第25話 どういうことよ!!
タイムスリップした時よりも涼しい朝だった。
というか、もう夏終わるんじゃね…………?
そういえば、今日は安良子さんより早く起きてんな。
俺は着替えて、朝ごはんを作った。
2人分の食事を作ることが日課になっていた。
それでも、安良子さんが起きてくる様子はない。
朝ごはんを持っていく時に、様子を見よう。
「安良子さん?」
御簾の前から声を掛けても、返事が来ることはなかった。
嫌な予感がして、俺は御簾を上げた。
「安良子さ…………寝てるだけ?」
中に入ると、静かに寝息を立てていた。
「安良子さん、起きる時間ですよ」
俺は体を揺すった。
すると、安良子さんはゆっくり目を開けた。
「もう少し…………」
「何言ってるんですか、朝ごはんも出来てますよ」
「えっ、もうそんな時間なんですか!?というか、雅道さんが…………。すみません、すみません」
良かった。
寝坊しなくて。
「全然いいですけど、寝ているだけで良かったです」
「すぐに準備しますね…………」
「早めに作ってるので、ゆっくりで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます…………」
◇ ◇ ◇ ◇
今日は、立ち入りを禁止しなかった。
だからか、結構な人数の上級女房が居る。
「そういえば、紅姫はまだ来ていないの?」
紅姫…………?
上級女房のことかな?
というか、誰も反応せえへんやん。
「…………お待たせしました」
すると、1人の上級女房が入ってきた。
「紅姫、大丈夫?」
何かあったんかな…………?
「…………舞子様、少しよろしいでしょうか?」
「ええ、良いわよ」
紅姫は姿勢を正した。
…………重要なことなのか?
「…………舞子様、女房を辞めたく存じます」
「…………どういうこと?」
いや、舞子冷静やな。
というか、なんで急に…………。
宴をしたばっかりやぞ。
「実は、八子様からお声が掛かりまして…………」
…………は?
いやいや、しんどくなって辞めるってことなら、まだ分かる。
やけど、八子から声が掛かったから…………?
「ちょっと、どういうことよ!!」
和子さんが声を荒げた。
それが、普通の反応だろう。
舞子は顔色すら変える様子もない。
「舞子様を裏切るっていうの!!この大変な時期に!!」
紅姫は、うなだれている。
流石の舞子ですら、怒っていい案件だ。
まだ、顔色を変える様子もない。
「何か言いなさいよ!!」
和子さん!?
紅姫の方へ走ったかと思えば、取っ組み合いが始まった。
俺はすぐに和子さんを引き離した。
初めて巳之助さんと対決した時以上の力を感じた気がした。
巳之助さんも騒動を聞きつけて、部屋の中に居た。
「…………どうして、八子さんの方へ行こうと思ったの?」
和子さんはまだ怒りが収まっていないらしい。
まだ紅姫の方へ行こうとする。
俺は体全体を使って、それを引き留めている。
早く、答えてくれ。
「…………環境が良いからです」
「ちょっと!!」
和子さんの力がどんどん強くなった。
1人じゃ、抑えられないかもしれない。
「待ちなさい、和子」
舞子の一声で、どうにか和子さんの力が弱まった。
まだ体に押されている感覚が残っている。
「…………八子さんの方へ行きたいなら、行きなさい。良くできなくて、ごめんね」
紅姫は、一礼して部屋を去っていった。
「和子」
「も、申し訳ありませんでした…………!!」
和子さんは冷静になったのか、土下座をしていた。
「良いのよ。和子にも思うことがあったのでしょう?」
そう言って、舞子は和子さんに近づいた。
そして、頭を優しく撫でていた。
お母さんと娘ぐらいの年の差に見える。
「でもね、あの人にはあの人の事情があるの。私は、それを止めないわ」
和子さんは、完全に泣いていた。
もはや、子供かと思うほどには。
周りの空気が重い。
取っ組み合いは解決したはずなのに、廊下で一息休憩したいぐらい重かった。




