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私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
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第一話

その昔、 とある世界では全てが炎に包まれていた。

世界を支配する『魔王』と、 その配下である『悪魔』達によって、 人類は奴隷のような生活を余儀なくされていた。

しかしある時、 闇と混沌が渦巻くその世界に、 神々は『雫』を落とした。

『雫』は『竜』へと姿を変え、 『魔王』を討ち滅ぼし、 世界の形を変えた。

やがて、 世界を悪魔が支配していた時代は終わりを告げ、 人間が繫栄する時代に移り変わった。


その世界の名は『イースダルテ』

そこにはあらゆる自然現象を操れる『魔法』が存在し、同時に不可解な生物、 『魔物』も存在していた。

しかしその世界で重要なのはそこではない……その世界には少し独特な特徴があった。

皆はゲームや漫画などに登場する『勇者』、 または『英雄』をご存知だろう。

その世界には『勇者』、 または『英雄』と呼ばれる者達が複数同時に存在する。

しかし、 『勇者』と言っても皆が皆高潔な人格者ばかりではない、 彼らはその肩書に甘え、 欲望を満たす為に生きる者が殆どだった。

では何故、 彼らを『勇者』と呼ぶのか……それは、 また別の機会に……






「うわぁぁぁぁ! ! ! 」

「助けてくれぇぇぇ! ! ! 」


とある村がゴブリンの軍団から襲撃を受けていた。

村人は逃げ惑い、 助けを求める事しか出来ないでいた。

その中には逃げ遅れた村人に複数のゴブリン達が襲い掛かる光景が広がる。

村人はたちまち腹を裂かれ、 臓物を食い荒らされる。


「くそ……誰か……勇者様が一人でもいたら……」

「……勇者様はこんな村を助けてはくれないだろう……」


村人達は『勇者』の事を口にした……

そう、 この世界の『勇者』は決してゲームや漫画で見るような勇敢で高潔な人格者ばかりではないのだ。

『勇者』とは一般的には雇われ業として扱われている、 つまり金が無ければ人々を救ってはくれないのだ。

故に

……何が『勇者様』だ……金に集る亡者め……

と、 そう思う者は少なくない。

ゴブリン達に占領されかける村を眺め絶望する村人達……そんな時だった……


「いやぁ随分酷い事になってるねぇ……こんなことなら走ってくるべきだったかなぁ……」


村人達の前に突然現れた一人の少女。

その少女は十代前半にも見える程若々しい見た目をしており、 所々に汚れが付いたボロボロのローブを羽織っていた。

頭には何年も使い古されていると思わせるボロボロのフェドラハットのような帽子を被っている。


「あ……アンタは……一体……」


一人の村人が尋ねると少女は振り向く。

その長い髪は夜空の星のように煌めき、 こちらを見つめる黄金の瞳には計り知れない力強さと優しさを感じた。

表情は常に穏やかに微笑んでおり、 見る者を安心させる。

そんな少女に目を奪われていると彼女が村人達にこう言い放った。


「偶然ゴブリンに襲われている村を見つけた……『ただの旅人』です……」

「旅……人……? 」


これから始まる『物語』は……謎に満ちたこの世界を、 『ただの旅人』を名乗る一人の少女が、 好奇心の赴くままに様々な出会いと発見をしながら放浪する旅物語である。





『私はただの旅人です』





「ちょっと待っててね、 今何とかするから♪ 」


突然現れた少女は村人達にそう言い放つとゴブリンの軍団の方へ歩いていった。

無論村人達は少女の行動に驚き止めようとする。

しかし、 彼女はそんな村人の静止を無視し、 ゆっくりと剣を抜いた。

その剣は美しい青色をしており、 その中に星のような光が煌めいている。

次の瞬間、 村人達の眼に信じられない光景が映った。


少女は一本の剣を片手にゴブリン達を翻弄していたのだ。

青い刃の剣は少女が振り回す度に青色の光の円を描いていた。

少女はまるで踊るように舞い、 ゴブリン達の急所を正確に斬っていく。

それは残虐な殺し合いでありながらも、 少女の動きと剣の光がそれをかくも美しいように見せる。

その光景に村人達は舞台劇に見惚れる観客のように、 ただ呆然と眺めるしかなかった。

そして程無くしてゴブリンの軍団は全滅してしまった。


「ふぅ、 久しぶりに剣を振れて満足満足! 」


少女はまるで久々の運動を楽しんだかのような様子で村人達の元へ戻ってきた。


「あ……アンタ本当に何者なんだ? 」


少女の強さに圧倒される村人達は再び少女に尋ねる。


「んん?……あれ、 さっきも言わなかったっけ? 私はただの旅人だよ」

「そんなの嘘だ……『勇者様』でないとあんな強さに説明が付かない……」


納得してくれない村人達に少女は困り顔。

すると少女は何か思い付いたように村人達に手の甲を見せる。

当然少女の手の甲には何も無い。

それを見た村人達は驚く。


「えっと、 確か『勇者』って手の甲に階級を示す紋章を刻まれるんだよね? 」

「無い……ということは本当に……」


この世界の『勇者』は全員、 階級ごとに柄が違う紋章を手の甲に刻まなければならない決まりがあるのだ。

紋章の柄が複雑であればある程強く、 階級が高いという。

そんな紋章が少女には刻まれていない……すなわち少女は本当にただの旅人ということなのだ。

でも……どうして……

そんな具合で村人達はますます少女に不信感を抱く。


「うーん……細かい事はあまり説明できないんだけど……」


説明をしようにも、 少女自身も自らの事情は複雑だと言ってその詳細までは語らない。

とにかく、 村人達にとっては少女は命の恩人だ。

そんな彼女にお礼をしたいと言った。

それを少女は自分はただやりたい事やっただけだと謙虚に断る。

しかし、 村人達はどうしてもと聞かないので少女は仕方なくおもてなしを受けることにした。

…………

村長の家にて

少女は村長の家出食事をすることになった。


「どこの誰かは存じませんが……こんな辺鄙な村を助けて頂きありがとうございます……少ない食事ですがどうぞお召し上がりください」


村長の言う通り、 食事は決して豪華ではなかった。

そんな料理を見て少女は何か思うような様子を見せつつ、 食べ始めた。

質素な料理なのにも関わらず腹を空かせた子供のように頬張る彼女を見て村長は静かに微笑んだ。

彼女が食事中の時、 村長はそういえばと言って少女の名を聞いた。

すると少女は慌てながら食べ物を飲み込み、 口を開いた。


「失礼失礼、 私は『エイン』って言います」

「エイン様……」

「様なんて付けなくていいよぉ! 呼び捨てでも構わないから」

「ではエインさん……貴女は一体どこから来たのですか? 」


村長の質問にエインは食べながらも淡々と答える。

彼女曰く、 自分は村からずーっと遠い森の方から旅をして来たという。

ただ、 正確な場所は分からないとの事。


「ではずっと一人で? 」

「いや、 森を出て旅をする前はパパと一緒に暮らしてたんだ……」


エインは一瞬手を止めて答えた。


「では……その父親から剣術を? 」


そう聞く村長にエインは食べ物を口の中一杯にしながら頷いた。

そんなエインの様子を窓の外から見ていた村人達は不思議そうにしていた。


「何なんだあの子は? 」

「勇者でもなければ騎士でもない……謎が多すぎるぞ……」

「でも何か……結構かわいいな……」


エインの事を不審がる者もいればエインに惚れかけている者もいた。

すると一人の幼い子供がエインを見ながら でも、 あのお姉ちゃんはいい人だよ と呟く。

それを聞いた村人達は頷く。

そんなことをしていると食事を終えたのか、 エインは村長の家から出てきた。


「ふぅ、 久しぶりに満腹になったぁ……さて……」


エインは独り言を呟くと村人達の方を見る。


「村人の皆さん、 しばらくここに泊まらせてもらう事になりました。 名前はエインと言います、 よろしくお願いしまぁす! 」


すると村人達は一瞬沈黙し、 声を合わせて驚いた。


「えっ……いや……構いませんが……何故唐突に? 」


そう言う村人達にエインは 単なる気まぐれ♪ と笑顔で答えた。

何を考えているか分からない彼女の態度に一同はただ唖然とするしか出来なかった。


「さて、 挨拶も終わったし……私はこの村の端っこにある小屋にいるから、 何かあったらいつでもどうぞ」


話に付いていけない様子の村人達を余所にエインは住居として与えられた小屋へと向かっていった。

ますます謎が深まるエインの行動に村人達は混乱した。

しかし村の復興作業が残っていた村人達にこれ以上はエインに構っている暇は無かった。

翌朝……

村人達は再び復興作業を始めようと家から出ると……


「な、 何だこれ! 」

「村が全部……元通りになっている! 」


なんと復興作業中だった村が全て元通りになっていたのだ。

そして一同は一瞬で誰の仕業か察した。

そこへエインがやってくる。


「あ、 皆さんおはようございまぁす! 暇だったから全部終わらせておいたよ? 」


エインは相変わらずの態度で村人に言った。

それに対し村人達がざわついている様子を見てエインはきょとんとする。


「え、 何か駄目だったかな? 」

「いや、 物凄く助かったよ……ありがとう……にしても、 これだけの作業を一晩の内にやってしまうとは……」

「力仕事は昔からパパに鍛えられてたからね! 」


彼女は褒められた子供のように自慢げに胸を張る。

……いやそういうレベルじゃ……

村人達が困惑しているのを余所にエインは自身の小屋の近くにあった畑に水をやり始めた。

相変わらず何を考えているのか分からないエインに村人達はただ置いてけぼりにされていた。

そんな時……


「ふう、 やっと村に着いたぜ」

「もう三日もまともに休めてないからくたくただよぉ」

「早くベッドで寝た~い! 」

「腹も減ったな……」


四人グループの人間達が村にやってきた。

その風貌からするに勇者のパーティだというのは村人達全員が察した。

すると村人達は途端に態度を変えて勇者一行を出迎えた。


「これはこれは勇者様、 ようこそ『アミィラ村』へ……」


すると……


「へぇ、 ここアミィラ村っていうのか……随分貧しい村のようだな」

「あまりいい宿は期待でき無さそうね……」


勇者一行は村の様子を見て小馬鹿にする様子で言った。

村人達はどこか不満げな雰囲気を見せるも、 大人しく勇者一行をもてなした。

そんな様子を見ていたエインはというと……

……へぇ~……ここアミィラ村っていう名前だったんだ……

勇者一行には興味が無く、 ただ聞き忘れていた村の名前を今更知った様子。

…………


「どうぞお召し上がりください……あまり豪華とは言えませんが……」


村人達は勇者一行に料理を出した。

それはエインの時と同じような料理だった。

そんな料理を見て露骨に不満そうな表情を浮かべる勇者一行。

ただ、 恐らく戦士職の者だろう勇者よりも大柄で体格のいい男は表情一つ変えずに食事を始めた。

同時に料理を口にした勇者は……


「うえ、 味が薄すぎる……」

「何なのこれ……料理じゃない……」

「まずーい! ! 」


周囲の者にも聞こえる程の声で不満を垂れ流す。

すると勇者は立ち上がり


「おい、 もっといい料理出せないのかよ! 」


と文句を言う。


「も、 申し訳ございません……ですが我々も生活が掛かっていますので……これ以上の料理は……」


一人の村人がそう言った瞬間、 勇者はその村人を蹴り飛ばした。

そして腰に掛けていた剣を抜き、 村人に突き付ける。


「口答えするな……俺は『勇者』だぞ……お前らの命を誰が守ってやってると思ってんだ? 」


その様子を見ていた村人達は恐れる。

しかし勇者の仲間たちは止めようとしない。


「俺に口答えしたのには万死に値する……死ね」


そう言うと勇者は村人に向かって剣を振りかざす。

次の瞬間……


「はいはーい、 そこまで! 」


エインが勇者の背後から肩を掴み、 止めに入った。


「何だ……貴様……」


勇者がそう言った瞬間、 勇者は後ろに向かって目にも留まらぬ速さで剣を振った。

しかしどういう事だろう、 剣は確実にエインの体を通過したはずなのに、 エインの体には傷一つ入っていなかったのだ。

その様子を見た勇者は一気に冷や汗をかいた。


「な……なんで……剣が……通り抜け……」

「野蛮な事はやめて、 話し合いで解決しようよ……ね、 ゆ・う・しゃ・さ・ま? 」


微笑みながら語り掛けるエイン。

その話し方からも明らかに煽っている様子。

これに対して当然怒る勇者。

その様子を見たエインは……


「いや、 別に何も売ってないよ……私、 商人に見えるのかな……? 」


と、 軽い冗談で返し更に煽る。

……まぁこれだけ煽れば村の人から注意が逸れるでしょ……

エインの目的はそこにあったのだ。

そして彼女の態度にますます頭に血が上った勇者はエインに剣を突き付け


「俺と勝負しろ! 今お前が舐めているのは誰なのか思い知らせてやる! 」


エインに決闘を申し込んだ。

そのやり取りを見ていた勇者の仲間たちは


「あ~あ、 あの子終わったね」

「やっちゃえ~勇者様! 」

「……」


一人を除いてこの状況を楽しんでいる様子だった。

そして勇者とエインは決闘の為に建物の外へ出た。

…………


「あの子大丈夫なのか……? 」

「確かに腕の立つ剣士みたいだが……流石に勇者相手では……」


多くの村人達が騒ぎに乗じて決闘を見に来ていた。

村人達の目線の先には向かい合って立つ勇者とエインがいる。


「勝負の前に貴様に一ついい事を教えてやる……俺は見ての通り『勇者』だ……だがな、 その中でも俺は格が違うんだよ……」


準備運動をしているエインに勇者は話を始めた。

すると勇者はエインに手の甲を見せる。

そこに描かれていたのは草紋のような複雑で精密な紋章だった。

それを見た村人達は驚愕する。


「あれって……草紋級の証じゃないか……」

「勇者の中でも三番目に階級が高いとされる……」


勇者の紋章には全部で十種類存在する。

一番低い順から言うと、 竜紋級、 水紋級、 草紋級、 炎紋級、 太陽級といったようになっており、 この中でも竜以上の階級は特別に強い力を持った勇者が多いとされている。


それを知っている村人達は全員戦慄する。

しかし……


「えっと……私そういうのはよく知らないから……ごめんね」


エインは何も知らなかった。

その態度に堪忍袋の緒が切れた勇者は目にも留まらぬ速さでエインに突進し、 剣を振り上げた。

誰もがエインの死を確信していた。

しかし、 一同は目の前の光景に驚愕する。


「……なっ! 」

「始めるなら合図の一つぐらい出してよぉ……びっくりしたぁ……」


なんと、 エインは片手の指たった二本で勇者の剣を挟み取っていたのだ。

勇者は驚くもエインの指を振りほどき、 再び斬撃を繰り出した。

するとエインは最小限の動きで勇者の斬撃を難なく躱していく。


「貴様……一体何なんだ! 」

「そう言えばまだ自己紹介してなかったね……私はエイン♪ 世界を気ままに放浪するだけの……」





「ただの『旅人』です」





続く……

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