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11.夫は都合のいいおもちゃではありません

仕事が忙しくてすみません。

いつもいいねやお気に入り登録ありがとうございます!

久しぶりのトリシャ視点です。

 休憩室を飛び出した私は、気が付けば中庭へとやって来ていました。

 ホールのような煌びやかさはないけれども、ランプが草木を照らし幻想的な雰囲気を醸し出しています。


 きっと日中はもっと鮮やかでキレイでしょうね。


 王城から中庭に伸びる白く長い階段。

 私は踊り場にある手すりに寄りかかりながら、闇夜へ思いを馳せました。


 腕にはまだサイモン様に抱きしめられた感触が残っています。


 今日のレティアお姉様とジュリアス殿下の様子を見る限り、二人はうまくいっていないのだろう。

 それでレティアお姉様は以前の恋人、サイモン様へ接触を図ってきた……。


 再び黒いもやで胸の中が覆い尽くされていくようです。


 レティアお姉様はもしかして……。

 いえ、でも王族との婚姻はそんな簡単に解消できるものではありません。


 私は頭を横に振り、浮かんできた疑念をどこかへ飛ばしました。


 でも、本当にそんなことが起きてしまったら……。


「あら、トリシャ。こんなところにいたの」


 突然声をかけられました。

 聞き覚えのある声に振り返ると、やはりそこには思った通りの人物がいました。


「レティアお姉様」


 ふわりと舞った風がレティアお姉様の香水の香りを運んできました。

 先ほどまで一緒にいたサイモン様から漂ってきていた香りと同じです。

 胸がぎゅっと苦しくなりました。


「ちょうど良かったわ。あなたと二人で話したいことがあったのよ」


 レティアお姉様はそう言うと、私の横にいらっしゃいました。二人で並んで中庭を見下ろします。

 レティアお姉様の後ろに控えていた侍女は、少し離れたところから私たちを見守るようです。


「あの、お話というのは?」

「私、ジュリアスと別れたいと思っているの」


 びっくりしました。

 まさか本当にそう思っているとは。


「……理由を伺っても?」

「そうね、嫌になっちゃったのよ。カサハールに行ってから妃教育だの、マナーだのうるさくって。もっと贅沢な暮らしができると思ったのに、予算がってうるさいし、全然自由がないじゃない?ジュリアスも初めは私を庇ってくれたけど、だんだん冷たくなって……トリシャやサイモンならわかってくれるわよね?私のこと、一番わかってくれているのは二人だもの」


 私は頭が痛くなりました。

 レティアお姉様は王族に嫁ぐ意味を全く理解していなかったのです。

 王族だからと贅沢ができるわけではありません。

 国民がより良い暮らしをしていけるよう、務めを果たさなくてはならないのです。

 そのための妃教育です。

 しかしレティアお姉様はその妃教育を放棄されているよう。

 ジュリアス殿下の愛情が冷めていくのも仕方ありません。


「レティアお姉様、王族に嫁ぐということはそういうことです。しかし離縁するとなると、そんな簡単にはいかないかと」

「なんで?なんでトリシャはそんな意地悪を言うの?」


 眉間にシワを寄せ、私に迫るレティアお姉様は腰に手を当て語気を強めます。


「意地悪ではありません。婚姻を結んだ以上、嫌になったからとすぐにやめられるものではないのです」

「……あなた、サイモンが私の元に戻るのがそんなに嫌?」

「それとこれでは話が違います!」

「違わないわ」


 レティアお姉様は扇子で口元を隠してはいますが、ニンマリと笑みを浮かべているのがわかります。


「サイモンは今でも私のことを愛している。トリシャはただのスペアよ。本来は私がその立場にいたはずなのに……だからもういいのよ。トリシャ、ご苦労様。サイモンは返してもらうわね」


 私は怒りで強く拳を握りました。

 はらわたが煮えくりかえるとはこういうことなのですね。

 レティアお姉様の身勝手さに身体が震えます。

 レティアお姉様はサイモン様をなんだと思っているのでしょう。

 サイモン様がレティアお姉様を未だに愛しているのは事実です。

 しかしサイモン様を平然と捨て、ジュリアス殿下の手を取ったのはレティアお姉様です。

 それなのにジュリアス殿下とうまくいかないから、王族の勤めが嫌だからとまたサイモン様の元へ戻ろうとする。


 サイモン様は都合の良いおもちゃじゃない。


 サイモン様の心を弄ぼうとするレティアお姉様が許せませんでした。


「レティアお姉様は私にサイモン様と離縁しろ、そうおっしゃりたいのですか?」

「あら、さすがトリシャね。話が早いわぁ。そういうことだから」

「嫌です」


 私はレティアお姉様の言葉を遮って言いました。


「え?トリシャ、今なんて?」

「ですから、嫌ですと申し上げました」


 レティアお姉様の目を見て、はっきりと伝えます。

 レティアお姉様は断られると思っていなかったのか、大きな目をさらに見開いたまま固まっています。


「トリシャ、何を言っているの?私は王族よ?これは命令なのよ?」

「そのような命令は承服しかねます。王族とはいえ、レティアお姉様は隣国カサハールの王族。タトラス王国の王族を通してくださいませ。サイモン様との婚姻は……サイモン様からご要望があれば離縁に応じます。ですが私からは何も申しません」


 もともとサイモン様が愛しているレティアお姉様と一緒になりたいと言うのであれば、その時は潔く身を引くつもりです。

 しかしフォレスト公爵家で過ごした日々はとても充実していました。

 公爵家の使用人やお義父様、お義母様を思うと私の方から離縁を申し込むことはできません。

 フォレスト公爵家は私の大切な居場所なのです。

 彼らを裏切るようなことはしたくありません。


「なら仕方ないわね。アマンダ」


 レティアお姉様が持っていた扇子をパチンと鳴らすと、付き添っていた侍女が私へと歩み寄ってきました。


「……レティアお姉様、一体何を?」

「悪いわね、トリシャ。そこは私の場所なの。だから、退いてくれる?」



 ドンッ



 ――強い衝撃と共に、視線が反転しました。

 


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