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「すまなかった」
突然、レイは私に深く頭を下げた。
……嘘。まじで?
彼のまさかの動きには目を丸くして、口まで開いてしまった。
「俺は兄の死を出来損ないの聖女のせいにしてきた。お前の言う通り、誰かのせいにした方が楽だった。…………本当にすまなかった」
「私が嘘を言っていたとは思わないの?」
レイは静かに顔を上げて、私をじっと見つめた。私を射抜くようなその目に私は目を逸らせなかった。その瞳には揺るぎない確信があった。
「嘘を言っている者の目は分かる」
……ずるい答えね。
だけど、私の言葉を信じてくれたことがほんの少しだけ嬉しかった。けど、そんな感情を顔に出したくない。
「ありがとう」
私は前を向きなおして、小さな声でそう言った。そして、彼の言葉を待たずに足を進めた。
今まで噂を強く否定してこなかったから、他人からどう思われても、何を言われても仕方のないことだと思っていた。レイはそんな私の気持ちを少しだけ崩してくれた。
……この依頼の間だけの付き合いだけど、今からでもいい関係が築けそう。
♢
この男、本当に腹立たしい……!!
一刻も早く依頼を終わらせてやる。重苦しい空気感から解放されたけれど、やっぱりムカつくものはムカつく。
喧嘩の発端は、自分で決めている今日のノルマを達して、森で野宿しようとしたら「今日は宿を取りましょう」とレイが言ったことから。
こんな些細な発言から、ここまでの言い合いになるのは、もはや才能かもしれない。
「だから~~!! 街に行けば、どこで訓練すればいいの!!」
「一日ぐらい休憩したっていいだろ! 別に今日一晩休んだからって能力が半減するわけじゃねえだろ!」
「呑気に過ごしている間に、敵はもっと強くなっているかもしれないじゃん!」
「別に世界を救うおつもりがないのなら、そこまで必死に強くなる必要なんてないんじゃないですか~~?」
思わず顔にパンチを入れたくなるほどの表情でレイは私を煽ってくる。私も負けじと力強く彼を睨みつける。
この森を抜けると、かなり栄えている街がある。王都ほどではないけれど、活気のある大きな街だ。
「自分の命を救いたいだけです~~」
私がそう言い返すと、レイもすぐに言葉を返してくる。私たちの大きな声が森の中で盛大に響く。
両者一歩も退かない者同士の口喧嘩というのは面倒だ。どっちも子どもすぎる。どっちかが折れるまでこの言い合いは続きそうだけど、絶対に私は負けない。
依頼を受けて分かったけど、この国のこれほど魔族がはびこっているとは思わなかった。勢力が微弱といえども、かなりの量。王子は、今まで放っていた雑魚魔族の殲滅目的で私にこの仕事を与えたのだろう。
「つか、もう今の強さで充分だろ!」
「現状に満足していたら成長するわけないでしょ! だから、皆、弱いまんまなんだよ! それに、依頼は手ごたえのない敵ばっかりで、準備体操にもならないもん!」
やっぱり、レイとは相性が悪い。……空気が暗くて、気まずい状態よりかはましだけど。
「はああぁぁ、お前が異常なんだよ」
レイは少し間を空けて、大きく息を吐く。どこか諦めたようなため息。彼は急に私に対しての戦意を失った。
…………これは、今夜も森で過ごす流れになる?
「今日は街で宿を取る。行くぞ」
違ったみたい。




