四章:二十八話:7
「俺の不在も、父の遺志も、なにもかも、背負い込むことになった弟が、彼の母を弾劾するというならば協力しないわけにはいかなかった。
太合に対し、思うところもある。
利害が一致したと言えば、一致した。
ベイジルにはベイジルの事情がある。
今はまだ詳らかにはできないが、いずれ時が来たら話せることもあるだろう。
今はまだ、ゆるしてほしい」
「ダニエル様が理解し、納得しているならいいんです。
無関係の私は知らなくてもいいんです。
ダニエル様が納得しているのであれば私はなにも言う事はありません。
言葉はなくても、私はダニエル様を信頼します。これは私の意志です」
抱き着くエリンをもう一度、抱えなおし、ダニエルは歩き出す。
「伝えられる時に、伝えなくては。伝わることも、伝えたいことも、伝わらないか」
ダニエルが独り言ちる。
聞き取れなかったエリンが、問い返そうとする前にダニエルが告げた。
「屋敷を、修繕してくれてありがとう」
ふいの感謝にエリンは凍り付く。
歩くダニエルはただ前を見つめて語り掛ける。
「屋敷から過去の記憶を拭ってくれて、ありがとう。
俺一人では、踏ん切りがつかなかった」
「でも、それは、私がなにも知らなかったからであって……」
「あの食堂で再び食べることになるとは思ってもいなかった。
内装は変わっても、誰かと一緒に食べる食事は、幸せを感じた俺の記憶と繋がって、美味しい料理とともに、あの惨劇からどれだけ時が流れたかを実感させてくれた。
整えられた室内で目覚めるたびに、もう幸せになりなさいと、母に諫められているかのようなメッセージを感じたよ。
ベイジルにはしてやられたが、それでよかった。よかったんだ」
エリンの瞳が濡れる。下唇を噛み、ダニエルの肩に顔をうずめた。
身勝手さと正義感、事情を知った故の良心の呵責がグダグダに混ざりあう。
ふるふると震え、謝りたい衝動にかられた。
それさえ逃げだと理解できるものだから、エリンは何も言えなくなる。
「屋敷を綺麗にして、過去をもう過去にしていいと拭い去ってくれたのはエリン、君だ。
君の選択と行動が、俺を助けてくれた。
ありがとう。
本当に、心から。感謝している」
唇が震え、エリンは手の甲を口元に寄せた。
どうしようもない悔悟の念が、ダニエルの一言により雪がれてゆく。
「国も、王も、関係ない。俺は……」
ダニエルが一呼吸置く。
「エリン。君を、愛している。
だから、どうか。どうかこれからも、俺と一緒にいてほしい」
震える唇に、溢れんばかりの気持ちを込めて、
「私で、いいのでしたら……」
エリンが囁く。
ダニエルが口元を綻ばせた。
「家に帰ろう。明日からまた違う。新しい日々が始まる」
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