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10.妻が美しくて辛いです(サイモン視点)

よろしくお願いします。

いつもありがとうございます!


 シャーロット王女殿下の婚約披露パーティーの日、俺は鬱々とした感情を抱えていた。

 結婚してから初めてトリシャと参加する夜会だ。

 それなのにレティと接触を図らなくてはならないなんて……。


 トリシャと待ち合わせをした場所へ向かうと、やたら騒がしい一角があった。


 気になって見てみると、その先には美しすぎる最愛の人が俺の色を纏ったドレスを着て立っていた。


「トリシャ……」


 思わず駆け寄ると、トリシャは少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら俺のそばへ寄る。

 心細かったのだろうか、少し指先が震えている。


 輝く銀髪がキレイに結い上げられ、すらりと細く白い首筋が露わになっていた。

 俺が密かに贈った銀細工の髪飾りには、サファイヤが埋め込まれている。

 思った通り、トリシャによく似合っている。


 そして紺色のドレスに金糸の刺繍。


 ドレスのデザインはトリシャの好きなものを……と思ったが、色だけは譲れなかった。

 侍女長のマリーに頼んだら「独占欲丸出しですね、坊っちゃま」と揶揄われたが、マリーも嬉しそうだった。


「なんてキレイな方なの」

「お隣にサイモン公爵様がいらっしゃるということは……あちらがフォレスト公爵夫人?」

「くそ、人妻だったか……声かけようと思っていたのに」

「いや、人妻だろうと関係ない!夫婦仲は良くないって聞いたし、俺にもチャンスがあるかも……」


 不埒な考え方をするクズ野郎へ視線を送ると、さすがに不味いと思ったのかすぐにどこかへ逃げていった。


 美しすぎるトリシャは注目の的だった。

 俺の自慢の妻だ!と見せびらかしたい気もするが、ほかの男たちの視界に入れるのは許し難いという独占欲が心の中を蠢いて忙しい。


 周りの男を威嚇しつつ、俺とトリシャは会場のホールへと向かった。


 知り合いと談笑していると夜会の開始を告げるファンファーレが鳴り響いた。

 来賓やら王族やらが続々入場しているが、はっきり言ってどうでもいい。


 隣にいるトリシャが眩しい。

 入場してくる面々を見て目を輝かせるトリシャが可愛い。

 少しでも気を緩めれば「好きだ」と呟いてしまいそうになる。


 そんなトリシャの顔が一瞬曇った。

 なぜだろうかと視線を正面へ向けると、そこには以前と違いよそよそしいジュリアスとレティがいた。

 きっとトリシャは気づいたのだ。

 二人の雰囲気が変わったことに。


 ……何も起こらないといいが…。


 一抹の不安を覚えた。


 ◇◇◇


 クリスの読み通り、レティが俺に接触を図ってきた。

 しかも堂々とトリシャの前で。


 絡まれた腕が気持ち悪い。


 身体をすり寄せ、あざとい上目遣いで媚を売ってくるレティ。

 俺はこんな女に夢中になっていたのか…。

 そう思うと少しだけ残っていた過去の美しい思い出が、がらがらと大きな音を立てて崩れ去った。


 「サイモンとはずっと会ってなかったものね。久しぶりに色々お話ししたいわ!そうだ、サイモン。久しぶりに踊ってくれませんこと?」


 お前なんかと踊るか!

 そう言いたいのをグッと我慢する。

 クリスの命令がなかったら、今すぐこの腕も振り解いてやるのに…!


 「トリシャ、レティア妃殿下の申し出を断るわけにはいかない」

 「そ、うですわね。私は構いません」


 トリシャに告げると、少し戸惑いながらも了承してくれたトリシャ。

 トリシャを一人残していかなければならないなんて。


 この仕事が終わったら、何がなんでも休暇をもぎ取ってトリシャと新婚旅行に行く!


 俺はそう心に決め、レティと久しぶりのダンスを踊った。


 「サイモン、トリシャとはうまくいっているの?」

 「あぁ、問題ない」


 レティはねっとりと纏わりつくような声で問いかけた。

 正直うまくいっているかいっていないかで言ったら、うまくいっていないのだろう。

 きっと……トリシャはこの結婚に不満を持っている。

 俺が強引に結婚に持ち込んだのだ。

 

 「私ね、夫婦仲がよくないって聞いたわ。私の代わりにトリシャを娶ったのでしょう?でもトリシャじゃ私の代わりにならないものね。ねぇ、私最近思うのよ。あの時ジュリアスではなく、あなたの手をとっていたら……私もあなたも幸せになれたんじゃないかって」


 上目遣いで俺を見上げるレティ。

 俺は自分の中の温度が急激に下がるのを感じた。


 なんて自分勝手なんだ。

 権力欲しさに俺を簡単に捨てたくせに。

 悪びれることもなく、平然と裏切ったくせに。


 怒りの感情しか生まれなかった。

 愛しかったはずのその笑顔も、今では後ろ暗い感情を伴い輝きを失っている。

 以前は心地よかった香水の香りも、今は鼻につくキツいものに変わっていた。


 レティは変わった。

 いや、俺が気が付かなかっただけで、元々そういう要素はあったのだろう。


 「しかし貴方はジュリアス殿下の手を取った。過去は変えられません。それに私は貴方の代わりにトリシャを妻にしたのではありません。私がトリシャを望んだのです。誰が何を言おうと、私の妻はトリシャでなくてはだめだ」


 目を見開いたレティは、驚きの色を隠せていなかった。


 「私はあなたの妻になりたいの!そのためならなんだってするわ!」

 「言っただろう?私の妻はトリシャだけだと」


 いつの間にか、曲が終わり、次の曲へと移ろうとしていた。


 「それではレティア妃殿下、よい夜を」


 一礼をし、俺はレティに背を向けた。

 トリシャに会いたい。

 ただひたすらトリシャを探した。




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