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『古典魔法?要らない』とクビにされた俺、自動魔法が止まった王国で“唯一まともに魔法を使える人間”でした  作者: 他力本願寺


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第27話 大陸停止

ゼクスが放った停止コマンドの波は、王国の国境を越え、瞬く間に大陸全土へと波及していった。


それは、人類が築き上げてきた文明が、音を立てて崩れ落ちていく瞬間だった。


隣国が誇る不夜の魔法都市では、夜空を焦がすほど輝いていた無数の魔灯が一斉に消滅し、完全な暗闇が訪れた。

山脈を縫うように走っていた長距離魔力列車は、唐突に推進力を失って急停止し、宙を浮遊していた輸送船は次々と不時着していく。

国家間を繋ぎ、瞬時に情報をやり取りしていた通信魔法は完全に途絶え、各国の国境を隔てていた防衛結界も、ガラスが割れるように脆く崩れ去った。


「どうなっている! 魔力供給が完全に絶たれたぞ!」

「『強制再起動フォース・リブート』! 『自動復旧オート・リストア』!」


各国の魔術評議会に所属する最高峰のエリート魔術師たちは、顔を青ざめさせながら、分厚い魔道書を手に起動句を叫び続けた。

だが、どれだけ大声で命令しようとも、システムからの応答は一切ない。

彼らもまた、王国の魔術師たちと同じだった。魔法の理を理解せず、ただ与えられたボタンを押すことしかできない、便利な道具の奴隷に過ぎなかったのだ。


大陸中が、かつてないパニックと絶望の底に沈んでいく。


そして、震源地である王都もまた、完全な暗闇に飲み込まれていた。

だが――ここだけは、他国とは決定的に違うものがあった。


「慌てないで! まずは自分の足元を照らす光を!」


暗闇の広場に、よく響く凛とした声が飛び交った。ミリアだ。

彼女は両手から温かな『灯火』を生み出し、周囲を明るく照らし出した。


「通信魔法は死んでいます! 各班、紙の手順書通りに動いてください! 連絡は口頭伝達と、手動の光信号で行います!」


若手教師のロイドが、学院生や衛兵たちに羊皮紙の束を配りながら指示を飛ばす。

自動魔法が使えなくなった今、遠くの相手に念話で伝えることはできない。だからこそ彼らは、俺の授業で学んだアナログな手法に切り替えていた。


高所に配置された塾生が、手動の火花をリズミカルに明滅させ、遠くの班へと状況を伝える。

それを受け取った伝令役が、自分の足で走り、直接言葉で指示を届ける。

「時代遅れ」「非効率」とエリートたちに嘲笑われていた手段が、今、完全に沈黙した世界で唯一の『確実な連携網』として機能していた。


「怪我人はこちらへ! 慌てず、順番に並んでください!」


セレスティア率いる治癒班は、手動治癒の基礎工程を完全に自分のものにしていた。

彼女たちは暗闇の中でも冷静に傷の断面をイメージし、祈りと技術を結びつけて、混乱で転倒した市民たちを次々と救っていく。


「結界の要所は俺たちが固める! 魔力を力任せに出すな、流れを逸らす曲面を意識しろ!」


ガルドが陣頭指揮を執り、部下たちと共に局所的な手動結界を張り巡らせる。

市場の職人たちは、土と水の魔法で瓦礫をどかし、泥水を浄化して安全な飲み水を作り出していた。


俺は広場の中央で、その光景を静かに見渡していた。

俺が指示を出すまでもない。彼らは自分たちの頭で考え、その場にある問題を自らの手で解決していく。


「すごい……。本当に、全部自分たちの力で魔法を制御している……」


広場の隅で身を寄せ合っていた王国のエリート魔術師たちが、震える声で呟いた。

彼らの手には、もう役に立たない起動句のマニュアルが力なく握られている。


彼らが「要らない」と見下し、切り捨てた基礎。

それを泥臭く学んだ子どもや落ちこぼれたちが、暗闇の中で誰よりも力強く動き、世界を支えている。

その圧倒的な現実を前に、エリートたちは己の無知と傲慢さを痛感し、完全に言葉を失っていた。


「ユーリス先生。各所の応急対応、完了しました」


ミリアが額の汗を拭いながら、俺の元へ駆け寄ってきた。

その後ろには、それぞれの持ち場を安定させたセレスティア、ロイド、ガルドたちが集まってくる。


「よくやった。お前たちの学びは、大陸を覆う絶望にも負けていない」


俺が労うと、生徒たちは誇らしげに、そして頼もしく頷いた。


大陸全土が、ゼクスの放った停止コマンドによって完全な暗闇に沈んでいる。

各国がパニックに陥り、魔物と混乱の恐怖に震える、先の見えない漆黒の夜。


だが、その広大で絶望的な暗闇の中で、王都の一角にだけは、決して消えることのない温かな光が灯り続けていた。

それは、誰もが時代遅れだと切り捨てた『古典魔法塾』から放たれる、人間たちの意思の光だった。


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