ゲンキンなやつら
あらすじ
砦を突破したリンスたち。
そこにはビル群が広がっていた・・・
人の噂も七十五日というが、まだ一晩しかたっていない「壁の崩壊」は既に人々のトレンドから外れかけていた。
ただの従業員の不始末による事故として処理された上 死傷者は0人であり テロの可能性もないと発表されたが故に、ニュース番組も一度取り上げれば十分だと判断したのだ。
あの壁は、名目上は「知能を持った動物たちから旧人類を守る」という意味を持っていたが、実際はちゃんとした手続きさえ踏めば動物だろうが何だろうが自由に行き来できていたので、壁の崩壊を脅威だと感じる者はそれ程多くはなかった。
そもそも既に壁の中にも動物は一定数おり、皆 社会に溶け込んでいた。
それに、メディアがこぞって「動物は危ないものではない」という"常識"を植え付けていたのだ。
なので、この"事故"を深刻に考える者は少数派であった。
そのことを象徴するような景色がリンスたちの前に広がっていた。
背広を着て出勤する者たち。その顔には警戒心や恐怖心などはなく、ただ"代り映えのない毎日"を生きているだけだった。
リンスたちにとってもそれは都合がよかった。
事故の張本人であるという事実を知る者はいないため、何か行動を起こしても変な色眼鏡で見られるわけでもなく、ただその"行動"自体が評価対象となるからである。
人々の意識を変えるのにそれは重要なことであった。
さて 小難しい話はこれくらいにして、ここからは楽しいエンタメをお届けしましょう。
それは人通りも少なくなってきたお昼前の事である。
さほどお金を持っていない二人は 都会の物価の高さに圧倒されつつ、空腹に苦しんでいた。
昨日までは 腹が減ったら火をつけて鍋をつつき、緊急時には畑の主に恵んでもらい、最悪"ソリ"で培養中のきのこや食べられる野草などを探して飢えを凌いでいた。
が、都会の街中ではそんなことはできない。
畑などなく、道も野草が生える余裕のないほど整備されているし、
そもそも人目のド真ん中で鍋をつつける勇気がなかった。
人間、腹が減ってはロクな思考回路になるはずもなく・・・
「ダクトよ! ダクトがあるわ!」
「おお! ここの匂いを嗅ぎながら水を飲めば絶品フルコースだ!」
「ぐぅえ! ごほっ! げほっ! 何よこの匂い!? うわあ! ポップコーンに虫が湧いてるわ!」
「チクショウめ! この甘さで別腹まで目覚めやがった!」
・・・と、"てぃーんえいじゃー"らしからぬ醜態を見せながら、路地裏で途方に暮れていた時である。
「おっゴミ箱。 まだ食えそうなもんはね~かな~っと。」
「やめなさいよ。 それをやっちゃ、"人間"としてオシマイよ。」
「・・・だな。 すまんすまん。 ・・・ん?なんだこりゃ。」
そこには、捨てるには惜しいほど使用感のないアタッシュケースがあった。
「・・・まさかねぇ。」
「・・・まさかなぁ。」
「まさかよまさか。」
「・・・」
「走れ相棒!!」
ワン公はケースをひったくるように咥えて、一目散に駆け出した。
リンスも即座に理解し、ワン公の後を追った。
いくら成長期といえど空腹の二人に長距離を走れるはずもなく、ぜえぜえと息を切らしながら小さな公園のドーム型の遊具の中に入った。
「あ・・・アンタねぇ・・・ぜえ・・ぜえ・・・何かわからない・・のに・・・取ってきちゃって・・はあ・・・一体・・どうするのよ・・はあ・・・」
「よく・・考えてみろ・・・ぜえ・・・こいつを・・・こいつをだな・・・警察・・警察にだ・・・届けてみろ・・・はあ・・はあ・・・謝礼金・・として・・・大金が・・・がっぽがっぽ・・・だ・・・!!」
「中身も・・みないで・・・はあ・・・よくそんなこと・・・言えるわね・・・」
「それも・・そうだな・・・はあ・・・開けてみるか・・・」
そのスーツケースは昔ながらの完全アナログ錠であり、リンスの開錠魔法で簡単に開いた。
そして中には、それはもう"ぎっしり"と現金が敷き詰められていた。
「お・・俺・・・こんなの映画でしか見たことねえよ・・・!」
「あ・・・アタシだって! どうするのよコレ!」
「そ・・そんなこと言われたって・・・うわぁ!あそこ! さっきからずっとこっちを見てるぞ!」
「ひっ! ねえ・・・アタシの後ろ・・・だれぇ・・・?」
「だ・・・大丈夫だ! 誰もいない! うひゃぁ! 今、同じ車が通らなかったか!?」
実際は二人の思い込みなのだが、恐怖に支配された二人は涙目になりながら抱き合っていた。
「け・・・警察よ! 保護してもらえば・・・!」
「駄目だ! もし警察とつながってたら・・・俺たちの身元までバレちまう!」
二人は妄想の中で作り上げた悪の組織に震え上がっていた。
と、ここでワン公が頼れるパートナー感を存分に発揮する。
「落ち着こう! 一旦落ち着くんだ!」
「で・・・でも・・・ だってえ・・・!」
リンスは震えながら、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。
「大丈夫だ! 誰もいない! それに明るいうちは大丈夫だろう!」
「とりあえず何か食べよう! 金ならあるんだ!」
「そ、そうね・・・! 出前でも取りましょう!」
「待て! 魔法糸電話で話すんだ! 電波だとアシが付く!」
二人は遊具まで出前を頼んだ。
配達員は不審に感じたが、「釣りはとっとけ」と言われたので深く考えないことにした。
かくして二人は、同年代の男子が憧れるような体験をしながらデリバリーのピザを平らげた。
人間、腹が膨れると少しポジティブになるもので、状況を冷静に分析できるようになった二人はアタッシュケースに目を落とした。
「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・ にしても、すごい量だなこりゃ。」
「ええ。これだけあれば、毎日フルコースが食べられるわ!」
「俺、一度でいいから、ここの棚全部くれって言ってみたかったんだ!」
「ディスコでそれを言ってもまだ余るわよ!」
「いやもう、ディスコごと買えちまうぜ!」
「きゃー!夢が広がりんぐ!」
「「あーはははははは!!!」」
冷静になった二人は壊れた。
つづく




