第35話 スカウト
それから舞子が寝るまで何事もなかった。
しばらく日記を書いていないことを思い出して、寝る前に書いていない日から書き始めた。
もう夜中で少し眠いが、忘れてしまう前に書いておきたい。
「(雅道様ですね?八子様がお呼びです。私に付いてきてください)」
それは突然だった。
八子が…………?
俺は舞子側の人間やで…………?
「(は、はぁ…………)」
渋々、行くことにした。
日記を書いた紙は急いで隠したせいで、少し折れた。
廊下に出ると、安良子さんも出ていた。
きっと、安良子さんも呼ばれたのだろう。
というか、呼ばれるようなことしたか…………?
◇ ◇ ◇ ◇
八子の部屋は、全体的な御所の雰囲気とは違い、豪華な装飾が施されていた。
とは言っても、派手派手しいというほどではない。
相対的にそう見えるだけだ。
「あなたたちが、雅道と安良子ね?」
今の八子は、朝見たときとは違い、少し威圧感を放っているような気がした。
けど、怖がるほどではない。
この人が萎縮…………?
たまたまか…………?
「「は、はい…………」」
俺は恐怖よりも、困惑で少し言葉を詰まらせた。
「伝えてちょうだい」
八子は、俺たちを連れてきた男性に指示をした。
その男性は八子の方に向いていた体を、俺たちの方へ向けた。
正直に言って、この男性の方が威圧感はある。
「八子様は、あなた方を八子様の乳母、そして侍司として仕えるよう、御所望である」
「「え…………!?」」
…………頭の回転が追いつかない。
遅れて、理解が追いつく。
…………八子側につけと!?
「もちろん、八子様に仕えれば今の待遇より良くするつもりである」
この通りか分からないけど、あの上級女房が言っていた環境が良いって…………。
というか、なんで俺たちなんや…………?
「あ、あの…………お気持ちは嬉しいですが、なぜ私たちなのでしょうか?」
先に聞いたのは安良子さんだった。
「噂を聞いてね。あなたたちが来てくれれば、この子を安心して育てられると思ってね」
さっきは困惑して気付かなかったが、舞子と同じく子供を抱っこしていた。
「「…………」」
俺たちは言葉を出せなかった。
ここで安易に鞍替えは出来ない。
ましてや、敵側だ。
舞子は俺を信用して、側の侍司にしてくれた。
ここで鞍替えすれば、不義理も良いところだ。
「どうするの?」
八子からも迫られ、俺たちは意を決して答えを出した。
「「私たちは——」」




