表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たびガール  作者: 諏訪いつき
5章 日光編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/64

3話 いろは坂だって超えて

 次なる目的地は東照宮の表門を出て右に曲がって、まっすぐつながる道を二百メートルほど歩いたところ にある。この道は綺麗にまっすぐに伸びた綺麗な道の端に高木の伸びる、趣深い道となっていたが、計画が押している茉莉にとってはそれを楽しんでいる余裕などない。できる限り、早歩きで向かった。

 日光二荒山神社は、3つの社からなる神社で、祭神はそれぞれ大己貴命、田心姫命、味耜高彦根命。日光にそびえたつそれぞれの山にその神々が宿っているとされており、一番有名な男体山には大己貴命、女峰山には田心姫命、太郎山には味耜高彦根命が充てられている。今参拝しているのは3つのうちの本社と呼ばれる社で、他の社は奥日光の中禅寺湖畔、そして標高約二千メートルの男体山の山頂にある。男体山の山頂は言わずもがな、中禅寺湖畔も周る時間はなさそうなので、今回はこの社だけの参拝になる。

 この神社そのものは拝観料を取っていないため、人は多いながらも比較的スムーズに参拝できた。賽銭を入れて、二拝二拍手の後、やっぱり何を願えばいいかわからなくなって、すぐに一拝をしてその場を後にした。そのあと、境内の奥の方にある霊泉や、連山崇拝所をそれぞれ周ったら、そこから少し離れたところにある、徳川家の三代目将軍家光の霊廟がある輪王寺大猷院へと足を向けた。

 輪王寺大猷院は怖い顔をした仁王の像が飾られている門の奥を行き、階段を登ってもう一個門をくぐってはさらに階段を登り、もう一個門を超えた場所にあった。どの門も赤と金の豪華な装飾があしらわれており、その荘厳さは東照宮のそれに引けを取らない。

 こちらも本殿の中まで入れるようで、十数人を代わる代わる入れているためか、3つ目の門からいつも通りの混雑模様だった。表情ではうんざりしている茉莉も、もうそれに慣れ始めている。幸いなことに、さほど待たず中に入ることができた。中も天井にまで及ぶ絵や彫刻に彩られている。それらの解説や、破魔矢の解説を住職がしてくれていたが、茉莉の頭の中は別の事でいっぱいで、話半分に聞いている、という状態になっていた。

「ここでこの混雑なら、この先のバスはどうなってるの?」

 この先は、バスでいろは坂を超えるという計画になっている。計画の中に混雑の「こ」の字も入れていなかった茉莉にとっては、大きな不安要素となっている。その不安を心の中で見つめていたら、住職の説明も終わってしまったようで、あまり印象に残せないまま本殿を去った。最低限、本殿の外観と今まで通ってきた門を写真に収めて、日光の社寺を後にした。収めた写真の大体は、混雑も一緒に写ってしまっていた。

 社寺から少し歩いたところには、安川町というバス停があった。ここからなら、いろは坂を超えるバスはこのバス停にも留まる。いやな予感は綺麗に的中して、すでにバス停にはかなりの列ができている。それでも、このバスを逃せば、いろは坂を超えること自体を諦めなければならない。

 バスは10分くらい待った後に来た。クロスシート形式の観光バスで、収容人数もそれなりにありそうだが、今まで経験してきたゴールデンウィークの混雑相手には苦戦をしそうな印象。印象は的中して、茉莉はそのバスの席に座ることができず、中央の通路に立っているしかなかった。日光の社寺を歩いてきた疲れがたまっているところにこの仕打ちは苦しいが、後の客は定員オーバーでそもそも乗ることすらできていなかったため、不幸中の幸いともいえる。列の先端でバスに乗れなかった人へ心の中で「本当にごめんなさい」と謝りながら、茉莉はバスに揺れる時間を過ごした。手すりもつり革も無いので、立っているのもなかなか難しい。

 いろは坂は、日光市街と中禅寺湖のほとりまでをつなぐ観光道路で、第一いろは坂、第二いろは坂を合わせて48個の急カーブがあることから、その名があてがわれたとされている。坂の前にはそれぞれ一文字のひらがなが書かれた看板が設置されている。立て続けに「い」と「ろ」の看板を見つけた茉莉は、その法則にいち早く気づくことができたが、「へ」を見失った辺りから、看板を探し出すのを辞めてしまった。この道路も車でそこそこの混雑ができていたが、日光がさらに混雑する紅葉シーズンでは、通常この坂を通過するのに2~30分かかるのに対して、最悪の場合2~3時間もかかるようだ。バス内のアナウンスで、今回はおよそ一時間以内程度で通過できると先程知らされた。カーブを曲がるたび車体は大きく揺れて、バランスを保つのにかなり体力を消費する。これがあまりに疲れるので、時折、座って手元の端末で電子書籍を読んでいる乗客に羨望のまなざしを向けた。ここから見える運転手は、よくわからないレバーをせわしなく操作してバスを運転していた。

「『た』ってこれ……何文字目?」

 携帯の電波のつながりも怪しく、そもそも携帯を持てるほど姿勢に余裕もないので、そんなことばかり考えていた。

 本来は停車するはずのいろは坂の中間地点、明智平バス停も満員という理由で通過したバスは、そのまま茉莉にとって気の遠くなるような時間をかけて第一いろは坂を走破した。間もなくして、バスは茉莉の目的地である中禅寺湖バス停に停車した。このバス停は華厳の滝も中禅寺湖も近いので、茉莉のほかにも多くの乗客が下車していった。

「はぁ、本当に疲れた……」

 バスに揺られたせいか、若干乗り物酔いを再発させた茉莉は、ふらつきながらも華厳の滝の方へと足を向けた。

「ここまで来たんだ。できる限り、見れるものは見ておかないと」

 そんな『もったいない精神』に似た何かしか、彼女を突き動かしているものはもう無かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ