↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はただの『旅人』です。  作者: アジフライ
2/53

第二話

前回、 ゴブリンに襲撃されていた村を救った自称『ただの旅人』、 エイン。

彼女に救われた村人達はエインが何者かも分からず不思議に思うも、 しばらく泊まると言う彼女を受け入れた。

そんな時、 勇者一行が村を訪れた。

村人達に横暴な態度を取る勇者を止めに入ったエインは、 勇者と決闘をする事となる。

・

・

・


「エイン……貴様のような奴は初めてだ……ここまで俺を不快にさせるなんて……」


冷や汗をかきながらも勇者はエインに威圧的態度を取る。

しかしエインは物怖じする様子も見せない。

再びお互い距離を取ると勇者は剣を収め、 抜剣の構えの姿勢を取った。


「エイン……誇りに思うがいい……今からお前は俺の剣術を受けるんだ……俺は滅多に技を使わないが、 やむを得ないと判断した! 」

「おぉ~! 私本物の勇者の剣術を見るの初めて! 楽しみぃ! 」


エインは相変わらずの様子。

すると彼女は何を思ったか、 腰に掛けていた剣を地面に置き、 勇者と同じような構えの姿勢に入った。


「……では僭越ながら……私もちょっとした技を……」

「剣を捨てた……? 」

「一体どうして……」


見ていた村人達はどよめく。

勇者はエインの行動に少し動揺を見せるも、 以前として威勢は分からず。


「っ……いい度胸だ……! 」


そして二人はお互いに睨み合う形で構えた。

その雰囲気に村人達は勿論、 勇者の仲間達も思わず息を飲む。

しばらく沈黙が続き、 風の音も聞こえなくなった。

その瞬間


『ビュオッ! ! 』


と、 凄まじい突風と共に勇者は目にも留まらぬ速さでエインに突進し、 剣を抜きながら斬撃を放った。

そして勇者はエインの背後へと通り抜けていった。

エインはというと反応ができなかったのか、 まだ構えた姿勢のままだった。


「あぁ……まさか……負けたのか? 」

「やっぱりね……凡人が勇者に敵う訳が無かったのよ……」


その光景を見ていた誰もがエインの敗北を確信した


……かと思われた





「……無名……参……」





エインが静かにそう呟いた次の瞬間、 勇者が持っていた剣が縦に真っ二つになってしまったのだ。

明らかに普通でない、 剣の破損のし方からするにエインが何かをしたのは明白だった。


「なっ! ? 俺の剣が! 」

「まさか! いつの間に斬ったの! ? どうやって! ? 」

「何も見えなかったぞ! 」


エインを除く全員が何が起こったのか分からず混乱する。


「うぅ~ん……切り口がちょっと微妙だったかなぁ……やっぱり毎日やってないと訛っちゃうなぁ」


エインは余裕な様子を見せ、 そんな事を呟きながら剣を拾う。

そう、 先程の瞬間彼女は、 勇者の剣がすれ違うように躱しつつ、 目にも留まらぬ速さの居合切りで剣を斬ったのだ。


それも剣を使わずに……


普通ではない、 常人を遥かに凌駕する速度と反射神経、 そして技術、 相手の勇者でさえもその速さを捕らえる事は出来なかったのを見るに、 最低でも草紋級の勇者以上の強さなのは確実だ。

そんな彼女の剣術を前に勇者は戦意喪失、 その場でへたり込んでしまった。

それを見た勇者の仲間たちは戦士の男を除き、 エインを囲った。


彼らは彼女に向かって、 勇者様にこんな恥をかかせるなんて許せない だの……勇者様に謝罪しろ だの……無茶苦茶な事を言う。

……え……えぇ……仕掛けたのは勇者の方だと思うんだけど……

当然、 そんな彼らの言い草にエインは困惑する。

すると女魔術師は杖を構え、 彼女の周囲に炎の球を出現させた。


「今なら許してあげる……今すぐに勇者様に謝罪しなさい! 」

「えぇ……私悪い事してないのに……」


エインがそう言った次の瞬間、 火球は一斉にエインに向かって飛んで来た。

しかし……


『……ッ! 』


エインに直撃する前に、 火球は何かに斬られるように掻き消えてしまった。


「な……何が……」

「危ないなぁ……飛んできた火が家に燃え移ったら大変だよぉ……」


エインは素手で炎を斬ったのだ。


「はぁ……もういいかなぁ? 決闘も終わったし……流石にこれ以上構うのも……」


エインがそう言うと女魔術師はへたり込んでしまった。

そして、 エインはもう一人の勇者の仲間である盗賊の少女を見る。

勝てないと悟ったその少女は武器を収め、 知らん顔する。


「……それじゃ私はこれで♪ 」


それだけ言うとエインはその場を立ち去った。

・

・

・

その後、 エインを恐れたのか勇者一行はいつの間にか村から消えていた。

エインはそんな事に気にも留めていない様子だったが……

そしてエインは小屋の中で剣の手入れをしていると


「あの……エインさんいますか……? 」


勇者に殺されかけた村人が訪ねてきた。


「あぁさっきの! 全くとんでもない目に遭って大変だったねぇ~」

「はい……貴女が助けてくれなかったら……俺は今頃……本当にありがとうございました! 」


頭を下げる村人にエインはおろおろする。


「いやいやそんな! 私はただあの勇者危ない人だなぁって思って何となく止めただけで……」

「貴女はあの勇者なんかよりもよっぽど勇者らしいです……せめて何かお礼ができたら……」

「そんなのいらないよぉ……気まぐれでやっただけなんだし」


そんな会話をしていると……


「ここに……先程の剣士はいるか……? 」


エインの小屋にもう一人、 誰かが訪ねてきた。

その人物は……


「あれ? 君は……」

「ゆ、 勇者様の……! 」

「失礼する……」


なんと、 勇者の仲間の中にいた戦士の男だった。

男は小屋の小さな扉をくぐり、 中へ入ってきた。

エインはまた戦いになるのではないかと少し不安そうな様子を見せる。

村人は男から漂う雰囲気に怯えたのか、 小屋から出て行ってしまった。


「……えっと……何か……」


恐る恐る用を聞くエイン。

すると……


「剣士殿……いや、 剣士様……折り入ってお願いがあります……」


男は突然改まった様子でエインの前で正座をし


「どうかこの俺に……剣士様の剣を教えて頂きたい! 」


土下座をしながら言い放ったその言葉はエインの予想を遥かに上回った。

戦士はエインに弟子入りしたいと志願しに来たのだ。

突然の申し出に当然エインは困惑する。


「いやいやいやいや! え、 何で! ? どうしたの急に! ? だって……君は勇者の仲間だよね! ? 」

「俺は以前から彼らの仲間である事に疑問を抱いていたんです……勇者と呼ばれる者があんな者でいいのかと……俺はあんな人間の仲間で本当に良いのかと……そこで理由も躊躇もなく村人を救う貴女を見て気付きました……俺はこのままではいけないと……」


……だからってそんな……私は教えられる事なんてないのに……

彼女はこれまでの人生で誰かに何かを教えるなどといった事は一切したことが無い。

当然、 自分はそんな者に向いてるような人格者ではないのも自覚していた。

そんなエインが困惑しているのを余所に男は


「先程の事を黙って見ておいて虫がいいのは承知の上です……しかしお願いです! 俺にあなたの剣術を教えて頂きたいのです! 」


そう言うと男は再びエインに深々と土下座した。

剣術とは心……優れた戦士であるほどその技を見るだけでその人の心の内が直感で分かるようになるという……戦士の男はエインの剣技を見て、 彼女であれば今の自分を変えられるのではないかと直感していた。

そんな男にエインは一つ心配をしていた。

仲間である勇者たちの事だ。

その事を聞くと男は少し眉をひそめた。


「彼には既に断っておきました……彼も以前から俺の事を毛嫌いしていたようで……」


勇者のパーティの中で唯一真面目な性格をしていた彼は、 以前から勇者の仲間から浮いた存在であったため、 勇者自身もこれを機に戦士の男をパーティから追い出したのだ。

……私の剣術はパパから受け継いだモノ……私自身、 この剣術はどうやれば使えるようになるのかっていうのはよく分かってない……かと言って行く宛も無くなったこの人をこのまま追い返す訳にもいかないしなぁ……

彼がこうなった原因は自分にもあると感じたエインは少し悩む。

そうして考えた末にエインは戦士の男を受け入れる事に決めた。


「……名前は? 」


「『ガルン』と申します……」


するとエインは軽くため息をつくと


「私はエイン……気持ちは分かったよ……ただ私、 誰かに何かを教えるなんてした事ないから……ガルンが求めてるモノが手に入るか分からないよ? 」

「それでも構いません! このガルン、 一生付いて行きます! 」

「一生はちょっと……」


こうして、 弟子としてガルンがエインの仲間に加わる事になった。

・

・

・

その夜……

村人達に挨拶を済ませたガルンは早速エインに呼ばれ、 村付近の森へ向かった。

そこでガルンが見たのは……


「……ッ! 」


月明かりに照らされる森の吹き抜けの下で、 まるで踊るように剣術の舞いをするエインの姿だった。

それは踊っているようにも見える、 しかしどの動きも繊細さと鋭さを感じさせる。

そして何より、 エインが振っているのはただの棒切れだったのにも関わらず、 ガルンにはそれが白刃の剣に見えたのだ。

……あれが師匠の剣術……今日の決闘でもそうだったが、 人間業とは到底思えん……

ガルンが圧倒されていると、 エインは彼に気付いた。


「おっ、 来たね……」

「素晴らしい技術です……師匠」

「ちょっとした準備体操だよ♪ 」


そう言いながらエインは棒を捨てる。

そして、 ガルンはエインが呼び出した理由を聞くと、 エインは少し微笑みながら言う。


「……ガルン……今ここで私と戦おっか」

「え……! 」


それはあまりに唐突だった。

しかし、 ガルンは慌てるも咄嗟に背中の大剣を手にする。

対し、 エインはあの時勇者にして見せた構えの体制に入る。

次の瞬間……


「ウッ……! ! ? 」


ガルンは息が詰まる程の冷たい殺気をエインから感じた。

彼女はただ微笑みながらガルンを見ているだけだった。

しかし、 その瞳の奥から得体の知れない覇気を感じる……

ガルンはその凄まじい殺気に全身が凍り付いたように動けなくなってしまった……

すると


「……凄いねぇガルン、 大体の魔物さんはこれで逃げちゃうのに♪ 」


エインはいつの間にかガルンの目の前に立ち、 彼の肩をポンポンと叩いてきた。

気付いた時には彼が感じていた殺気もすっかり消えており、 いつもの優しい眼でこちらを見ていた。


「え……師匠……? 」

「ごめんね急に、 ちょっと試させてもらったんだ……」


それを聞いたガルンは一気に脱力する。


「……殺されるかと思いました……まさかあれ程の殺気を出せるとは……」

「殺気をコントロールする修行もしてたからね♪ パパはもっとすごかったんだよぉ? 」

「……師匠の父が……あのような事を……? 」


そう言うとガルンにエインはそっと目を逸らし、 少し苦笑いする。


「……まぁ……うん……すごく怖かったよ……」


……師匠の父がどれ程のモノだったのかは……師匠の殺気の凄まじさが物語っているな……

ガルンは彼女の身に何があったのかを何となく察する。

そしてエインは気を取り直し、 ガルンに言う。


「……さぁて、 今日はここまで! 明日からは本格的に稽古を始めるからね♪ 」

「えぇっ、 これって稽古だったんですか! ? 」

「稽古っていうより……ちょっとした勉強? 私もパパとの稽古を始める時に同じ事されたから……」

「は……はぁ……」


勉強にしても少しやりすぎなのではと感じたガルンだったが、 そこは胸の奥にしまっておく事にした。

そして二人は小屋へと戻った。

・

・

・

「……」


ガルンは一つのランプに照らされる部屋の中でさっきのエインの事を思い出す。

……あれが師匠のレベル……

ガルンは自分よりも遥かに小柄で華奢な少女の殺気に動けなくなったことをまだ信じられなかった。

そして、 ガルンは呑気な寝顔で眠るエインを見る。


「……俺は……師匠のような剣士になれるのだろうか……」


ガルンはふとそんな独り言を呟いた……

・

・

・

翌朝……


「師匠……師匠、 起きて下さい……! 」


ガルンは慌てた様子でエインを叩き起こす。

彼女は開かない目でこちらを見る。


「うぅ~……何ぃ……? 」

「大変です……王国の騎士団が……」


「……んぇ? 」


…………

村の入り口にて……

甲冑を来た兵士達が村に押し掛けていた。


「バルキス騎士団だ! ここに旅人を名乗る反逆者の女がいると聞いた! 大人しく出頭せよ! 」


一人の兵士がそう言いながらエインの似顔絵が描かれた手配書を突き出す。

その手配書を見た村人たちはどよめく。

そこにエインとガルンが来た。

すると、 彼女を見た兵士達は武器を構え、 彼女を取り囲んだ。


「反逆者エインだな! 大人しく出頭せよ! 」

「し、 師匠! 」


王国からの騎士団の襲来、 一体どうなってしまうのか……

続く……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。