第15話 発言には……
「安良子さん、少しよろしいですか?」
「大丈夫ですよ」
食事を渡して、しばらくしてからもう一度、安良子さんの部屋の前に行った。
安良子さんは、まだ何かを口に含んでいる様子だった。
声色も、朝の時のようだった。
それはええんやけど…………、
ご飯粒が口元に付いてる…………。
安良子さんは、それに気付いていない感じだ。
というか、扇子は…………?
あかん。
ツッコミどころが多すぎる…………。
「…………明日、内宮を案内してもらってもいいですか?舞子様に言われたので」
「ごほっ、ごほっ!!」
「だ、大丈夫ですか…………!?」
安良子さんは、盛大にむせていた。
人が居ない間に背中をさすっておいた。
それぐらいしか出来ない。
「す、すみません…………!!」
安良子さんは、ようやく落ち着いた様子で、顔を上げた。
「って、きゃ!?」
「あっ!?すみません!!」
安良子さんが落ち着いたのはいいけど、安良子さんの右斜め前からさすっていたのを忘れていた。
上げた安良子さんの顔がめちゃくちゃ近かった。
「すみません…………大丈夫ですか?」
「は、はい…………。案内ですね。分かりました」
安良子さんは下を向いたまま、部屋の奥へと行ってしまった…………。
…………近かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「雅道さん、起きておられますか?」
「あっ、はい…………」
昨日はある意味、波乱万丈だった。
だからか、寝付くのは早かった。
けど、何回か夢を見て、起きた。
内容は覚えてないけど…………。
「では、行きましょうか」
安良子さんは、舞子の部屋の方へと歩き出した。
その様子は、昨日と何も変わっていない。
「ここは舞子様や舞子様に仕える人の部屋が入る建物です。この門の内は全て、舞子様のためのものです」
舞子一人のためにあるんや。
…………じゃあ、おかしくない?
この時代は、一夫多妻制が普通なはずだ。
なら、内宮はいくつあってもおかしくない。
俺が知っている内宮は、一つしかない。
「内宮はこの一つだけですか?」
「…………雅道さん、こちらへ」
途端に、安良子さんの顔から笑顔が無くなった。
…………マズイこと聞いたんか?
◇ ◇ ◇ ◇
連れられたのは、部屋のある建物の真正面にあった、蔵だった。
蔵の中は、日が指しているけど、暗かった。
おまけにジメジメしている。
見た目と雰囲気が乖離しまくっている。
「…………雅道さん、お気を付けください」
やっぱり、何かマズイこと聞いてしまったんか…………。
「ここには、舞子様のお父様である基晴様もいらっしゃいます。他の家にまつわることは、極力こちらから言わないようにしてください」
…………敵に関しては、こちらから話題に出すな、と。
「…………もし、聞かれていたら、お咎めどころの話ではありません!!」
安良子さんは、すごい勢いで俺の両方の裾を掴んだ。
…………それほどまでに、重大なことやったんか。
一言一言、現代よりも気を付けやなあかんねんな。
「すみません…………」
「せっかく、侍司になられたのですから、無駄になさらないでください」
安良子さんの目には薄い涙の膜が張っているのが、よく分かった。
…………俺のためを思って言ってくれているのだろう。
「…………はい。これからは気を付けます。安良子さんに迷惑を掛けないためにも」
「…………はい」
安良子さんは、蔵の入り口の方に歩みを進めた。
…………迂闊に発言出来んな。




