけ……ぶぉぶお……」

「アリシアを使って不老を手に入れられるという話は……」

「ぶぶぶ……私はそんな方法は知らない。嘘だ。お前のような輩は、不老不死を餌にすればあっさり釣れる。パターン通りだ」


 フレイム・ムアの言葉を聞き、ケロンの怒りはピークに達した。


「殺せ! こいつを殺せ!」


 ケロンが喚き、兵士達がフレイム・ムアに殺到する。


 兵士達の得物は、フレイム・ムアに届かなかった。兵士達の全身が爛れ、悲鳴もあげけられずに崩れ落ちる。喉も爛れていたからだ。


「ぶほ……無駄……俺もすでに霊を降ろしている……。俺にも資格はあった。俺も彼等の同胞と認められた。俺も虐げられた者だからな」

「ひぃぃぃっ!」


 フレイム・ムアが解説している間に、ケロンが悲鳴をあげて逃げ出す。


「世話になったよしみ……ぼ……ぼ……見逃してやろう……」


 そう思ってケロンを殺さず見逃したフレイム・ムアだが、後々になって、見逃すべきではなかったと思うことになる。


***


 屋敷に向かうノア、サユリ、アルレンティス=ムルルンの前に、人形軍団が立ちはだかる。

 人形達は明らかにノア達を意識しているようだが、襲ってくる気配はない。


「これ……インガさんの人形?」

「ぶひ、あの大きな人形は彼女がいつも抱いていたものでして」

「ムルルンはあの兎さんの人形が欲しいのー。大きなまま欲しいのー。乗ってみたいのー」

「俺達が封印解いたからこんなことになった? 変なぜんまいが巻かれた?」

「そういうことなのだ。しかしだからといって、どうすれば正解だったかなどわからないし、後悔は無意味なのである。さっきもそれは言いまして」

「事態が動いたけど、こんな形は嫌なのー。どうにかして解決しなくちゃなのー」


 巨大化した人形軍団を見て、三人が口々に喋る。


 人形達を解析するノア。


「あの人形の中にインガさんがいる。人形と一体化してる」


 人形の一つ――フリルたっぷりの服を着た女の子の人形を指して、ノアが言った。


「あそこ見て欲しいのー。竜が飛んでるのー」


 ムルルンが別の方角の空を指すと、言葉通り、竜が翼を大きく広げて旋回していた。


「あっちのドラゴンは何でして?」

「ここからじゃわからないけど、あれも精霊の信者のなれはてかな?」


 サユリとノアが言う。


「精霊の存在も見えまして。一体化したのだ」


 サユリが解析して言った。ノアよりも解析能力は上だ。


「精霊を信じる者を依代にして、自分にマッチした肉体を得ることでパワーアップ。予め、信じ込ませようと、精霊の信者を増やして。まるで精霊さん、宗教みたいでして」

「俺もそんな風に見えるよ」


 サユリの言葉に同意するノア。やっぱり精霊さんは教祖っぽいと、ノアは再認識する。


 ただ佇んでいただけの巨大人形が動き出す。ノア達に向かって腕を振り回し、足で踏みつけようとしたり、口から綿を吐いてぶつけようとしたり、体当たりを仕掛けたりと、一斉に攻撃してきた。


「襲ってきたのー」


 魔力の防御壁を張り、全員をガードするムルルン。


「インガさん、どうやらあたくし達を敵視して」

「理由はわからないけど、精霊さんと俺達で戦う流れかな」


 サユリとノアが言う。


「中のインガさんを、精霊から分離する」

「ムルルンも協力するのー」


 ノアがインガと一体化している人形に魔法をかける。ムルルンも協力する。


 しかし何も起こらない。


「駄目だった」

「諦めが早いのだ」


 あっさりとお手上げポーズを取るノアに、サユリが微苦笑を浮かべる。


「サユリも協力してと言いたい所だけど、多分サユリが加わっても駄目だろうね。がっちりと一体化している。びくともしない」


 ノアが喋っている間に、人形の一つが勢いよく突っ込んできて、ムルルンの魔力の防護壁を破壊した。


「ぶひー、豚さんの人形が襲ってきまして。サヤリさんは豚の人形は破壊したくないのだ」


 突っ込んできた豚の人形を見て、サユリは大きく距離を取る。


「今はこれ以上戦うのはやめた方がいいと思うのー。ムルルンは、ディーグルやミヤ様と合流して、情報の共有した方がいいと思うのー」

「そうだね。師匠達と敵対ごっこしている場合でも無さそうだし」

「意義無くして」


 ムルルンの提案にノアとサユリは同意し、三人はそれ以上の交戦を避けて、その場から逃げ出した。


***


 シャクラの町上空をしばらくの間悠々と旋回していたドラゴンは、突然急降下してきて、家屋に向かって炎を吐き出す。

 屋根が、家屋が、炎で尽連れるかと思いきや、炎は全て弾かれた。


「これ、ジヘのお父さんですよ」


 たまたま近くにいて、ドラゴンの吐息ブレスを魔力の防護膜で防いだユーリが言った。


「そうみたいだね。ということは、アリシア、インガ、ファユミも化け物になっているんだろう」


 ユーリの隣にいるミヤが、ドラゴンとなったジヘパパを見上げて、神妙な顔になる。


「封印の解除は悪い方に働いてしまいましたか」

「これこれ、そう断ずるのは早計だ。儂等が頑張って、良い方向にもっていかないとね」


 ユーリの発言をミヤがやんわりと否定し、前向きな考えを示唆する。


「ええ、そうしましょう」


 気を引き締め、空を舞う竜を見据えるユーリ。


(意地悪な神様の思惑通りにさせない。抗う)


 ユーリが魔法を竜にかける。精霊を降ろした依代から、精霊を引っぺがそうとする

 だがユーリが精一杯の魔力を込めても、ドラゴンになったジヘパパに憑いた霊体は、びくともしない。


「どれ……儂も……」


 ミヤがユーリと同様の魔法でもって、二人がかりでの除霊を試みたが、結果は変わらなかった。


「駄目か……。これは結びつきが強すぎる。力任せにはできないよ。あるいはそれを強引に実行しようとすると、依代がどうなるかわからない」

「この事態を引き起こした人に話を聞くしかないですね」


 二人が喋っている間に、ドラゴンは飛び去り、入り代わりのように、ノア、サユリ、アルレンティスの三名が現れた。


「さっきぶり」

「ふん。ノアとディーグルのおかげで、大騒ぎになったよ」


 挨拶するノアに、ミヤが笑いながら憎まれ口を叩く。


「マイナス幾つくらい?」

「つけんよ。お前達のしたことは悪くない。儂等の目的はあくまで人喰い絵本からの脱出だ。ハッピーエンドが良いに越したことはないが、絵本の話がバッドエンドだろうと、儂等はそれで脱出できる」


 尋ねるノアに、ミヤは真面目な口調で言った。


「その場合インガさんやアリシアちゃんが犠牲になる可能性もあるのー。そんなの嫌なのー。ミヤ様、そんな脱出の仕方はしないで欲しいのー」


 ムルルンが悲しそうな顔で訴える。


「そうは言っても、優先順位というものがあるんだよ。そして向こうが襲ってくるんじゃ、こっちも戦わずにはいられないだろう?」


 ミヤがムルルンの方を向いて、静かな口調で告げる。


 その後、両者で情報交換を行う。


「ディーグル達の元に戻ろうかね。向こうとも情報交換したい」

「いえ、まずはこの事態を引き起こした者を問い詰める方がいいです。情報交換はその後にしましょう。そうした方が、ディーグルさん達とも情報をまとめられる」


 ミヤが決定したが、ユーリは異を立てた。


「事態を引き起こした者って? ケロン?」


 ノアが尋ねる。


「ケロンか、フレイム・ムアか、あるいは嬲り神か。僕は嬲り神かフレイム・ムアのどちらかだと思ってる」


 と、ユーリ。


「はん、それでもいいか。だが、問い詰める相手がいなかったり取り逃したりした場合は、ディーグル達と合流に切り替えるよ」


 ミヤはユーリの方針を認めた。

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