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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第四十三話

前回、 全国魔試は三次試験に入り、 いよいよ大詰めに。

協会が割り当てた試験官と戦う事となったエインは、 アフィーレと対峙する。

そこで、 エインは彼の『目にした対象を複製する魔法』の謎に挑戦する。

戦いの中で分身を観察していたエインだが、 未だその原理が掴めずにいた。

そこで、 彼女は別の視点で分身を見てみる事にした。

それは分身が構築している『魔力』である。

するとやはりと言うべきか、 分身はその全身が高密度の魔力で構築されており、 特に術式らしい模様や文字が刻まれている訳でもない。

そこにあるのはただただ真っ黒な塊だけだった。


しかし、 しばらく凝視していたエインはある事に気付く。


「……ん? ……なんだろう……どこに繋がってるんだろ……」


分身の体のあらゆる箇所から、 僅かながらに血管のように魔力の糸が伸びているのだ。

その大元を辿ってみるも、 全ての糸は途中で薄くなって途切れてしまっている。

一見、 塊から出た『ほつれ』のようにも見えたが、 エインは何か意味があると思い、 考えを巡らせる。

そして気付いた……

……なるほど……これ、 逆なんだ……てっきり分身の方から魔力が出てるのかと思った……

そう、 分身から伸びている魔力は分身本体から放出されているのではなく、 大気中にある魔力から分身に流れ込む形で繋がっていたのだ。

しかし何故……そう思う前に、 エインはある答えに辿り着いた。


……そっかぁ……これは『魔力の記憶』なんだ……!


魔力の神髄を掴んだエインは、 魔力という存在が『糸』として、 よりはっきり見えるようになった。

そこで彼女が一番最初に気が付いたのは、 その『糸』がどういう形で存在しているかである。


結論から言うと、 全て一つに繋がっていたのだ。


世界の隅々まで満ちている魔力。

それら全てが一つの『糸』として存在していたのだ。

例えるなら、 世界が一つの毛糸玉と言ってもいいだろう。

生きとし生ける者、 全てが常日頃触れ続けている『魔力』。

風などの大気の流れを始め、 空から降る雨一粒一粒……鳴り響く雷鳴……果てには、 人々が持つあらゆる感情、 思考にすら……魔力は『全て』に反応する。

魔力は生きている訳ではない、 しかし、 その性質は原始的な生命と似通う部分がある。

だとすれば、 今まで受けてきた刺激を、 『彼』は記憶していないと言い切れるだろうか……

その答えは、 既にエインの目の前にあった。


そう……『魔力』は記憶しているのだ……


燃え上がる炎の温かさ……川を流れる水の冷たさ……雷が放つ光と音……世界を取り巻く『理』を『彼』は憶えている。

だからこそ、 無から炎を噴かせ、 風の動きを変え、 天地をもひっくり返せる。


つまり、 アフィーレの魔法の原理は、 『その者が今までしてきた思考や体の動きを『魔力』が記憶を元に再現している』という事である。

恐らく……これは『もっと面白いモノを見たい』という、 初めて魔法を見た時に抱いた彼の『願望』に応えた結果の一つなのかもしれない。

しかし、 より深く、 『魔力』の根底に近い性質から来るこの魔法は、 『魔力』という存在そのものの形を見る事ができる『魔力の神髄』の領域に踏み込めていない彼では扱い切れなかった。


それを理解したエインは、 次第に分身を操るための術式が見えてきた。

そして、 初めはただの魔力の塊にしか見えなかった分身が、 一つの模様に見えるようになった。

次の瞬間……


「ッ! ? この感覚は……」


アフィーレの瞳の中に花のような美しい模様の魔法陣が出現した。

彼の魔法の原理を理解したエインが術式を創り、 彼の中に『織り込んだ』のだ。

その時、 エインと同様にアフィーレの視点でも変化が起き、 分身に美しい模様が浮かんでいるように見えていた。

……まさか……解いたのか……僕が千年間解けなかった、 『呪い』とも言えるこの魔法の謎を……!

驚愕と共に、 アフィーレの中では喜びと興奮が溢れ出した。

そんな様子の彼に、 エインは笑みを浮かべる。


「術式は完成した……つまり、 『あの魔法』が通じるって事だよね♪ 」


そう言う彼女にアフィーレはフッと我に返り、 慌てて攻撃を仕掛けようとする。

しかし……

『パリィィィィンッ! ! 』

と、 ガラスが弾けるような音と共に、 アフィーレが展開しようとしていた魔法と、 今まで戦っていた分身が破壊されてしまった。

術式が存在しなかった魔法を解読され、 唯一エインに通用する手札が無くなった。


アフィーレの完全敗北である。


しかし、 彼はとても穏やかな表情をしていた。

……あぁ……なんて美しいんだ……ちゃんとこの目で世界を見るのなんて、 いつぶりだろう……

目の前で散っていく魔力の光……まるで雪の粉が舞っているかのような美しい光景に、 アフィーレは涙が浮かんでくる程に見惚れていた。

思ってもみれば、 カルミスは初めから知っていたのだろう……彼の魔法にある『答え』を……

それを教えなかったのは、 『魔法とは千年程度で退屈になる程、 浅い世界ではない……』という事を、 彼自身の力で気付かせるためだったのかもしれない。

実際、 エインと戦ってアフィーレは思い知った。

この世には、 ただ研究しているだけでは見えない世界がある……と……

……僕もまだまだ赤子同然という訳か……


「……ありがとう、 エインさん……僕にこの景色を見せてくれて……」

「フフッ……こちらこそ、 とっても楽しかったよ♪ 」


こうして、 エインは全国魔試に合格した……

少し遡り、 別の闘技場にて……

ウルもエインと同じように試験官との戦いが始まろうとしていた。

その相手は


「改めて、 私が君の相手をするメテスフという者だ……」


眼鏡を掛けた背の高い男、 メテスフだ。

……この男……戦い慣れしてる感じはしねぇが……『何か』を持ってる気配がプンプンしやがる……おまけにあの眼鏡……ただの眼鏡じゃねぇな……ずっと覗かれてる気分だ……

ウルは彼から感じる得体の知れない不気味さに警戒する。

そんな彼女を余所に、 メテスフは試験を始める前に少し話をしようと持ち掛けてきた。


「君はエルフのようだな……それも歳はアフィーレと近い……もっとも、 君らは見た目と年齢が必ずしも一致する種族ではないが……」

「それがどうしたってんだ……」

「私は君に興味があるんだ……何故だろうな、 君とアフィーレとでは……魔力量で言えば比べ物にならない程の差があるというのに……」


メテスフは試験が始まってから、 ずっとウルの事が気になっていた。

同僚のアフィーレと同じエルフであるからというのもあるが、 それ以上に、 魔法の実力で言えばアフィーレと比べると劣るというのに、 それを感じさせない戦闘能力の高さに興味が湧いたのだ。

それは彼女が魔法使いでありながら盗賊でもあるからか……または、 アフィーレとは違って奥の手を簡単には見せない慎重さから来る得体の知れなさがあるからか……

彼はその答えを今回の試験で見つけようとしていた。

……ほ~ん……根っからの学者先生って感じだな……大方研究室に籠りっきりで魔法の勉強ばっかやってるってとこか……

メテスフの話を聞いていたウルは、 戦い慣れしていない相手だろうと推測し、 戦闘はさほど苦労はしないかと考えた。


「……さて、 あまり時間を無駄にするのも惜しい……さっさと始めよう……」


そうして話が終わると同時に、 メテスフは眼鏡を少し上げる仕草を見せながら大量の魔法陣を展開した。

すると、 魔法陣から長さ一メートルはあろう巨大な鉄の杭が発射された。

それをウルは風の魔法で軌道を逸らして防御する。

……様子見といったところか……物理的魔法だから同時に出せる数はそこまで多くはないだろうな……

そう考えたウルはひたすら防御に専念し、 メテスフの魔力切れを狙う事にする。

しかし、 その思惑は一瞬で吹き飛ぶ。


「……おいおいおいおい……冗談じゃねぇぞ……! 」


彼女の目に飛び込んで来たのは先ほどよりも数倍の数の魔法陣だった。

その数は百を優に超えている。


普通、 魔法を同時展開できる数には限りがある。

訓練された魔法使いであっても最大十程度、 才能ある魔法使いでも三十はいけば良いくらいである。

しかし、 これは『同じ魔法』を展開する場合の数。

違う魔法を同時展開するとなると、 魔力消費の激しさと制御の難しさから、 その数は大きく減る。

例として挙げるなら、 多重魔術式展開で複合させられる魔法の数は普通なら五つ程度。

それを幾つも発動させるとなると、 良くて三つ程度だろう。


メテスフが使っている魔法は『金属生成の魔法』と『武器錬成の魔法』、 それらを使って作り出した杭を『風の魔法』で発射するという、 多重魔術式展開による複合魔法だ。

そんな魔法を彼は百以上もの数を同時発動しているのだ。


……一体どういうタネなんだよ……ってそんな場合じゃねぇッ!

ウルは考える間も無く地面から土壁を召喚し、 その後ろから防御魔法で二重の壁を作って身を守る。

幸いにも一つ一つの杭の威力はそこまで高くないらしく、 ウルに攻撃が届く事は無かった。


「……焦ったぜ……一体どうなってやがるんだ……魔力量はギリギリどうにかなるにしても、 あの数は流石にイカれてるだろ……」


しかし、 これでメテスフの魔力は殆ど無い……

そう思ったウルは攻撃に回ろうとすると、 周囲の異変に気付く。


「……これは……杭が塵に……? 」


ウルに当たらず、 地面に刺さった杭が次々と塵となっているのだ。

その塵は徐々にメテスフの元に集まり、 身体に吸収されていっている。

何事かと理解できずにいるウルに、 メテスフはその正体を明かす。


「これは私がカルミス様から授かった魔法……」



『物質を魔力に変換する魔法』だ……



『物質を魔力に変換する魔法』、 それは文字通り、 周囲にある生物以外の物質を魔力に変換し、 吸収する魔法である。

変換できる対象は魔法で生成した物であろうと、 生物以外であれば何でも良く、 その数や質量に制限も無い。

それはすなわち、 物理的魔法さえ使えれば、 自身で生成した物質を魔力に変換し、 また物理的魔法で攻撃するという……言わば半永久的に攻撃ができるということ。

ただ、 この循環を成立させるために、 エネルギー的魔法は一切使えないという事になる。


「まぁ……魔法戦においてはエネルギー的魔法よりも物理的魔法の方が汎用性は高いというのは今の魔法学の常識だ……戦闘で困る事はまず無いだろう……」

「マジか……って事は……」


……アイツの攻撃が永遠に終わらねぇって事じゃねぇかぁぁぁ!

メテスフの説明が終わると、 再び大量の杭がウルに目掛けて放たれる。

ウルは慌てて飛んでくる杭を防御しつつ、 打開策を考える。


……クソッ……この杭の雨が途切れねぇ事には手も足も出ねぇ……

無理やり突破する方法は無い事はないが、 対人戦闘においては慎重派なウルは下手に手の内を見せようとはしない。

ウルの防御方法を見ていたメテスフはその特徴に気付いていた。

……なるほど……初歩的な魔法のみで防御し、 余計な手札は見せない……戦い慣れているな……

そう思ったメテスフは少し趣向を変える事にする。

次の瞬間、 ウルが作った防御壁を回り込む形で魔法陣が出現し、 無防備な方向から杭が飛んで来る。


「まぁそう来るよなッ! 」


ある程度予測出来ていたウルは咄嗟に風の魔法で攻撃を逸らし、 狙いを定めさせない為に上空へ飛び上がった。

それを見たメテスフは再び杭を飛ばす。

すると、 杭は逃げ回るウルを追尾し始めた。

……今度は追尾型かよ……攻撃を逸らしてもまた飛んで来やがる……!

空中戦もまずいと思ったウルは、 再び地上へ降りようとする。

その時、 彼女はある事に気付く。


「……何だぁ……? 俺が降りてくるのを待ってやがるのか? 」


メテスフは何故か降下中のウルに対して攻撃をしてこないのだ。

攻撃のタイミングとしては申し分ないのにも関わらず、 そこをわざわざ見逃すなどというのは普通考えられない。

……杭は……相変わらず追尾して来やがる……自分の方に飛んでくるのを警戒してる……? ……いや、 追尾型って事はアイツが操作してるって事だ……なら自滅なんて事にはならねぇはず……

そんな事を考えつつも、 ウルは地上に降り立ち、 追尾していた杭を地面に突き刺さるように方向を逸らした。

そして再び、 メテスフは無数の魔法陣を展開し、 杭の雨をウルに浴びせる。

……なぁんか……見えてきた気がするぜ……アイツの魔法のタネが……

明らかに意味がある彼の不審な挙動に、 ウルは考察を巡らせる。


思い返してみれば、 上空へ飛び上がった際のウルに対して、 メテスフはたった数本の杭だけで攻撃をしていた。

百をも超える数の魔法を展開できるのなら、 上空にいるウルに対してもそうすれば良いはず。

何故、 そうしなかったのか……否……あるいは『できなかった』のか……

その考えに行き着いた時、 ウルの中である仮説が浮かんだ。

……まさか……あの魔法は一度展開したら操作できないのか……?


だとすれば、 下手に上空に飛ばして有らぬ場所に杭が着弾した際、 自分や闘技場以外の場所に被害が及ぶ可能性がある。

そこで数に制限が生じるが、 杭を自身で操作してウルを追尾した。


そう考えれば、 上空へ飛び上がったウルに対して無数の杭で攻撃しなかったのにも納得がいく。


「一か八か……やってみるか……! 」


思い浮かんだ仮説が正しいか確かめるべく、 ウルは早速行動に移った。

続く……

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