気になる男の過去の人
そして翌週。今週いっぱいでついに夏休みだ。夏休みはどんな稽古をしよう。今から楽しみでならない。
「あら、アイリーン。今日は髪だけはキレイじゃない。珍しいわね。」
「アレックスか。ちょうどいい。お前に聞きたいことがあった。」
「何かしら?」
「お前はなぜ強くなろうとする? お前ほどの家柄ならそのようなことをせずとも楽に生きていけるのではないのか?」
「内緒。と言いたいところだけど教えてあげる。大した理由じゃないもの。でもその前にアイリーンの理由を聞かせてよ。なぜ強くなりたいの?」
「それこそ大した理由ではない。私は叔母のベルベッタ・ド・アイシャブレに憧れているんだ。私もあのように強くなりたいと。」
「ふーん、それならアイリーンの行動は少し変ね。ベルベッタ様のようになりたいのよね?」
「何が変だと言うのだ! 叔母を知りもしないくせに!」
「ええ、知らないわ。でもベルベッタ様の影響で生み出された服装、流行は知ってるわ。強く美しい女の象徴、ミニスカートをね。」
「あ、あのように足を丸出しにして戦えと言うのか!」
「当然よ。私だって持ってるわ。学校で穿くことはないけれど。そして穿いてみて分かったの。女性が強くなるためにミニスカートは必須ね。あなたにも勧めておくわ。」
「し、正気か! お前ほどの上級貴族があのように足を丸出しにして動くと言うのか! し、下着が……」
「そのうちアイリーンにも分かるわよ。見られることで強くなる感覚が。だから私はあなたに勝てたのよ。でもあなたが下着を気にするなんて意外ね。」
ち、授業が始まってしまったか。アレックスの理由を聞きそびれてしまった。まあいい。それにしてもミニスカートか……
確かに叔母様が準決勝で自らのスカートを破ることで動きが見違えるようになったのは有名な話だ。その上、決勝戦では更に短くした上に、丁寧に縫い直して上品さまで追求した。そこまでやった上での優勝……
そして国王陛下にご下問されて答えた名前が、ミニスカートか……叔母様は……
昼休み。普段は一人で食べるのだが、最近はアレックスと食べることが増えた。
「それで? 先ほどの続きを聞かせてくれ。なぜお前は強くなろうとしているのだ?」
「ポーションを届けてくれた男の子の話をしたわよね? あの男の子が私の最愛の人。彼は凄い人よ。私は彼にどこまでも付いて行くために強くなろうとしているの。彼は辺境フランティアどころか、ローランド王国ですら収まらない男。だからよ。」
「とても信じられない話だが、アレックスが言うのならそうなのだろう。男のために、強くなる、か。」
「半分は自分のためだけどね。彼に守られっぱなしだと誇りを持って生きていけないもの。」
「そうか……」
「そんなことより、その髪。どうしたのそれ? お風呂に入ったようには見えないのに。」
「最近王都で流行しているらしい櫛を手に入れてな……それを使ってみた、だけだ。」
「手に入れた? 正確に言いなさいよ。誰に貰ったの?」
「バ、バラドだ……」
「ふーん。その子知ってるわ。スティード君をライバル視してる男の子よね。ふーん、バラデュール君にねぇー?」
「な、何が言いたい!?」
「別にぃー? 夏休みが楽しみになってきたわね?」
「ふ、ふん……」
「ねぇ、聞いた? 今の話」
「ええ、アイリーンの奴に男っ気とはね」
「どんな奴か知りたくない?」
「バラデュールって言ってたわね」
「そいつ知ってるわ。騎士学校のデカいだけの奴よ。席次は四位とか五位程度ね」
「なーんだ、ダメじゃん」
「思い出したわ。昔ソルダーヌ様にイカれてた男ね」
「あちゃーソルダーヌ様に? それは身の程知らずってものね」
「それが今はアイリーンといい感じってわけね」
「ふーん、しかもアイリーンの奴。負けたくせにあの高慢女と仲良くしちゃって。気に入らないわね」
「そうよね。何の間違いか今やあの高慢女が首席だなんてね」
「二人まとめてギャフンと言わせてやりたいわね」
「ねぇ、あのバカ三人組が使えるんじゃない?」
「あっ! あの自称アイリーン親衛隊の?」
「大丈夫? バカ過ぎるんじゃない?」
「まあやってみればいいわよ。私達は高みの見物だし」
「アイリーンって結局一度も私達の誘いに乗ってこないし」
「一度ぐらい痛い目に遭ってもらわないとね」
「そうそう。領都には領都のルールがあるってことを知ってもらわないとね」
「もうすぐ夏休みだし。急がないと」
「さーて、あのバカ三人組はどこにいるかしら?」
「面倒だけど正門で待ってよっか?」
「そうね。クラスも違うし。それが確実よね。」
「あっ、来たわ! アイリーンにつきまとってる!」
「それでアイリーン様。今夜いかがですかぁ?」
「行きましょうよぉー」
「舞踏と武闘。アイリーン様のためになる」
三人組が私に声をかけてくる。こいつらは誰だったか……
そこにいつかの四人組までやってきた。
「ねぇねぇアイリーン。ちょっとテルナ達を借りていい?」
テルナとは誰だ?
「任せる。私は行く。」
どうせ下らないことだろう。私に関係ないことなど好きにすればいい。
「あ、アイリーン様ぁ!」
「何よボニー? 私達に用なんて珍しいわね」
「手短に済ませるべき」
「アイリーンに関する話よ。知りたくない?」
「へぇ? アンタ達にしては殊勝じゃない。ぜひ聞きたいわ」
「アイリーン様の何を知ってるのよ?」
「有益な情報は歓迎」
「男関係よ。それがね……」
「アイリーン様が恋……」
「それも騎士学校の野卑な男……」
「無法許すまじ」
「まあアンタ達の大事なアイリーンのことだし、心配だろうと思ってさ。でもその男ってソルダーヌ様のことが忘れられないみたいなの。アンタ達の腕の見せどころね」
「ありがとう。私達はアイリーン様のために行動するわ!」
「アンタ達って意外といい奴なのね」
「協力感謝する」
「あいつらって本当にバカね。どうぶち壊してくれるか楽しみだわ」
「そうね。バカを踊らせるのって案外おもしろいのね。クセになりそう」
「そうそう。あいつら今から騎士学校に行くのかしら? ふふっ」
「うまくあの高慢女まで巻き込んでくれればいいわね」
アレックスは裏で女子に嫌われています。
でも表立って誰も文句を言えません。身分の差は大きいですね。




