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安良子の表と裏-一族の繁栄と政治闘争、その陰で交錯する人々-  作者: 綿ダッコ
第1章~タイムスリップ~

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第2話 大、胆……

 「(殿方がここで侍司(はべりづかさ)つまり、警備の職に就けないか舞子様に聞いてみます。それまでは、ここに隠れておいてください。食事も私のを分けますので)」


「(ありがとうございます…………)」


 それから、安良子さんはまた表へ戻っていった。


 紙に何かを書いている音がしてきた。


 仕事中やったんかな…………?


 だとしたら、申し訳ない。


「(雅道様……さん…………?、漢詩は出来ますか?)」


 どうしようかと、キョロキョロしていたら、一つの冊子を持って安良子さんが顔を覗かせた。


「(あっ、全然雅道で大丈夫です。…………漢詩、全然出来ないです)」


「(分かりました。じゃあ雅道さん、この冊子で勉強しましょう。舞子様に推薦する理由が欲しいのです)」


 声量はさっきまでと一緒だった。


 けど、声色は落ち着いていた。


 …………多分。


「(まず、読み方は——)」


 安良子さんの教え方は、本当に上手かった。


 舞子の目に留まった理由が分かった気がする。


 正直、今の古典の先生よりも安良子さんに教えて欲しい。


 …………今言ってもしょうがないんですけどね。


「(分かりましたか?)」


「(はい、何と、なく、は…………)」


 唾を飲む度に、喉に激痛が走る。


 上手く返事が出来ない。 


 さっき、走ったせいだろう。


「(す、すみません。喉が渇いてて…………)」


「(分かりました。すぐにご用意します)」


 安良子さんは、表に行った。


 油断したら、喉の激痛にやられそうになる。


 おこがましいことは分かっているが、早く持ってきて欲しい。


「(すみません…………。お水を貯めておく樽になかったので、一旦私が飲んでいたものを)」


 なら、しゃぁ…………なくないな!?


 いやいや、初対面の人に間接キスをさせるか!?


 しかも、異性にさ!!


 この時代に間接キスの概念があるのかは知らんよ?


 けど、俺の辞書にはあるんやって…………。


「(い、いえ、なら大丈夫です…………)」


 安良子さんは、不思議そうに首を傾げていた。



アニメなら、頭の上に「?」が付いている。


「(私は、喉が渇いていないので、大丈夫ですよ?)」


 いや、そういうことじゃないんやって…………。


「(喉が渇いているのなら、飲んだほうが良いです)」


 安良子さんは、上目遣いでお椀を持ち上げた。


挿絵(By みてみん)


 俺は、その状況に耐えきれなくなって、渋々受け取った。


「(ん、冷たい…………)」


 さっき…………いや、現代に居たときから冷たい飲み物を飲んでいなかった俺にとって、生き返るような冷たさだった。


 間接キスのことなんて、もはや、どうでも良くなる程には。


「(暑かったですよね…………。気付けず、申し訳ありませんてした…………)」


「(い、いえ…………)」


 安良子さんの方を見ると、妙に意識してしまう。


 返事すら、しっかり出来ない。


「(体調は大丈夫ですか?)」


 安良子さんに飲み終えたお椀を渡すと、俺の額に小さな手を当ててきた。


 …………近い。


「(あ、安良子さん!?)」


 もはや、「知らない人に詰められてる…………」なんていう恐怖はない。


 「なんでここまでするんや?」という気持ちの方が強い。


 それに、こんなに異性の顔が近ければ、動揺するに決まっている。


「(よく分からないんですけど…………大丈夫そうですね)」


 安良子さんがようやく離れて、ホッとしたのか、胸を撫で下ろしていた。


 安良子さんを直視出来ない。


「(井戸から取ってきますね)」


 そう言って、安良子さんはまた表に行った。


 俺は、しばらくの間、地蔵のようにその場に硬直していた。

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