第30話 お引越し
俺は、荷物をまとめて、安良子さんのと一緒に、牛車に載せた。
舞子からの指示だった。
制服の入った風呂敷は奥底に入れた。
もし、見られたら大変なことになるからね。
色んなことがありすぎて、最近忘れかけてたけど…………。
◇ ◇ ◇ ◇
それから、引っ越す次の日まで、舞子に仕えていた。
安良子さんは、列の中ほどの牛車に他の女房の人と乗っていた。
俺は、舞子の牛車の側で警備していた。
意外とスピードは遅いから、余裕でついて行ける。
「ねえ、雅道」
牛車の中から、舞子が話しかけてきた。
周りの音で少し聞こえにくかったけど、何を言っているかは分かる。
「何でございましょうか?」
「安良子とお付き合いをしているの?」
「…………え?」
それは突然のことだった。
思わず、立ち止まってしまった。
その間も、牛車は進む。
「何をしている?」
「あっ、すみません…………」
後ろの侍司に声をかけられ、我に返った。
…………付き合ってる!?
いやいや、隠しているとはいえ、俺と安良子とは未来人と助けてくれた人っていう関係。
表面でいうなら、ただの女房と元町人という関係。
家柄的にも無理やないかい!!
「ど、どうしてそのように見えたのでしょうか…………?」
「なんとなく、そんな感じがしたから」
そんな感じ?
他の人が見ている業務中、安良子さんと接した記憶はあんまりないぞ?
確かに、業務外では殆ど安良子さんとしか、接してないけどさ…………。
「なんて、冗談よ」
中から、笑い声が聞こえてきた。
その笑い声は、クスクスといった小さな笑いではなく、子供が楽しくて笑うような感じだった。
「そ、そうでございましたか…………」
「雅道も、反応がおもしろいわね」
その笑い声は、御所に着くまで続いた。
そのおかげか、この行列の雰囲気は和やかだった。
御所はとても立派なところだった。
帝天側であろうお出迎えも大層なものだった。
しかも、あちこちに見物人がぎっしりと我先にと言わんばかりに、この行列を見ようとしていた。
行列は、帝天の住む建物の前に止まった。
俺は、舞子と一子を抱えた和子さんを先頭に、次々と牛車から出てくる人たちを見送って、最後尾で歩き出した。
ここでの任務は、部屋の中でも入り口付近で警備をすること。
流石に舞子の近くは、帝天の侍司が警備するらしい。
まぁ、帝天に何かあったらあかんからやろうね。
「東宮舞子、ただいま御所に戻って参りました」
舞子が頭を下げたのと同時に、舞子側の全員が頭を下げる。
「うむ、ご苦労だった」
相変わらず無表情の一馬帝天はそれだけを言って、それ以上は何も言わなかった。
それを悟ったのか舞子と乳母が立ち上がり、それに続いてどんどん歩みを進めていく。
すると、舞子たちの後ろを歩いていた男の人が、突然立ち止まり、俺に先に行くようにと小さく合図を出してきた。
解釈が合っているか分からないけど、とりあえず舞子達の後ろを安良子さんと歩く。
安良子さんの様子は少しぎこちないように見えた。
多分、疲れだろう。
歩いた先の部屋は、やっぱり豪華だった。
むしろ、想像を超えるぐらいだった。
間取り的には、帝天の部屋の東側だった。
西側の対極には、八子たちが住んでいる。
俺たちは次々と運ばれてくる荷物をテキパキと配置した。
「内装はそのまま」と指示があったから、すぐに配置できた。
「皆、お疲れ様。今日はゆっくり休みなさい」
続々と退勤していく。
俺は安良子さんが倒れてはいけないと思って、近くを歩いた。
「安良子さん、お疲れ様でした」
「ま、雅道さんもお疲れ様でした…………」
「大分、お疲れじゃないですか?」
「牛車に乗っていたので、雅道さんほどじゃ…………」
安良子さん、大分やつれている気がする。
タイムスリップの時に逆戻りしている。
「何かあったら言ってくださいね」
「あ、ありがとうございます…………」
そういう言って、俺たちは分かれた。
荷物は、全部運び込まれていた。
荷物検査をされた痕跡もなさそうだった。
…………良かった。




