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07.妻にどう伝えればいいのかわかりません(サイモン視点)

 トリシャを妻に……と望んだのは両親の意向もあるが、俺のわがままだった。

 

 レティと出会った日のことは今でも覚えている。

 一目惚れだった。

 レティを知るたび、どんどん好きになった。

 天真爛漫さや明るさ、その大きな瞳や眩しい笑顔に惹かれた。

 幸いなことにレティも俺へ同じ想いを抱いてくれていたのだ。

 将来を誓い合い、家族となる日を夢見ていた。


 しかし両親には反対されていた。


『由緒あるフォレスト公爵家の一員とするには、足りないものがある』


 当時はなぜそんなことを言うのかと反発した。

 レティを盲目的に愛していた俺は、レティと駆け落ちすることも考えていた。


 それなのに……俺はレティに捨てられた。

 将来を誓い合ったはずの彼女は、呆気なく俺ではなく他の男の手を取って目の前から居なくなったのだ。


 今でも彼女に言われた言葉は覚えている。


「私、お姫様になるのが夢だったの。サイモンにその願いは叶えられないでしょう?」


 俺は困惑した。

 なぜ?どうして?

 愛していると言ってくれたのは嘘だったのか。

 俺だけだと身を寄せてきたのは偽りだったのか。


 身を引きちぎられるような痛みだった。

 愛し、信頼していた相手に裏切られたのだ。


 惨めに振られた男を見る、周囲の目は冷たいものだった。

 俺とレティの仲は社交界でもよく知られていた。

 そのため、婚約はしていなかったが、傷物として俺は扱われていたのだ。

 多くの友人が俺から離れていった。


 余計に俺は荒れた。


 そんな中、変わらずそばにいてくれたのはクリスとトリシャだった。

 


 レティが太陽だとすればトリシャは月のように落ち着いた女性だ。

 トリシャと一緒にいると、会話がなくても不快ではない。

 幼いときからそばにいてくれたのはトリシャだ。

 彼女といる時間はとても心地よかった。


 誰かの前でみっともなく泣いたのもトリシャだけだ。


 そんな時、俺はクリスに言われて気がついた。


「何でも曝け出せるような相手、早々見つかりはしない。特に俺たちのような王族や貴族は尚更な。お前はその幼馴染を大切にしろよ?まぁ、サイモンがそこまで信頼している相手だ。俺の妃にしてもいいかもな」


 その瞬間、一気に頭に血が上った。

 トリシャの朗らかで優しい笑顔が脳裏に浮かんだ。

 少し怒った顔や拗ねた顔、そして時折見せる寂しそうな顔。

 走馬灯のように駆け巡ったのだ。


「だめだ!トリシャは渡さない」


 気がついたらそう口走っていた。

 悪戯が成功した子供のような悪い笑みを浮かべたクリスの顔は一生わすれないだろう。

 クリスは気付いていたのだ。

 俺がトリシャへ幼馴染の枠を超えた特別な感情を持っているということを。


 受け入れてしまえば簡単だった。

 トリシャを愛していると。


 確かにレティのことが好きだった。

 だけど今ならわかる。

 天真爛漫なレティが見せてくれる景色が新鮮だったのだ。

 自分が知り得ない世界を見せてくれるレティに惹かれていただけだった。


 なぜ両親が婚約したいと言ったときに反対したのか、その理由も今ならわかる。


 努力をしたり、相手に合わせることが苦手なレティ。

 明るく無邪気なレティは、言い方を変えると自由奔放で傍若無人。

 そんな人に公爵夫人は務まらない。


 

 人の本質を見抜くことに卓越している両親は、レティを見てすぐさまその問題点に気づいたのだろう。



 それからしばらくして、トリシャの元へさまざまな縁談が持ち込まれていると聞いた。

 煌めくような銀髪に、月を思わせる大きな瞳。

 白く滑らかな肌に小さな唇。

 月の女神のように美しいトリシャだ。

 トリシャを妻にしたいと考える人が多数いるのも頷ける。

 さらに今はカサハールの王族となったレティの異母妹でもある。

 政治的な側面から見ても、トリシャほど魅力的な女性はいない。


 だが、ほかの人の元へトリシャを嫁がせるなど、絶対許せない。

 俺はすぐにトリシャと婚約したいと両親に伝えた。

 すると両親はすぐにアーレス侯爵家へと打診し、めでたく婚約することになったのだ。



 しかしここで大きな壁にぶち当たる。



 俺はずっとトリシャにレティのことを相談していた。

 さらに泣き喚くという醜態を晒している。

 レティに捨てられた俺をトリシャはどう思うのか。

 みっともない、情けない男だと思っているのではないのだろうか。

 そんな男から「好きだ」と言われたらどう思うだろうか。


 きっとトリシャは俺のことなど何とも思っていない。

 兄弟愛みたいなものはあるかもしれないが……。

 この婚約も同情心のようなものが強いのかもしれない。


 ――怖かったのだ。


 俺の気持ちを伝えて、トリシャに拒絶されるのが。

 レティのように、トリシャも俺を裏切るのではないかと。

 それほどレティに捨てられたことは俺の心に大きな傷を作った。


「トリシャ、すまない」


 俺のわがままで君を縛り付けてしまった。

 婚約式で謝罪した俺に、トリシャは悲しそうな笑みを浮かべた。

要するにサイモンはヘタレちゃんです('▽`;)

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