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06.夫の様子がおかしいのです

よろしくお願いします!

 陶器のように滑らかな頬をほんのりピンク色に染め上げたシャーロット王女殿下は、今にも飛びつきそうな勢いで私に駆け寄りました。

 国王が寵愛する美姫だけあって、シャーロット王女殿下はとても可愛らしいお方です。

 ぎゅっと抱きしめて守ってあげたくなるような可憐さも持ち合わせておいでです。


 「お初にお目にかかります。フォレスト家、トリシャでございます」

 「取り乱してごめんなさい。タトラス王国のシャーロット第一王女です。面を上げてくださいまし。わたくし、ずっと貴女とお話ししてみたかったの」

 

 カーテシーのままご挨拶をすれば、シャーロット王女殿下が興奮気味にお話をされています。

 シャーロット王女殿下にそこまで言われるほど、私は何か特別なものを持ち合わせているわけではないのですが……。

 予想していない事態に混乱してしまいました。


 「そんな早口でしゃべったら、トリシャがびっくりしてしまうよ」

 「お兄様は少し黙っていてくださいませ。それより、いつの間にお名前でお呼びになるようになったのですか?ずるいです!私もトリシャと呼んでもよろしくて?」


 美しすぎる二人のやり取りに静観しようと思っていたら、突然私に話が振られました。

 不意打ちです。


 「ええ、構いませんわ」

 「本当に?嬉しい!私のこともシャーロットとお呼びになって」

 「承知いたしました、シャーロット様」


 シャーロット様は私に会えたことが本当に嬉しいようです。

 キラキラした大きな瞳がずっと私を捉えています。

 

 シャーロット様は地方や他国の特産について興味がおありのようでした。

 元々勉強が得意な私です。

 書物から得た知識と、公爵家へと嫁いでから知り合った商人や最近懇意にしてくださる領主様から得た知識でシャーロット様が求める答えを導き出します。


 「今年はリシャール地方でリンゴが豊作であったと聞いております。私もいただきましたが、甘味だけでなく、程よい酸味があってとても美味しいのです。ただ値崩れしないように、保存できるジャムやシロップ漬けなどの生産を促進できればと商人とお話ししていたところですの。それから特に出来のよいものは、厳しい基準を設けたブランドを立ち上げ、他のものと差別化できれば……と、領主であるハロルド辺境伯はおっしゃっていました。きっと王城にも献上されるはずですわ」


 最近、私の元へ相談に来られたハロルド辺境伯のお話をすると、シャーロット様だけでなくクリス殿下も目を丸くされていました。

 少し前に開いたお茶会で、領地について悩んでいるとおっしゃっていたご婦人にアドバイスをしてから、私の元へは度々領地経営に関わる相談が舞い込むようになりました。

 フォレスト公爵家としても、他の方々と繋がりが持てるのは良いことです。

 お義父様も喜ばれていたと聞いています。


 「トリシャはとても博識で聡明で慈悲深くて美しい方だと聞いていたけど……本当ね!サイモンが自慢したくなるのもわかるわ」




 ……………………ん?

 サイモン様が???



 突然出てきた夫の名前に私は固まりました。

 サイモン様は私に全く興味などないはずです。

 必要以上触れたくないほどに……。


 それは何かの間違いでは?

 そう言おうと思ったその時です。


 「トリシャ!!!」


 珍しく焦った様子のサイモン様が入って来られました。


 「あら、サイモン。あの女のお相手はもうよろしくて?」


 冷気を伴った鋭いシャーロット様の視線がサイモン様に突き刺さります。

 少しバツの悪そうな顔をしたサイモン様でしたが、いつものような無表情へとすぐに戻りました。


 私の隣へ座られたサイモン様からはレティアお姉様が付けておられた香水の香りがします。

 ずっとレティアお姉様とおられたのでしょう。

 モヤモヤとした黒い感情が私の心を覆います。


 「まあ、そうサイモンを責め立てるな。シャーロット、もうそろそろホールへ戻った方がいいんじゃないか?」

 「そうね。トリシャ、とても楽しかったわ。今度お茶会にご招待してもよろしくて?」

 「ええ、ぜひ」


 シャーロット様は満足そうな笑みを浮かべると、クリス殿下と共にホールへと戻られました。

 

 

 残されたのは私とサイモン様だけです。

 王族専用の休憩室にずっといるわけにはいきません。

 私たちも戻りましょう、と声をかけようとしたときです。


 突然、強い力で引き寄せられました。


 何が起こったのかわかりませんでした。

 パニックです。

 あたふたする私を逃すまいと、サイモン様の腕にさらに力が込められます。


 

 ――抱き寄せられている?



 現状をやっと理解した私は、一気に体温が上がるのを感じました。

 今までこのように抱き寄せられたことはなかったのです。

 どうしたのでしょうか?


 

 ドキドキと胸が高鳴ります。



 どれくらいそうしていたでしょうか。

 しばらくすると、回された腕の力がふっと抜けました。


「すまない。必要以上に触れてしまって……」


 サイモン様を見ると、若干耳が赤いような気もします。

 本当にどうなさったのでしょう。


「いえ、大丈夫です。サイモン様こそ、どこかお身体の調子が悪いのでは?」


 体調が悪くなると心が不安定になるといいます。

 きっとサイモン様もそうだと思ったのですが……サイモン様の反応を見るとそうでもなさそうです。


 少し考えて、私はハッとしました。


「レティアお姉様と……会われたからですか?」


 サイモン様が視線を外されました。

 どうやら図星のようです。

 淡い期待は儚く消え失せました。


 少し期待したのです。

 サイモン様が私を求めてくれたのではないか?

 レティアお姉様ではなく、私を見てくださるのではないか?


 ――本当におバカさん。


 きっと私のことを自慢していたのも、夫婦仲をよく見せるため。

 フォレスト公爵家は安泰だと周りに知らしめるためでしょう。



 なんだか惨めになってきました。


「そうですか……。でも私はレティアお姉様にはなれません」


 そうサイモン様へ伝えると、私は部屋を飛び出しました。


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